応接室
直接応接室へは入らず、別の階のモニタールームへ入り、応接室に仕掛けられている監視カメラの映像を確認する。
「おーおー、イライラしてるなぁ」
全ての応接室にカメラとマイクが設置してあり、来客の反応や話した内容全てを記録出来るようになっている。
室内にいる四人のうち、ソファーに座って一番イライラとしている金髪の女性が
『Fuck! Damn it! Shit! What a dumb fuck!』
「……この世界の英語で、この人が言ってるようなスラングってある?」
伊吹が転生者ではないメアリーとジニーに確認するも、二人は首をひねる。
「悪口であるとは分かりますが、私は聞いた事がないですね」
「私もです」
伊吹はマチルダとイリヤとキャリーに目線を送り、皆が頷いた。
「この女性は転生者と考えて良さそうだね」
元々メアリーとジニーとキャリーは
事前情報はないにしても、転生者であるという事は、この女性が近年のAlphadealの台頭に噛んでいるのはほぼ間違いない。
「そろそろ顔を合わせようか。マチルダはここで待っててね」
「何かあったらママのスマホに連絡するわ」
見た目が十歳のマチルダを敵対勢力の前に出すのは危険だ。万が一攫われでもしたら一大事である。
伊吹は
「やぁ、よく来たね」
お面で表情が見えない分、伊吹は声で感情を表現する事にした。待たせた事を全く気にしていない風を装いながら、上座のソファーに座って腕を組む。
後ろに立っている執事が英語に翻訳する。ただでさえ苛立ちを隠せていない女性が立ち上がり、指を差して伊吹に対して怒鳴りつける。金髪の女性は三十代より少し若いくらいに見える。
彼女が何を言っているかメアリーが翻訳するよりも前に、
栗田が英語で何やら女性に言うと、女性は顔色を悪くさせながらソファーに座った。
「栗田さん、何て言ったの?」
「大人しくしていれば危害は加えない、と言っただけです」
裏を返すと、大人しくしなければタダでは済ませないぞ、という脅しである。
声を上げて笑う伊吹の右隣に
「で? 俺を罵りに来ただけか? もう終わったなら帰ってもらおうか」
伊吹はお面越しに男性を見る。髪色は茶色に白髪が混じっていて瞳の色は暗い銀色。五十歳前後に見える。
隣の金髪女性があまりにも興奮している為か、こちらは努めて冷静でいようとしているように見える。
その男性が、伊吹達と目を合わせないまま自己紹介をした。
「こちらの男性のお名前はライル・サンダースさんです。Alphadealの最高経営責任者だと言っておられます」
「初めまして、サンダースさん。私は
藍子は社長業においては旧姓を名乗る事としている。皇族の名前を使うと多方面に迷惑を掛けてしまったり、いらぬ気遣いをさせてしまったりする為だ。
さほど意味はないのだが、必要以上に改まらないでほしいというアピールである。
藍子に続き、他の面々が名乗っていく中、金髪の女性は貧乏ゆすりをしながらぶつぶつと独り言を続けている。
伊吹と金髪の女性以外は全員の自己紹介が終わったが、金髪の女性が名乗らないので、仕方なく伊吹が先に名乗る。
「VividColorsの代表取締役副社長だ。名は名乗らない方がそちらの為だろうと思う。
そちらの女性もそういった事情があるのか?」
後ろに立っているライルの執事が、金髪の女性の肩を掴んできつい口調で何かを話すと、渋々と言った様子で名乗った。
「彼女はサラ・トランス。GoolGoalの代表取締役社長であり、YourTunesに圧力を掛けて私とジニーとキャリーをクビにした張本人です」
メアリーの通訳内容を聞いて、ライルの執事がぎょっとした表情を見せる。そして主にライルに向けてメアリーの紹介を通訳し、内容を伝える。
ライルは眉間に皺を寄せてサラを問い詰めているが、サラはメアリーを睨みつけており、ライルに対して返事をしない。
「ん? トランス? サンダースではなく?」
伊吹はジニーから、自分の旦那様よりも活躍する男性が許せない、という理由で振込遅延騒動を起こしたと聞いていたので、てっきりサラはサンダース姓だと思ったのだが。
「彼女は第一夫人でも第二夫人でもないので、入籍をしていないのです」
ライルの執事が答える。あまり触れてほしくない話題のようで、英語に通訳せず直接伊吹へ答えてきた。
よく見ると、ライルもサラも左手薬指に指輪をしていない。
今はその事には触れず、伊吹はサラへ向き直る。
「メアリーとジニーとキャリーをクビにしたお礼を言わなければならないな。サラが皆を解雇してくれたお陰で迅速に『なぎなみ動画』を立ち上げる事が出来た。
ありがとう、サラ」
またもサラが立ち上がり、伊吹に対して前世世界での汚く罵るスラングを連発した為、栗田の手によってテーブルに組み伏せられた。
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