Ｖから始める男女比一対三万世界の配信者生活：オタク文化で並行世界を制覇する！

#安藤乃絵流

「お休み、みんな。

　夢で会おうねっ」

「配信を終了しました。お疲れ様です」

　藍子（あいこ）の声を聞き、ふぅーっと大きく息を吐く伊吹（いぶき）。まだVtuner（ブイチューナー）デビューしてから二回目の配信であり、緊張感から開放されて力を抜く。

　藍子の他に、燈子（とうこ）と美哉（みや）と橘香（きっか）、そして智枝（ともえ）が配信部屋で伊吹の様子を見守っていた。

「タグの名前って前から考えてたの？」

「いや、あの場で思い付いた。こういうのは一人でうんうん唸ってても出て来ないからね」

　燈子が感心しているが、前世知識から持ち越した伊吹のボキャブラリーは、この世界の人間ではなかなか追いつけるものではない。

　伊吹がテレビ番組を見ないのも、それが関係している。

「さっそくYoungNatter（ヤンナッター）でタグ付け投稿されていますね」

　伊吹が目にするよりも先に、智枝（ともえ）がスマートフォンを操作して流れて来るイラストを確認している。

　万が一にも伊吹が嫌な思いをしないよう、執事として事前チェックしているのだ。

「元々描いて投稿していたものを、タグ付けして再度投稿している人が多いんじゃないな。ほとんどが英知（えいじ）君のイラストだし」

　藍子も自らのスマートフォンでYoungNatterを確認している。伊吹も配信用パソコンを操作してYoungNatterを立ち上げた。

「へぇ、みんな上手だなぁ」

　伊吹がタグ付けされたイラストを眺めていると、どんどん『好き』の数が増えて行っている。

・投げ銭設定ボタンと矢印で書かれたボタンに手を乗せて「どうしよっかなぁー？」と視聴者の反応を楽しむ意地悪な表情の英知

・安藤にした代を受け取って戸惑っている英知

・笑いながら目に涙を溜めている英知

・パソコンを操作して配信内容に関係のない悪質なコメントを無表情でブロックする英知

・視聴者の悪ノリに対して腹を抱えて床を転げ回っている英知

・バイノーラルマイクに口を近付けて囁く英知

・受験勉強している妹へコーヒーを煎れてやる英知

・女性を椅子に縛り付けてその前に立ち、口元は笑っているのに目が全く笑っていない表情を見せる英知

・パソコンを操作しながらタグを考えている旭

　ちなみに配信用パソコンで使うYoungNatterアカウントは、あくまで配信時にYoungNatterを確認する事もあるだろうと用意された閲覧用アカウントである。

　公式アカウントは藍子と燈子が確認しており、直接安藤四兄弟が呟く事はないとプロフ画面にて宣言してある。

「配信を見てもらう事ももちろん嬉しいし、投げ銭を頂けるのも嬉しいけど、こういう目に見える形で反応が貰えるのってすごく嬉しいね。

　一緒に楽しんでいるっていうか、自分が何かをやった事に対して、誰かが投げ返してくれるというか。一緒に盛り上げようとしてくれてるんだ、って思うと、やって良かったって心底思えるよ」

　自分をモチーフにしたイラストを眺めて感激している伊吹を、みなが微笑ましい表情で見守っている。

「あーちゃん、僕がみんなのイラストを見て滅茶苦茶喜んでるって呟いといてくれる？

　あ、ちょっと待って。バイノーラルマイクで声を録音するから、それを呟きに乗せて投稿してくれる？」

　伊吹はバイノーラルマイクを用意し、録音するから音を出さないようみんなに注意する。

「みんなありがとう、大好きだよっ」

　感情をオーバー気味に乗せた声を収録し、社内サーバへ保存する。

「文章で『安藤家四兄弟がとても喜んでいます。代表して旭が皆さんへお礼を伝えたいそうです』って書いて、さっき録音した声と一緒に投稿しといて」

「お兄さん、今の文章を声で言うのはダメなの？」

「ふふふ、甘いなとこちゃん」

　伊吹はパソコンの前から立ち上がり、燈子が座っている隣へと腰掛ける。そして先ほど藍子へ投稿するようお願いした内容を声に出す。

「兄弟みんなで喜んでいます。代表して僕、旭が皆さんへお礼を申し上げます。みんなありがとう、大好きだよっ」

　やや顔を赤くする燈子。自分でも意図せず身体中に変な力が掛かってしまっている。

「次にバイノーラルマイクで撮った、投稿してもらった音声の方を言うね」

　伊吹は燈子へ滲み寄り、肩を抱き寄せて膝に手を置いて寄りかかり、耳元へ口を近付けて囁く。

「とこちゃんありがとう、大好きだよっ」

「ひゃぁ～～～～～！！」

「とこちゃん、何て声出してんの」

　足をバタバタさせ、真っ赤になった顔を両手で隠して悶える燈子。

「ずるい！　お兄さんはずるい！　私の名前言ったら話変わってくるじゃん！」

「それは違うね、『みんな』のところをそれぞれが脳内で自分の名前に置き換えて聞くんだよ。

　長々と感謝を伝える理由を説明するより、ありがとうと大好きだけを耳にお届けする方が、より効果があると思わない？」

　それとね、と再び燈子の耳元へ口を近付ける伊吹。

「俺は意地悪なんだよ、好きな人には特にね」

「ぴゃーーーーーーーー！！！」

　奇声を発してソファーへ倒れ込んだ燈子を、藍子は羨ましいと思う一方、自分の魅力を最大限に発揮して女性を魅了していく伊吹の末恐ろしさも感じていた。