VCスタジオはセルフデスマーチがお好き
皆で昼食を摂った後、伊吹は配信部屋でパソコン前に待機している。
今夜の
『こちら
「とこ軍曹、愛しているよ」
『ぴゃっ!
お兄さん、私の脳が溶けちゃったらどうしてくれるつもり!?』
「もちろん責任は取るよ?」
『……ごほんっ、もう入るわ』
燈子は伊吹がいるビルの二階へ移動し、VCスタジオが作業している部屋へと入った。
伊吹はいつも、自分の要求がどれだけ高度な内容なのかを考えずにVCスタジオのスタッフへ投げるようにしている。
とにかく自分はやりたい事、必要としている事を伝えるから、それが現時点で実現可能か、もしくは実現するには何が必要かを答えてほしいと伝えている。
伊吹は前世世界で見た事がある事はいずれこの世界でも実現出来ると確信している。無理、出来ない、ではなく、実現させるにあたり必要な機材やソフトウェア、予算、実現に要する時間を答えさせるのだ。
「つまり、着物の艶やかさをより強調するようにして、時々キラリと光る特殊効果を付けたいという事ですね?」
『ええ、それと指の動きをもう少し複雑に出来ますか? 五本の指をそれぞれ独立させて動かせるように』
VCスタジオのスタッフとして拾われた形の元社長、
自分が男性に関わる仕事をするとは夢にも思っていなかった。男性が十八禁ゲームに触れる機会などないであろうし、そもそも十八禁ゲームの内容的に、男性に嫌悪されても仕方ないと思っていたのだ。
会社倒産の危機から救われ、仕事を与えてくれただけでなく、自分達の技術を評価してくれている伊吹は、正しく神の如く存在。そんな伊吹に求められれば、何だってやってみせるという意気込みで仕事に当たるようになった。
今までの打ち合わせで伊吹が求めた要件は全て達成して来た。時間が足りなければ睡眠時間を削り、会社に泊まり込み、それでも対応出来なければ知り合いに声を掛けて頭数を増やした。
すでにVCスタジオの社員は河本ら四人だけでなく、十二人体制で稼働している。安藤家の一キャラごとに三人の担当が付き、十二人で開発及び細かなアップデートを行っている。
十二人全員がこんなに充実した夢のような仕事など他に存在しないと確信しているし、伊吹からもたらされる要望は誰もが思い付かなかったような神の啓示の如く衝撃を与え、皆の製作意欲を刺激する。
『うーん、モニター越しの会話では限界があるな。ちょっとそっちに行きますね』
「……はぁ!?」
神、襲来。
伊吹の指示に耳を傾けていた十二人全員に鳥肌が立った。今から神が、降臨なされる。
フロア内を見回し、あまりの惨状に頭を抱える。泊まり込み用の寝袋や段ボールが散乱し、デスクの上には食べ終わったカップ麺の空容器や栄養ドリンクの空き瓶が転がっている。
二階フロアにもシャワールームはあるが、神の使徒たる彼女らはシャワーを浴びる時間があれば作業をする。決して開発スケジュールが押している訳ではなく、神の要望に応えるべく自主的にそうしているのだ。
「どどどどうしよう、絶対臭いでしょ私の髪の毛!」
「知らん、鼻はとうに麻痺している……」
「いつから着替えてなかったっけ!?」
「今日の下着灰色なんだが!?」
「バカな事言ってないで片付けるの手伝うでございますことよ!!」
バタバタと右往左往している彼女達だったが、そんな彼女達に救いの手が差し伸べられる。伊吹の侍女達四人が駆け付けたのだ。
伊吹は他フロアへ行く事を想定していなかった
「……掃除や片付けはこちらで行いますので、貴女方は触られて困るものを優先して整理整頓をして下さい。あと、着替えるのであれば今のうちに」
「すみませんすみませんすみません!!」
侍女服を着ていなければどこぞのご婦人でも通るような美人、
元の会社では突発的な打ち合わせやイベント参加の為に、ロッカーにスーツを入れっぱなしにしていた。今もクリーニング後の袋に入ったまま吊しており、とりあえずそれに着替えれば何とかなるだろうと判断した。
今着ている服はロッカーに放り込み、急いで汗を拭いて最低限の化粧をする十二人。神と対面する緊張感と高揚感でギャーギャーとうるさい。
更衣室の外からノックがあり、もうすぐ伊吹が到着すると聞き急いでフロアへ戻る。
フロアへ戻ると、散らかっていた室内がすっかりと綺麗にされており、窓も開け放たれて換気されている。窓の近くには警備員のような女性達が立ち、外を警戒しているように見える。
「エレベーター到着しました、間もなく参られます」
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