弟からの相談
皇宮の侍女に案内され、三ノ宮の私室として用意された部屋へ入る。
大きな応接室があり、さらに奥に五部屋ほど部屋がある。伊吹が使うと想定される主寝室と、奥方用の個室だ。
室内を一通り見ていると、
「明けましておめでとうございます。兄上、義姉上様方」
「やぁ、伊穂。ってお父様がいなくてもこんな気軽に呼んで良いのかどうか分からないけど」
伊吹は努めて冷静な振りをするが、内心誰かに怒られないかとビクビクしながら伊穂に話し掛ける。
「私の兄上なのですから、何の問題もありませんよ。私はもうこの話し方が癖になっているのでお気になさらず。義姉上様方もそう畏まらないで下さい」
そうは言われても、藍子も燈子も苦笑いさえ浮かべられないほどガチガチに緊張している。
伊織は中身が前世一般人であるのと、本人が伊吹とじゃれ合っているのを見ていたので、少しずつ接しやすくなっている。が、伊穂は生粋の皇族であり、本人が礼儀正しいのにこちらが姿勢を崩す、なんて事はとても出来る事ではない。
「兄上、ちょっと相談事があるのですが」
伊織は伊穂にそう切り出され、ソファーから少し離れた、中庭が見える場所へと移動した。
「実は、昨日からずっと子作りに励んでいるのですが……」
「……えぇ?」
最近出会ったばかりの弟にそう切り出され、何と答えて良いか分からない伊吹。とにかく伊穂の話を聞いてみると、皇宮から子供をせっつかれているらしい。伊穂が女性を妊娠させる事で、正式に皇太子の息子であると公表したいのだ。
「兄上は二人も同時に妊娠させたとお聞きしました。一体どうやったらそんな事が出来るのかと、詳しくお聞かせ願いたいと思いまして」
伊穂があまりに真剣な表情で自分を見つめて来る為、伊吹も真剣に答える事にした。
「伊穂は一人で自慰をした事はある?」
「じい……?」
そこからか、と伊吹は内心ため息を吐いた。
伊吹は十二歳頃から一人で入浴し、その際に自分自身を慰めていた事を赤裸々に告白。その際、射精する少し手前で止め、落ち着いたら刺激を再開し、また止め、と繰り返す事で、刺激に慣れるのだと説明する。
注意すべき点は、射精しそうになっているのを力を入れて我慢するのではなく、射精する少し前で刺激を止めて、下半身の力を抜く、という事だ。
「えっと、それで一体何故複数の相手を妊娠させる事に繋がるのでしょうか?」
「女性に男性器を挿入するだろ? 射精しなくても、ある程度刺激を与えればごく僅かだけど精液が出るんだよ。そのごく僅かな精液でも、女性を妊娠させる事が出来るんだ」
伊吹の認識ではそうだが、実際は妊娠させる事が出来る、ではなく妊娠させる可能性がある、だ。伊吹の場合は単純に美哉と橘香の二人へ対し平等に精を放っていたから妊娠させただけであり、ごく僅かな精液で妊娠した訳ではない。
「つまり、私はどうすれば良いのでしょうか?」
「例えば、妊娠を望む女性が五人いるとして、五人同時に寝室に来てもらう。で、一人の女性に一度に何度も挿入せず、一人ひと挿入ずつする。入れて、出して、次の人。入れて、出して、次の人。
こうすれば、五人同時に相手しているようなものだ。伊穂もずっと刺激を受けている訳ではないから、長持ちするだろ?」
はたから見れば、この兄弟は何を話しているのだと呆れられるような内容だが、伊穂は真剣に悩んでおり、そして伊吹も伊穂に跡継ぎをもうけてもらわないと自分か自分の子供の皇位継承権が繰り上がってしまう。
この国の将来を左右してしまう、非常に大事な話なのだ。
「それで、兄上は一晩で何回ほど、……出されますか?」
恐る恐るという雰囲気で切り出す伊穂。伊吹としては同年代との下ネタトークは前世で慣れているので、こういう話の方が緊張せずに伊穂と話せる。
「そうだなぁ。僕は精液の提出分を朝に二回ほど取って、夜に六人相手に二回か三回くらいかなぁ」
「えっ!? 一日に五回も出るものですか!?」
伊穂が信じられないという表情で伊吹に確認する。
「そうだね、五回目となると量はすごく少ないけど、それでも女性を妊娠させるだけの量はあるんじゃないかな」
採取された精液は、特殊な液体に入れられて保存される。精液を薄めて、複数人数分の人工授精用のアンプルへと詰められるのだ。
従って、原液である精液の容量が多かろうが少なかろうが、アンプルに詰められる際の濃度はみな同じになるようにされている。
「ちなみに、伊穂は普段どれくらい女性と、あー……、同衾するの?」
伊穂相手にセックスという単語を持ち出せなかった伊吹。伊穂もセックスと言われても性行為を思い浮かべる事はなかっただろうが。
「普段は週に一回ですね。十六になった時からずっと週に一回です。その、あまり好きではないんです……」
「……多分だけど、好きな相手じゃないからじゃない? 誰かから宛がわれた、それほど詳しくない女性と同じ部屋に閉じ込められて、義務感からそういう事をするのなら、僕だって得意じゃないよ」
そう答える伊吹の表情を見て、伊穂はどこか安心したような表情になる。
「僕が妊娠させた女性は、幼馴染みの二人なんだ。こういうのって、天からの授かり物だ何だって言うけど、僕は心から二人を愛してるからね。二人に妊娠は必然だったと思ってるよ。
もし伊穂にそういう女性がいるのなら、本人に打ち明けてみるのもいいんじゃないかな?」
ただし、伊穂がその事を伝えてしまうと、本人の意志は関係なく伊穂の寝室に呼ばれてしまう事になるのだが。
「……難しいですね。ちょっと、考えてみます」
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