藍吹伊通り一丁目
福乃は諸々の説明を終えるとオフィスを出て行った。伊吹が諸々の件を了承した事を報告しに行くのだそうだ。
「やっと正式に婚約が成立したね」
ニコニコ顔の
「そうだけど、そうなんだけど……」
藍子自身ももちろん喜んではいるが、まだシャワーを浴びていないのを気にしている。
「お兄さん、あんまりあーちゃんをイジメないで。
それに、ほら、私はちゃんとシャワー浴びてから来たし……」
密かにアピールする
そして膨大な土地と付属する建物を譲り受け、なおかつ
もう自分はこの世界の神なのかも知れないと、伊吹は有頂天になっている。
「藍子、シャワー浴びてこいよ」
「ひゃっ、ひゃい!!」
勢い良く立ち上がり、藍子がオフィスを飛び出て行く。
「今の言い方はちょっとキツいんじゃない?」
燈子が伊吹に対して苦言を呈する。伊吹の意図した事と、燈子の受け取り方とで乖離が生じている。
燈子の耳元に顔を寄せて、囁くように伊吹が話す。
「今からお前を抱くから、シャワー浴びて来いよって意味だよ」
「ぴぃっ!?」
燈子が身体を縮こめて驚いている。視線がぐるぐると空中を彷徨い、そして伊吹へ告げる。
「きょ、今日は今から大学に行かないと……」
「あー、そっか。大学じゃ仕方ないね。
分かった、じゃあ今夜はどう?」
「明日の授業は午後からだから、その、大丈夫」
藍子がどう受け止めてシャワーへ向かったにせよ、藍子だけを先に抱くのは違うかなと伊吹は思い、燈子の予定を確認した上で、今夜に二人を抱くと決める。
「早急に新しい住居を用意しないとですね。
九人が同時に横になれる寝室と、奥様方それぞれの個室。美子さんと京香さんのお部屋に、奥様方のお世話を担当する侍女の待機部屋。さらにはお子がお生まれになった際の子供部屋に、全員で食事が出来る大きな食堂。使い勝手の良い台所に、お風呂も大きくないとですね」
さらに
「露天風呂と屋上のプールはダメです。警備の都合もありますが、後付けで作れるとは思えません。
バーベキューが出来てサウナの小屋を建てて、ジャクジーを設置するくらいなら可能かと思います。ただし、周りを高い壁で囲む事になると思いますが、近くに高いビルがある場合は諦めて下さい。
クレーンゲームやアーケードゲーム機などの開発は
ここぞとばかりに執事らしさをアピールしながら、智枝が尋ねる。
「室内に設置するとなると相当な高さのある部屋を用意しないとダメだという事が分かりました。例えるならば小学校の体育館相当です」
「トランポリンは諦めて下さい」
そこまで真剣に欲しいと思っていた訳ではない伊吹は、皆のやり取りに苦笑いを浮かべる。
「頂いた地図と建物の情報を確認するのに時間が掛かります。住居とすべき建物をどれにするのか。本社オフィスはここから移動させるのか、それとも住居と同じ建物にするのか。
考えなければならない事が多々ありますので、私の方で一度確認し、条件の良さそうな物件をご主人様へ提出するように致します」
智枝が良さげな物件をピックアップし、伊吹がその中から決める、という事になった。
「
智枝が福乃から渡されたファイルを見ながら話を進める。
「区画内の食料品店やコンビニや病院、その他生活に必要な店などは関連会社として買収してしまう方が良いでしょうね。
清掃やクリーニングは侍女の方々に手伝ってもらっていますが、今後は手が足りなくなるでしょうし」
智枝としては宮坂家から譲り受けた区画内を伊吹の関係者のみで全て賄えるようにしたいと考えている。ライフラインと福利厚生として見れば、警備を必要以上に厳重にするよりかは現実的である。
そして何より、伊吹が外を出歩く際の安全性が増す。
「この区画とか譲り受けた区画とか言いにくいから、この区画を
身内だけの呼び名って事で」
智枝が由来を確認しようとしたところ、濡れた髪をタオルで拭きながら藍子がオフィスへ戻って来た。
「た、ただいま戻りました!」
「ごめん、あーちゃん。私今日授業があるから、夜までお預けになっちゃった」
「えっ!? そ、そうなんだ」
ふーん、へー、と冷静を装う藍子を見て、燈子は伊吹がシャワーを浴びるように言った意図を正確に理解していた事を察する。
「まぁまぁ、とりあえずちゃんと髪の毛乾かそうか」
伊吹は自分の隣に藍子を座らせ、メガネを取ってやってからタオルで髪の毛を拭いてやるのだった。
★★★ ★★★ ★★★
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
誰も藍子がメガネ掛けてるの覚えてない説。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます