結婚の儀を終えて
元々着てきたスーツへ着替えて、三人は控え室でようやく落ち着く事が出来た。
「藍子、燈子。本当に綺麗だった。
さっき三人で撮ってもらった写真、新しいビルの住居スペースに飾りたいな」
結婚式の日程が決まってから、式当日に諸々の引っ越し作業をして新しいビルへ移れるようにと手配がされていた。
今日に新社屋の改装を終わらせる為、多くの人手が集められた。
「夢のような時間だった、って言いたいけど、自分の身に起こってる事が信じられなくて、これって私の妄想なんじゃないかって思ってたよ」
「分かる。自分が結婚するってのもいまいち実感がないのに、お相手が皇族って、ねぇ。
こんな漫画書いたら売れるかな?」
口々に今日の感想を言い合う三人の元へ、
「いやいや殿下! ご立派でしたなぁ!!」
顔を真っ赤にした賢一が伊吹へ抱き着く。これほど取り乱している父親を見た事がない娘二人は、大いに戸惑う。
三人が皇王皇后夫妻と面会している間に、別室へ通されて歓待を受けていたのだ。
「お義父さん、今日こうして素敵な奥さんを迎えられたのは、
もしよろしければ、ですが、私の事は伊吹と呼んで頂ければ嬉しいです。もちろん、お義母さんも」
抱き着いていた賢一が伊吹から身体を離し、茜と顔を見合わせる。そして二人揃って智枝の様子を見て、咎められていない事を確認し、伊吹へと向き直る。
「……分かった。伊吹、娘達を頼む。この二人は家の言う事を聞かず、やりたい事があるからと自ら会社を立ち上げた。本当に心配させられたが、そのお陰で伊吹と出会う事が出来た。
これこそが神のお導きというヤツなのかも知れんな」
藍子も燈子も、賢一が自分達の事をそんな風に思っていたなどとは知らず、二人揃って賢一へと抱き着いた。
賢一は子供が多く、妻達の力関係も考えて、普段から娘達一人一人とゆっくり会話する機会を取る事をしてこなかった。
決して藍子と燈子が蔑ろにされていた訳ではないという事が本人達に伝わり、感極まっている。
「娘達だけでなく、家同士の繋がりもよろしくお願いしますね、伊吹さん」
「ええ、こちらこそお願いします。
この世界において、こういう場でビジネスの話を持ち出すのは、一般的には女性の役割となる。男性は家の精神的支柱であり、女性は支柱を支えながら他との交渉を司る。
競う事も馴れ合い事も、女性の仕事だ。
「福乃がえらく伊吹を評価するから良い気がしていなかったが、今日からは俺の息子でもある! 何でも言ってくれ、全部福乃に任せてあるからな!」
伊吹にとってはありがたい話ではあるが、当主とはいえ妻がいなければ何も出来ない。一見情けないような発言も、伊吹以外からは当主として見劣りしない存在感を示している。
「あなた、そろそろお暇しましょう。三人はこれから大事なお仕事が控えていますから」
「ん、そうだな……」
三人のお仕事と聞いて、子作りを思い浮かべて動揺を見せる賢一だが、本人的には上手く隠したつもりでいるので誰もその事には触れない。
「伊吹、藍子、燈子。本当におめでとう。近い内にうちに顔を見せに来てくれ。まだまだ若い娘がいるからな」
福乃に聞かされた出生率の秘密。人工授精であれば男女比は一対三万であるが、自然妊娠であれば一対百であると伊吹は知っている。
つまり、
藍子と燈子と
伊吹は皇室の血を継ぐ男子とは別に、宮坂家へ送り出す男子ももうけなければならない。つまり、単純計算で二百人の娘が生まれる事になり……。
「そうですね。近いうちに、必ず」
生まれてくる子供の事を考えてしまうと、出来るものも出来なくなる。伊吹は自らに期待されている子作りについては、あまり考え過ぎないようにしようと気持ちを切り替える。
藍子と燈子の腰に手を回し、抱き寄せる。今はこの二人との時間だ。
「ふん、見せつけてくれるじゃないか! 行くぞ、茜」
賢一が茜の肩を抱き、颯爽と部屋を出て行こうとするが、ドアとは逆方向に歩いてしまった為、途中で引き返して出て行った。茜が苦笑を浮かべていたが、伊吹には嬉しそうな表情にも見えた。
「さて……。この後は披露宴動画が配信されて、明日はバンドの生配信生演奏でのライブか。忙しくなるなぁ」
藍子と燈子を抱き寄せて、伊吹がしみじみと呟く。二人の左手に光る指輪に触れ、それぞれにキスを落とす。
「
出来ないなら出来るまで抱くし、出来た後も抱く。もし男の子を産んだとしても抱く。嫌だって言うなら考えるけど、やっぱり口説いて抱くと思う。それくらい、藍子の事も燈子の事も愛してる。
だから、これからもよろしくね?」
「……伊吹!」
「……いっくん!」
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