Ｖから始める男女比一対三万世界の配信者生活：オタク文化で並行世界を制覇する！

月明かりの使者、初ライブ後編

『はい。

　「何より君を」、「もしも君に恋したなら」、「分かるよ」、「うかつな僕」と、四曲続けて聞いて頂きました。

　皆さん、ちょっとお水飲みますね』

　バンドメンバー全員が用意された水筒で口を湿らせる。歌っているのは慈音（じおん）だけではないので、皆それなりに疲れてきている。

『はい、お待たせしました。

　そうそう、結婚おめでとうというコメントがよく流れて来ているんですが、俺は慈音なので。

　ちょっと何の事だか分からないので一応お伝えしときますねー』

　≪把握≫や≪並行世界の向こう側の人だもんね≫などの、慈音が発言した意図を汲んだコメントが流れていく。

『あと顔が見えないとか顔を見せてというコメントも多いですが、見せちゃったら何言ってるか分かんないって言った意味がなくなるんですよねー』

　≪それを言っちゃダメだろｗｗｗ≫や≪はｗあｗくｗｗｗ≫など、これも理解を示すコメントが流れていく。

『つまり建前が必要なんです。分かりますね？』

　≪分かりました≫や≪だからそれを言っちゃダメなんだってｗｗｗ≫などのコメントが流れていく。

『えーっと、ここでこの新しい動画共有サービス「なぎなみ動画」について説明しますね。

　もう分かってる人もいると思いますが、このサービスは動画や生配信を見る位置が任意で変更出来ます。俺の右手側からも見れるし、左手側からも見れる。今日は設定してないけど、バンドの後ろから見れる視界やバンドメンバーが見ているであろう視界を用意する事も可能です。

　あと俺らの上から見下ろす視線とか、ドラムになって叩かれる視線とかもありですね』

　凛子がドカドカと激しくドラムを掻き鳴らす。

『まぁ、俺は叩かれる趣味はないので遠慮しときますけど。

　さて、この「なぎなみ動画」は将来的に、ヘルメット型の装置を被り、本当にその場にいるかのような臨場感を味わえるようにしたいと思ってます。手袋型の装置を嵌めるとバンドメンバーと握手をしている感覚になれたりとか、色々としたい事があるんですよねぇ』

　コメントでその機能を望むような声が流れていく。

『その為には、このサービスの収益化を図らなければなりません。何事にも銭が掛かります』

　≪早くお賽銭入れさせて≫

　　　　　　≪いくらでも払う≫

　　　　　　　　≪月額料金いくら？≫

『まず、今回のようなライブを行うにあたって、事前に視聴権を購入してもらう事になります。実際のコンサートなどと同じですね。

　実際のコンサートとの違いは、会場に行く必要がない事。時間通りに待機しなくても追っかけ再生が出来る事。期限内なら何度でも見返しが可能な事。家族の人数分入場料を払わなくても良い事。小さなお子様もご一緒に見れる事。一時停止出来る事。途中でトイレに行きやすい事、などです。

　どうです？　なかなか良いと思いません？』

　≪良いのは分かってる≫

　　　　≪早く金を払わせろ≫

　　　　　　　　　　≪余分に払う機能も追加して≫

『今回は企業に後援者になってもらっていますので、視聴者から直接お金を受け取る事はありません』

　慈音がそう言うと、後ろの壁にこのライブの協賛している企業の名前が表示される。そして、慈音の隣に宮坂家（みやさかけ）の四兄弟が出現し、寸劇が始まる。

『翔太（しょうた）、旅行に行きたいから手配しておけ』

『まぁーた治（おさむ）がボクに無茶振りしてくるー。

　旭（あきら）、何とか言ってやってよぉ』

『そういう時は僕に任せて！　ネットで簡単に予約するサイトを知ってるんだ』

『旭、翔太は代わりに予約がしてほしいんじゃなくて、治に注意してくれって事だと思うぞ』

『でも英知（えいじ）、ホントに簡単なんだって！』

　≪安藤家がCMしてるｗｗｗ≫

　　　≪うちの会社もショタきゅんにCMしてほしい！≫」

　　　　　≪何を見せられてるんだｗｗｗ≫

『このように、「なぎなみ動画」へ広告を出したいという企業と打ち合わせをし、独自の広告動画を作る予定です。

　動画共有サービスで流れる広告って、何度も同じのが流れたり、流れてる間に他の事をしちゃったりして、見逃されちゃう場合もあると思うんです。

　広告出稿側の立場になって考え、どんな広告なら楽しんで視聴者に見てもらえるかを考えていければと思っています』

　≪なるほどー≫

　　　≪それとは別にお賽銭出来る？？？≫

　　　　　≪世界各地の現地向けCM作るの大変そうだけどなぁ≫

『今コメントで流れた現地向けCMについては、各国にある日本の広告代理店の支社を間に挟んで広告動画製作をする事になります。

　まだお試し段階なので、広告動画の数は少ないですが、これからどんどん増えていくと思います。広告動画だけが見れるチャンネルも用意すると面白いかも知れませんね』

　≪こんな多機能の動画サービス、個人の投稿者が投稿して大丈夫なのかな≫

　　　　　≪個人チャンネルには難しそう≫

　　　　　　　　　≪コメント拾ってもらえた！！≫

『難点を挙げるならば、それなりに高性能なパソコンでないと全ての機能を使いこなせないという事ですね。

　平均的なパソコンでも、「なぎなみ動画」の設定を変えて機能制限を掛ければ閲覧自体は可能です』

≪って事は投稿者側はもっと高性能なパソコンでないと（以下略）≫

　　　　　≪パソコン買いに行かねば≫

　　　　　　　　　≪「なぎなみ動画推奨パソコンを公式で販売して下さい」！！≫

『個人の投稿者向けに「なぎなみ動画活用手順」のような動画を用意していますし、別にVividColors（ヴィヴィッドカラーズ）くらい凝った動画じゃないと投稿しちゃダメだって事もないのでね、お気軽に投稿してみて下さい。

　企業がチャンネルを開設する場合は有料版を用意してます。無料版との違いなど詳しい情報はお問い合わせからご確認下さい。

　「なぎなみ動画」上で動くゲームなんかも準備中ですので、今後正式に発表しますね』

　≪慈音様じゃなくて完全に副社長になっててワロタ≫

　　　　　　≪たｗしｗかｗにｗｗｗ≫

　　　　　　　　　　≪しーーーｗｗｗ≫

『って、副社長に言えって言われました。

　はい、もうライブも終盤です。三曲続けて聞いて下さい』

『はい、「君待つ我が家」、「握って話して」、「楽な逃げ道」を三曲続けて聞いて頂きました。

　早いものでもうライブは終了です。楽しい時間はあっという間ですねぇ。

　さて、ここでライブのお約束というものを皆さんにお教えしたいと思いますが、よろしいでしょうか？』

　≪何だろう≫

　　　≪お約束？≫

　　　　　≪もう終わりなんてやだやだやだ≫

『私達が一旦画面外に捌けます。その間、皆さんにしてもらう事があります。何か分かる人、コメント下さーい！』

　≪アンコールかｗｗｗ≫

　　　≪アンコールｗｗｗ≫

　　　　　≪アンコールを求める演者ｗｗｗ≫

『お、分かってるみたいですね。ではこれにてライブは終了です！

　じゃーねー』

　バンドメンバー全員がカメラに向かって手を振りながら、画面の外へと捌けていく。その後ろの壁にはすでに大量のアンコールの文字が流れている。

　≪アンコール！≫　≪アンコール！！≫

　　≪アｗンｗコｗーｗルｗｗｗ≫　≪アンコールって何ですかって今さら聞けない……≫

　≪みんなに合わせてアンコールって言っとけば良いんだよｗｗｗ≫

　しばらくして、再びバンドメンバーが画面に入って来る。先ほどのスーツ姿ではなく、Tシャツにデニムというラフな格好だ。

　何も語らず曲が始まり、慈音が歌い出す。

『皆さーん！　アンコールありがとうございまーす！

　まぁここまでの流れを含めてライブだと思って下さいね。次のライブでアンコールなかったら泣きますよー』

　≪把ｗ握ｗｗｗ≫　≪そういうもんなのかーｗ≫

　　≪形式美ってヤツね≫

　　　　≪様式美では？ｗｗｗ≫　≪ここまでがお約束≫

『はい、聞いて頂いたのは「我が家が一番」という曲でした。

　では、次が本当に最後の曲となります。聞いて下さい』

　慈音が歌っている最中に、すでにダブルアンコールを求めるコメントが流れていく。

『えー、最後の曲は「合わない二人」でした。

　ってか曲流れてるうちからアンコール求めるのはさすがにダメよ、俺達以外のバンドにやったら怒るからな？

　あと、二回目のアンコールはダブルアンコールって言って実際にあり得る事なんだけど、今回は予定時間よりも喋りすぎちゃったんでなしでお願いします。裏で働いてくれてるスタッフ達が大勢いるので、予定にない事しちゃうと思わぬ事故に繋がったりするかもなので』

　≪悪ノリしましたごめんなさい≫　≪分かりました≫

　　≪ライブにもお作法があるのね≫　≪はーい≫

『さて、では本当にお別れのお時間です！

　今夜のお相手は、ボーカルの慈音とー』

『ギターのアリスとー』

『ベースの真子（まこ）と、そして！』

『ドラムの凛子（りんこ）！

　以上、私達ぃ……』

『『『『月明かりの使者でしたー！！

　またねー、お休みなさーーーい』』』』