語るに落ちる
「『なぎなみ動画』は世界中から攻撃を受けているのによく落ちないな、よほど金を掛けて保守をしているのだろう、果たして採算が合うのか見物だ、と言っています」
「おかしいな、『なぎなみ動画』が攻撃を受けている事はどこにも公表していないはずだが。
ライルの反応が芝居でないのなら、『なぎなみ動画』を攻撃するよう指示しているのはサラの独断であると窺える。
「そんな事は誰でも分かる、世界中を敵に回しておいて攻撃されない訳がない、と言っています」
「世界中を敵に回したサービスが、世界人口の四分の一も登録者を獲得出来るだろうか」
「なぎなみ動画」はすでに世界で六億人以上の登録者を獲得している。YourTunesの登録者を抜いているのだ。
「嘘だ、架空のアカウントを作って登録者を水増ししているだけで、アクティブユーザーはもっと低いはずだ。あれだけの攻撃を受けてサービスをストップしないはずがない、と自白しています」
サラはスラングを連発し、栗田の手を逃れようとバタバタしているが、ライルも執事も侍女も助けようとしない。
「初回の入金日に収益を振り込まないような会社があるくらいだからな、ある程度の攻撃を受ける前提でサーバを用意したから全く問題ないんだよ」
「とにかく謝罪と賠償をしろ、ジニーとキャリーはうちの技術者だったのに引き抜いた、離職者も全員YourTunesへ返せ、と言っています」
「ジニーとキャリーはお前がクビにしたんだろうが。大量の離職者も、トップが理不尽な理由でクビを切るから嫌気が差したんじゃないか?」
伊吹はサラの相手をしながら、ずっとライルの反応を見ていた。ジニーとキャリーをクビにした事には特に反応を示さなかったが、「なぎなみ動画」への攻撃については分かりやすく反応した。
二人をクビにした事は把握していたか、もしくは知らされても特に何も思わないか。この二人が抜けた事に対する危機感は特に持っていないようだ。
ジニーとキャリーを追いかけて、どれだけのYourTunesの元社員が
「とにかく
伊吹は栗田にサラを放すよう指示する。難色を示す栗田だが、危害を加えようとしたらまた組み伏せて良いというと、サラから手を離した。
「株価は投資家の会社に対する評価が反映されている。Alphadealの株価が下がったのは、GoolGoalの、お前の対応がおかしいと評価がなされた結果だ。
俺が何をしようとAlphadealの株価が元に戻る事はない。Alphadealが信頼回復に努めない限りは無理だ。
俺に対して責任転嫁をし、謝罪と賠償を求めているようであればなおさら株価が戻ることはない。
俺がYourTunesにチャンネルを開設した時点で友好的な関係を築こうとしなかったのが、お前の敗因だ」
ライルの執事が通訳した内容が伊吹の言った通りであると確認した為、メアリーは通訳せずにサラを見つめている。
メアリーもサラにクビを切られた人間だ。弁護士としてYourTunesとサラに対して不当解雇を訴える事が出来る。
その事についてもようやく理解したのか、サラが悔しそうに顔を歪ませる。しかし憎さと悔しさと腹立たしさが溢れ、またもサラは口汚くスラングを連発し出す。
そしてついに、伊吹がもしかしたら出るんじゃないかと思っていたスラングが飛び出した。
「Fucking Jap!」
ついに、ついにこの時が来た、と伊吹が立ち上がり、懐からモデルガンを取り出して構える。
「バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン、バン!」
本物の銃か、と身構えたライルと執事と侍女が腰を抜かしてへたり込む。
「ファッキンジャップくらい分かるよバカヤロー」
元日本人転生者であるキャリーが立ち上がり、手を叩いて喜ぶ。伊吹がキャリーに手のひらを向けると、キャリーがハイタッチをした。
「はっはっはっ! まさか本当に言うとは思わなかったな。
いやぁ、この場で人種差別的発言があるとはねぇ。GoolGoalの社長がこの俺を蔑むとは、よほど戦争がしたいらしい」
都合の良い時だけ自分が皇族である事をちらつかせる伊吹。この世界のスラングではないにしても、サラが伊吹に対して口汚く罵った事は事実である。
執事の通訳を聞き、ライルが顔を真っ青にしてサラに掴みかかる。
「お前はクビだ、GoolGoalの経営どころかAlphadeal全体から追放する、と言っています」
ライルに対してサラが言い返す。
「誰のお陰でAlphadealが大きくなったと思っているんだ、お前では日本の賢者とやり合う事など不可能、お前は私の言う事を聞いておけば良いんだ、と言っています。
ライルは二度と顔を見たくない、出て行け、とサラに言っています」
メアリーが通訳している間にサラが立ち上がり、自分の荷物を持って応接室を出て行った。
「で、ライル。君の敗因は、サラを御せなかった事だ。それともう一つ。
サラを追放した事で、『なぎなみ動画』への攻撃を止める方法を失った事だ」
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