社長として、妻として、家族として
昼半ばから始まった緊急生配信及び記者会見は、十八時頃まで続いた。
「会見の内容自体は全世界に生配信しているのに、何を急いで帰る必要があるんだろうねぇ」
特に出番のなかった福乃が藍子へそう零す。藍子は苦笑いするが、これからテレビや報道の形が変わると言っていた
軽食を摘まんでいる報道陣達を伊吹の侍女達に任せ、藍子と福乃とメアリーは
「お疲れ様でした、殿下」
藍子達が大会議室へ戻ると、中にいた関係者達が立ち上がり、頭を下げる。
「ありがとうございます。
首尾はどうですか?」
慣れないが、伊吹と家族の為である。自分が第一夫人であり、親王妃であるとしても、
「アメリカを含む各国から外務省へ事実関係の問い合わせが来ていますが、十分な人員を配置しておりましたので問題なく対応出来ております。
全て事実であると共に、今回の会見についてはあくまで事実の公表のみであり、現在大日本皇国としての対応を協議中であると説明しております。
また、駐日アメリカ大使がサンダース氏を保護したいと申し出ましたので、お好きにどうぞと宿泊先のホテルを教えておきました」
藍子に問い掛けられた内閣府事務次官が答えた。
「えっと、まだホテルにいたのですか?」
藍子はライル達を
「ええ。周辺警備させていた者達からは、執事がサンダース氏に謝るよう促している様子だと報告が上がって来ています。
サンダース氏は疲労困憊の様子で、とりあえずどこか落ち着ける場所へ行きたいとの事でホテルを取ったようです。
男性様専用の客室以外は確保出来ず、お付きの女性達のほとんどが別の宿泊先を探しているようです」
今日は月曜日であるとはいえ、まだ冬休みシーズンだ。二十人前後の団体が全員分の宿泊先を押さえるのは非常に難しい。
また、男性専用の客室に入るだけなら全員でも問題ないのだが、個室で多数の女性に囲まれるのを嫌ったライルがお付きの女性達を追い出したのだ。
「アメリカはどのような対応に出ると思われますか?」
「伊吹親王妃藍子殿下からの宣戦布告と受け取る、という発言を重く受け止めるならば、今すぐにこちらへアメリカ大使が来るべきなのですが、サンダース氏の保護に関する事しか言ってきませんでしたので、本国でも意見が割れているのだと思われます。
そもそも会見を始めたのがワシントンDCの現地時間で午前零時ですから、Alphadeal本社とアメリカ政府がどこまで密なやり取りをしているのか甚だ疑問ですね」
少なくともAlphadeal本社へ事実確認をし、今後の対応をどう考えているかの話し合い程度は行われているはずだが、当事者であるサラがライルによって解雇宣告を受けて行方をくらませている。
Alphadealの対応に世界中が注目しているが、それまでに何かしらの発表は出せるのだろうかと福乃が笑う。
ニューヨーク証券取引所が開くまで、あと残り五時間を切っている。
「伊吹様の首尾はどうだろうねぇ」
福乃が先ほどよりも笑みを深めて呟く。
緊急生配信に藍子が出演したのは、VividColorsの代表取締役社長であるからだ。なおかつ、伊吹の口からAlphadealとのいざこざを公表してしまうと、国民感情の制御が利かなくなる恐れがあると参謀本部から進言されたのもある。
そしてもう一つ、伊吹は生配信中に伊吹以外には務まらない大事な役割を全うしており、今もなおそれが続いていると思われる。
「……ちょうど伊吹から着信がありました。
もしもし」
伊吹から電話を受けて、藍子がスマートフォンを耳に当てる。
「うん、そうなんだ。とりあえず伝えてみるよ。
もう少し時間が掛かりそうとの事です」
藍子のスマートフォンからは、女性の掠れた叫び声が漏れ聞こえる。
「……本当に時間掛かりそうなのかい?
もう完全に落ちてるように聞こえるだけどねぇ」
福乃が目を丸くして呟いた。
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