第3話 高篠さんの告白の返事

「一週間、考えさせてください」


 想い人に対する告白の返事としてのそれは、普通の男子であれば、きっとがっかりしてしまう言葉だろう。

 つまるところ、それは脈なしだったことを意味しているのだから。


 だが、それでも俺にとっては非常に嬉しい返事だった。



 その場でごめんなさい、ではなく、高篠さんが、俺のことを考えてくれるんだよ?

 それも、1週間も!




 あの日以降、俺は教室で、何度か視線を感じるようになった。

 高篠さんが、俺のことを見てくれているのがわかった。


 そんな彼女とは何度かうっかり目が合ってしまいそうになり、その度に今までいかに日頃彼女のことを目で追っていたか知ってしまい、急に恥ずかしくなった。


 だから、俺はなるべく彼女のことを見ないことにした。


 一週間の我慢だ。

 それくらいなら、俺にもできる。


 我慢しなければならないくらい意識してしまっているということにも同時に気づいて、更に恥ずかしくなったのだけど。


 そして、同時に、見られているということの恥ずかしさも知ってしまった。

 隙あらば彼女のことを目で追っていた、この前までの自分を思い出して、今まで高篠さんに悪いことをしてたな、と思う。


 ……まあ、告白したときの感じだと、彼女は全く俺のことなんて気にも留めていなかったみたいだけど。

 良くないけど、ここは良かったことにしたい。




 高篠さんに注目されている。


 それだけでどうしてもソワソワしてしまいそうになったが、ありのままの自分を知ってほしかったし、俺はいっそのこと開き直っていつも通り過ごすことにした。


 その結果、当然ぼっちでいる時間もそこそこあるし、友達と喋ってるときなんかもいつも通りゲームの話とかで、女子が喜びそうな話題は何一つないが、まあ仕方ない。

 下手に見栄を張っても付き合い始めてからどうせバレるだろうし、俺は大村くんとは違ってステータスのために彼女が欲しいわけではないから。


 ただ、気になる人と仲良くなりたいだけなのだから。



 そして一週間が経った。

 正直駄目かな、と思っていたが……



 結果はなんとOKだった。


「よろしくお願いします」


 先週俺が告白した校舎裏に、再び呼び出してくれた高篠さんはそう言うと、深々と頭を下げてくれた。

 嬉しいけど、そうかしこまられては落ち着かない、というのがそのとき最初に感じた正直な気持ちだった。

 告白をOKしてもらえて嬉しい、という気持ちがほとんどを占めているはずなのに、まるで形式ばった挨拶かのように、高篠さんがクールで無表情であったことが、俺にとっては悔しかったのだ。


 ―――落ち着いている高篠さんを見たら、俺の気持ちとの熱量に大きな差があることを実感してしまったから。


 ……まあ、それは仕方ないことだとわかってはいるけど、さ。




 これからは、高篠さんと『恋人』として、一緒にいられるようになる。

 それはあんなに俺が夢見ていたことなのに、どうしても実感が湧かなくて。

 だから俺は、ネガティブな側面が気になってしまったのだろうか。




 男としての自信が持てない自分に苛立ちを感じつつ、自分自身の性格なんて簡単には変えられないということを悟った俺であった。

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