VCAIDOLLとVC蔵人
伊吹が取り乱した翌日、改めて大会議室にイリヤを招き、今後についての話し合いが行われる。
「昨日はすみませんでした。お恥ずかしい限りです」
男が頭を下げた事に対して動揺し、メアリーとイリヤが立ち上がった。
「あの後にイリヤさんと話したのですが、私とイリヤさんの話の進め方に問題があったと思うのです。どうか頭をお上げください」
「気を使わせてすみません。もう一度、ゆっくり話し合いたいと思い集まってもらいました」
英語で何やら言っているイリヤをマチルダが落ち着かせ、その場を
「
藍子は福乃と個別に話し、宮坂AI研究所のAI開発が上手く進んでおらず、グループ内でもお荷物的な扱いを受けているという事情を聞かされた。
年々予算が減らされている為、オフィスは賃貸ビルのワンフロアを借りている状況なので、比較的簡単に
もしイリヤの管理下でも成果が出ない場合、潰しても問題ないとまで言われている。
福乃はあくまで藍子だけに聞かせるつもりでこの裏話を伝えたのだが、藍子は正直に伊吹へ伝えた。その話を聞いて、福乃らしいなと伊吹は笑った。
裏事情が分かった方が、より信頼感が増す。無償の奉仕よりも理由があった方が納得出来るのだから。
「一からの開発ではなく、宮坂AI研究所の設備や研究資料などが手に入る為、十億ドルの開発費が必要かどうかの精査から始めてほしいと思っています」
メアリーの通訳を経て、イリヤが大きく頷いて見せた。
宮坂AI研究所を受け入れるビルの選定は
その他役員については、現取締役との面談を経て、藍子とイリヤが改めて決定する事となる。
「AI開発って何したらええか分からんし、イブイブが取り乱したんもしゃあないと思うわ」
ある程度の話がついたところで、マチルダが独り言のように話す。
伊吹はバツが悪い為、話を変えるべくマチルダへ話を振る。
「マチルダはAIと言えば何を思い浮かべる?」
「せやなぁ……、じゃなくてそうねぇ。自動運転はほぼ完成してたし、飛行機のオートパイロットもAIみたいなもんってイメージだったけど。
あとディープラーニングね、イラスト描いてた界隈は割と騒いでたよね」
ディープラーニングとはAI開発における機械学習技術の一つで、わざわざ人間がコンピュータに情報を入力する事なく自動的に大量のデータから情報を拾って学習する事で、AIの知識が広がり、出力出来る事柄も増えていく。
「そうそう、VC
前の世界やと勝手に学習に使われて自分の作風のまんまのイラストが出力されたって怒ってた人らもいるけど、事前に了解の元で学習に使わせてもらえれば、いいんじゃないかな?」
メアリーの通訳を聞いていたイリヤが手を叩いて賛同する。イリヤの前世の記憶でも、訴訟になっていたケースがあったようだ。
学習に使うサイトがグループ会社のものであり、作者から事前にデータの使用許可を得ていて、作者も受け取る収益が増えるのだから、良いサイクルであると言える。
「ってなると、やっぱりクラウドサーバも自前で用意したいよねぇ」
「そうだ、
データセンターって言って、サーバを集中管理する広い場所が欲しいんです。本土だと地震と津波と台風で安定した通信の確保が難しいんですよね」
黙ってやり取りを聞いていた福乃が、また新会社かと笑う。
「大陸にはサーバやパソコンに必要なシリコンや希少鉱物もあるから、ちょうど良いかも知れないね。
さすがに私の一存では決められないから、持ち帰らせてもらうよ」
大日本皇国は旧中華民国と旧帝政ロシアの東側の大部分を制圧して資源開発を進めて来たので、土地自体は余っている。宮坂家が管理している土地で条件の良いところを探すとなると、福乃でも今すぐには答えられない。
「ディープラーニングか。最終的に
「うわ、何か映画の話みたいやね。仮想人格に自由に動ける筐体を与えたら、踊りながら近付いて来てナイフで刺されるとかないよね?」
ロボットの身体に仮想人格を入れて、自律的に動けるようにする、という発想を得て、伊吹が思いついた事を口する。
「AIとDOLLか……。
宮坂AI研究所の新しい社名をVC
さすがに機械人形部分の開発はAI研究者のイリヤさんには無理だろうし」
「面接対象に機械工学の博士がいたような……」
藍子が面接に応募してきた中に心当たりのある人材がいるようで、また詳しく見直すと伊吹に話す。
「で、いっくん。クラウドの新会社の名前も先に決めとく?」
昨日は参加出来なかった分、
「そうだなぁ、クラウドだから蔵人で良くない? VC
クラウドに上げる、じゃなくて蔵人に渡す、っていう風になんのかな」
「あー、うちらにとっては違和感ないし助かるなぁ」
伊吹は勘違いしているが、本来の読み方は『くらんど』や『くろうど』である。
蔵人所とは蔵を管理している人や組織ではなく、元々は書籍や絵画、書、刀の管理、また機密文書の取り扱いなどを任された皇王家の家政機関であった。
伊吹とマチルダが機嫌良さそうに話を進めている事と、間違いであっても特に支障がない為、誰も指摘しなかった。
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