「ゆるりクラフト生活」サービス発表
VC副社長とVC社長とVC専務、そして
四人のアバターは四角く平たく、角張った見た目になっており、等身も頭三つ分ほどしかない。これはボクセルモデリングというアバター表現方法であり、ゲーム内専用アバターである。
『はぁ、ゲームの中でも火を見れば落ち着くもんなんだなぁ』
『そうねぇ』
現在「なぎなみ動画」から新規情報公開されたゲーム、「ゆるりクラフト生活」の試用版を四人がプレイしているのだが、視聴者があれしろこれしろ違うそうじゃない何で出来ないんだ、などの指示コメントを出しまくった結果、四人は嫌になってゲームの紹介を止め、たき火を見つめるだけの生配信へなってしまっている。BGMでアコースティックギターが悲しげに鳴っている。
四人から少し離れた場所には建てかけの真四角の豆腐のような見た目の家が放置されているが、誰も気に掛けていない。
この「ゆるりクラフト生活」はVC副社長こと
皆が落ち込んだりいじけてしまったりした場合、マチルダが率先して空気を変える役割を担うのだが、伊吹からマチルダの担当を任されている侍女達からあまり喋るなという指示が出ているので、何とも出来ないでいる。何故喋るなと言われているかというと、伊吹の品位に関わるからという理由だ。
配信画面ではVC副社長のアバターが真智のアバターを膝の上に乗せ、無言で頭を撫でている。現実世界でも伊吹がマチルダを膝の上に乗せて頭を撫でているが、そこまで視聴者には伝わらない。
パソコンのマウスとキーボードを操作して「ゆるりクラフト生活」、略して「ゆるクラ」を操作してゲームを楽しむのだが、伊吹はこのスタイルのゲームをほぼした事がなく、なかなか苦戦している。現在独自コントローラの開発中だが、この配信には間に合わなかったのだ。
『だいたい、よく知りもしないのに批判するのはどうかと思うわ。自分の持っている常識が間違っているのではと考えた事はないのかしら?
批判する前に本当にこの意見は正しいのか、間違っているのは自分ではないのか何故検索して確かめようとしないのかしら?
他に多くの視聴者がいるのよ、他の人の目に触れてそのコメントがどう受け取られるのかまで考えるべきだと思うわ。
コメントは消せるけど、見せられた本人の嫌な感情までは消せないのよ』
『どうどう』
特に言いやすい立場である為か、真智が一番指示コメントの餌食になっていた。
VC副社長は生まれながらの皇族であり、VC社長とVC専務は皇族へ輿入れしたご令嬢、という見方が一般的である。なお、VC専務は視聴者が勝手に付けたあだ名である。VC専務はそのあだ名を受け入れ、今ではボクセルアバターの上のネームタグに自ら表示させている。
余談だが、VCとは
『誰か手の空いてるゲーム上手いスタッフいないかな』
VC社長の呟きに呼応して、新規参加者がログインした。
『わー、れーちゃんとむっちゃんとはーちゃんだー』
『棒読みが過ぎませんか? 副社長』
面倒になった、という理由で急遽呼び出された玲夢が答える。玲夢は現在、新社屋でも旧社屋でもなく、新社屋近くのマンションの一室に引っ越している。
『三人でおうち建てて。文句言わないから。視聴者みたいに。視聴者みたいに』
『どうどう』
真智はまだご機嫌ななめだ。配信画面の後方を≪真智ちゃんかわいい≫や≪声がキュート≫や≪よっ、真智ちゃん大統領!≫などご機嫌伺いをするコメントが流れるが、真智は反応を示さない。
『えーっと、三人が家を建ててくれている間にこのゲームの詳細を説明します』
『まだあたし達するって言ってないんだが?』
『はーちゃん、私達がやらないとこのゲームが始まんないんだよぉー』
葉月と睦月がそんなやり取りをしているが、VC副社長は気にせず説明を始める。
『ゲームをする為には月額料金が必要となります。「なぎなみ動画」の登録自体は無料ですが、こういうところでお金を頂かないとサービスは続けていけないのでね』
VC副社長の後ろに≪「ゆるりクラフト生活」は現在初月無料キャンペーン実施中!≫という説明文が表示される。
『あ、「なぎなみ動画」は有料会員登録制度も考えてます。今後処理が追い付かなくなった場合、優先して閲覧出来る権限を付与する、とかですね』
VC副社長の後ろに≪詳細は後日発表予定!!≫という説明文が表示される。
『このゲームは離れた友達と同じゲーム内ワールドで遊ぶ事が出来ます。ワールドは随時自動でセーブされており、常に友達と一緒にプレイする必要はありません。ただし、ワールドに登録されたプレイヤーが全員「ゆるりクラフト生活」を辞めてしまうとワールドは消滅します』
≪任意でワールドをリセットする事も可能です≫
『今は分かりやすいように何もない真っ平らな土地になっていますが、ワールドはゲームを始める際にランダムで生成されます。村が最初からあったり、遺跡が隠されていたり、砂漠にピラミッドがあったりと、ざっくり四十三億種類の生成パターンがあります』
≪よんじゅうさんおく???≫
≪遊びきれないがwww≫
≪思考が追いつけないです≫
『精神を加速させろ!!
ではなく、えーっと。この生成パターンは生成値という数字の羅列で表され、生成値を控えておくと何度も同じワールドでやり直せます。
例えば
≪それは魅力的ですね≫
≪全く同じワールドにショタきゅんは出現しますか?≫
≪一緒にプレイ出来たら最高だな≫
『「ゆるクラ」の同一ワールドの最大上限同時プレイヤー数は、二百五十六人です。ワールド登録者上限人数は、四千九十六人です。つまり、安藤家と視聴者が同一ワールドで同時プレイする事が理論上は可能です』
≪マwジwかwww≫
≪登録しました早く生成値公開してくだしあ≫
≪旭様はどちらにおられますか今すぐ向かいます≫
≪理論上可能という事はつまり……?≫
『で! す! が!
うちの大事な息子達にあーしろこーしろ下手くそ云々かんぬん言われるのは癪に障るのでね、どうしたもんかと考えているところです』
≪すみませんでした二度と指示出ししません≫
≪あっあっあっあっあっ≫
≪失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した≫
≪まだだ、まだ終わらんよ……≫
≪お前達は何という愚かな事をしてしまったのか……≫
『視聴マナーは守りましょう。配信者に対して見られる前提で配信してるんだから何言っても許される、なぁんて事はありません。
配信者も人間です。感情の浮き沈みがありますし、ゲームなんですから楽しくしたいに決まっています。皆さん、分かって頂けますか?』
≪はい!≫ ≪了解です!≫
≪理解しました≫ ≪以後気を付けます≫
≪なるほどなぁ、視聴マナーって大切ですね≫
『それとは別の問題で、安藤家を四人同時にプレイさせるのはまだちょっと難しいかなって思うなって』
≪あっwww≫ ≪そっか、副社長はお一人www≫
≪しょんにゃぁ……≫ ≪並行世界の謎技術で何とか!≫
≪安藤家なら、安藤家なら何とかしてくれるはず!!≫
『現在何とか出来るようにしようとしている最中ですので、続報をお待ち下さい』
『おうちが出来て来た』
真智がVC副社長の膝を離れ、玲夢と睦月と葉月が建てた家へ向かって歩いて行く。その途中、不意にチカチカと光を発する謎の物体が近付いて来る。
『え、もしかしてこれって』
ボンっ、という音を立て、謎の物体が爆発し、真智の体力ゲージがゼロになって死亡してしまった。
『そうそう、「ゆるクラ」には敵性キャラクターが自動的に出現するようになっています。何の障害もないゲームなんてつまらないのでね。ワールドの設定変更で敵の出現をなしにする事も可能ですが』
『ほな何で今出現せんよむぐっ!?』
『そろそろ未成年である真智が出演出来ない時間帯となりますので、ここらへんで一度お開きとさせて頂きます。
それではまたねぇ~』
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