生配信:光秀の大喜利よ今夜もありがとう

 本来はVividColorsヴィヴィッドカラーズとイサオアールの新人Vtunerブイチューナーデビュー対決から始めた光秀の生配信だが、ハム子が逮捕された後も毎日深夜帯に生配信を続けていた。

 伊吹いぶき玲実れみに求めたのは、イサオアール側Vtunerに勝つ事ではなく、毎日決まった時間に生配信をする事。そして、大喜利の一般浸透化である。


『はい、今夜も始まりました。光秀の大喜利よ今夜もありがとうです。

 少しずつ日が短くなってきて、寝苦しい夜も少なくなってきました。皆さん如何お過ごしでしょうか』


 光秀のアバターは当初の落ち武者然としたものではなく、ロングストレートのピンク髪に色白の顔。衣装は十二単を纏っており、完全に女体化を果たしていた。

 恐らくイサオアール側Vtunerが男性キャラで来るだろうと考えていたから光秀を用意し、下克上に失敗した玲実だからこそ光秀を選んだだけであり、相手が自滅した上に、視聴者に玲実が受け入れられた後となっては光秀である必要がなくなってしまった。

 毎日アバターのどこかしらが変化させていき、すでに完全に別のアバターへと変身を遂げていた。


『ではお便りを紹介します。

 みっちゃんこんばんは。

 はいこんばんは。

 私は中学三年生で受験勉強のお供にいつも聞いています。

 ありがとう。

 第一志望の高校の判定は悪くないのですが、VividColorsに入社するにはどんな大学のどんな学科に進めば良いのか分からず、担任の先生もはっきりとは教えてくれません。みっちゃんから副社長へ聞いてみてもらえませんか? よろしくお願いします。

 なるほど、VividColorsで働きたいと言う事ですね』


 伊吹が光秀を通して目指しているのはラジオのパーソナリティ。アバターを表示させているので、画面を見て楽しむ事も出来るが、画面を見ずとも楽しめるラジオのようなお喋り主体の配信形式。

 こうしてメールを募集して、コメント欄には入りきらないような文字量の質問に答えたり、応援メッセージを読み上げたりして、視聴者とのより深いコミュニケーションを図る事が出来る内容となっている。


『この件について副社長からお言葉を頂いております。どうぞお聞き下さい』


『質問ありがとう! 中学三年生からなりたい職業や入りたい企業を意識して受験勉強をしているのはとてもすごい事だと思います。何かに向けて前向きに頑張る女性を、私達VividColorsは応援しています。

 さて、どんな大学のどんな学科に進めばVividColorsに入社出来るのか、ですが、それは私にも分かりません。何故ならば、幅広い人材を募集しているからです。

 VividColorsの従業員として現在働いている人材は、私が考案する新しい事業を展開するにはどうすれば良いか法律面から調べる人、経営面から必要な人材を集める人、企画面から必要な人材を集める人などです。

 そしてそれらの人材に対して私が一番に重視しているのは、信頼出来る人間かどうかであり、能力面については二の次だったりします。どんなに優秀な人であっても、裏切るような人に大事な仕事は任せられません。優秀なだけの人は自分の手柄にするにはどうすれば良いか考えてしまうものです。実際にそういう人がいましたからね。

 まずは人に対して誠実であり、信頼出来る事が大前提。その上で優秀な人をVividColorsは求めています。また、VividColorsの従業員ではなくとも、YourTunerユアチューナーとして人気のある人であればパートナーとして声を掛けさせてもらうかも知れませんね。受験生に言うような事じゃないかも知れませんが。

 答えになっていないかも知れませんが、輝く貴女を応援しています。いつか会える日を楽しみにしていますよ』


『はい、非常に耳の痛いお話を頂きましたが、参考になりましたでしょうか?

 少なくとも副社長は一度の失敗程度、何とも思わず再び手を差し出して下さる事を、皆さんはすでに知っておられると思います。

 失敗を恐れず挑む勇気。そして信頼出来る自分でいる事。何より、自分自身を好きでいる事が大事なのではないでしょうか。私は今の自分が大好きです』


≪良い事言うなぁ≫

≪経験者は語る≫

≪みっちゃんカッコイイ!≫


 メールなどを通じてお便りを募集している関係で、投げ銭コメントを蔑ろにしかねないとして投げ銭設定はオフにされている。

 アーカイブ動画の再生やコーナーの切り抜き動画の再生などで、十分収益が得られる仕組みになっている。


『では今夜も参りましょう。大喜利のコーナー!

 この生配信では毎夜、副社長から出されるお題に対して大喜利で答えるという名物企画がございます。

 お題に対してピカイチな回答をして下さい。後日、これはすごいと副社長が認めた回答について、表彰とちょっとした副賞を差し上げる事となっております。

 また、この生配信のコメントでは追い付かなくなってきましたので、少し前からコメント欄ではなくYoungNatterヤンナッターへの呟きで回答して頂く形となっております。回答する際はハッシュタグ「今夜も大喜利よありがとう」にお題番号を漢数字で付けて呟いて下さい』


 大喜利は伊吹が思っていたよりも早く浸透し、今では他のYourTunerユアチューナー達も真似ているほどだ。これについてはVividColorsより正式に問題ない、むしろもっと広めてみんなで楽しもうという内容の呟きをYoungNatterヤンナッターのアカウントより発信している。

 そして伊吹は信長を引っ込め、副社長としてこの大喜利企画に関わっている。何事も形に囚われず、常に形態を変化させより良いものへと更新してゆくのだ。


『さて、最初のお題はこちら。

 月を見ながらしてはいけない事を教えて下さい。

 簡単そうですが考えてみると結構難しいんですよね。面白くないとダメなので。

 回答はYoungNatterで呟いて下さい。ハッシュタグ「今夜も大喜利よありがとう一」をつけて呟いて下さい』


 あっという間にYoungNatterのトレンド一位になる。著名人や政財界の大物まで参加していたりするので、すでに社会現象にまでなっている。


『はい、目に入ったものから読み上げていきますね。

 車の運転。

 はい、その通り。大正解ですが答えが真面目過ぎますね。

 次行きましょう。

 綺麗ですねと言ってはいけない。

 愛の告白だからでしょうか? 相手に死んでもいいわと言われたらもう人生の伴侶確定ですね。

 はい、次。

 団子を食べてはいけない。うん、一緒に解説を書いて下さいっています。月見団子は嫁入り前に食べてはいけないという言い伝えがあり、それは嫁入り前の妊娠を連想させるからで……。

 はい、これは大喜利ではなく雑学ですね。

 次行きますねー』


 玲実は伊吹から一つ一つの答えに時間を掛け過ぎず、さばさばと多くの回答を読むように指示している。視聴者としては読まれただけでも嬉しい為、大袈裟な反応をせずとも問題ないと伝えている。

 もちろん民俗学者である私の教えを蔑ろにするな、といったお叱りの連絡が来る場合もあるのだが、お笑いという文化が根付いていけば、それもそのうちなくなるだろう。



『さて、今夜もお別れのお時間となってしまいました。が、本日は副社長よりお知らせを預かっております。お聞き下さい、どうぞ』


『どうも、副社長です。今回私から皆様にご参加頂きたい大会についてご説明させて頂きます。

 その名も「チキチキ! 第一回全国顔寄せ大喜利大会ぃ~~~!!」です。

 ようやく皆様にも広く楽しんで頂けるようになった大喜利ですが、誰が一番面白い回答が出来るかを皆で集まって競おうという企画となっております。

 面白い奴が勝ち! 面白い奴が偉い! 一番面白い奴が優勝! 特別面白かった奴が新しくVtunerブイチューナーデビュー! 集え大喜利武者共!!

 詳しくはVividColors公式YoungNatterの呟きをご参照の事。奮ってのご応募、お待ちしております!』


≪VividColorsからデビュー!?≫

≪え、副社長に会えるって事?≫

≪ヤバイ、これはヤバイ≫

≪光秀ちゃんの立場が脅かされるのでは……≫

≪面白い事を言えるだけでお金が貰えて副社長とも会える???≫

≪さっきの中三のコの人生が危ないwww≫


『さて、ではそろそろお別れです。ちなみに大喜利大会の司会は私が内定しておりまうのでね。あ、私って言っちゃった。まぁいっか。

 ここまでのお相手は、惟任日向守光秀これとうひゅうがのかみみつひでと、私ぃ~』

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