後編 その4
テーブルに並んでいた料理は、九割がたがそれぞれの腹へと収まった。残ったおかずはラップをして冷蔵庫行きとなった。明日の朝、再び食卓でお目にかかることとなるだろう。
最後に登場するのはケーキだ。
俺と空音が協力して作ったホールケーキは、食事の間ずっと冷蔵庫で保管されていた。しまわれたおかずからのバトンを、今ちょうど受け取っている最中のはずだ。
母さんと父さんは、台所に食器を全て運び、洗い物する前段階の水につけるという工程を会話交じりに行っている。
俺はテーブルを布巾できれいに拭いていて、空音はこたつに入って一休み中だ。
夕方から飾りつけではしゃぎ、ケーキを一生懸命に作り、食べている間もテンションが高かったのだ。その小さな体に疲労がたまっているのは間違いない。
俺は何とはなしに、
「空音はクラスに好きな人とかいるのか?」
と訊いてみた。声に出してから、それは俺が空音に探りをかけていた核心だと気づいた。
「……いないよ」
「そうか」
俺は平然とした態度を保ったけれど、その内側で心のモヤモヤが晴れていく。
ほっとした。でも、湧き上がるこの気持ちは一体何なんだろう?
「あたし……」と空音はぽつりとこぼす。
「うん」
「ちょっとお水飲んでくるね」
空音はこたつから足を出し、一度正座の形を取った。
俺はその傍で、テーブルの油汚れを布巾でこすっていた。
空音はゆっくりと立ち上がる。
俺は布巾の手をとめてその様子を見守っている。
「あ」
空音がこたつ布団に足を引っかけて、俺のほうによろけてきた。俺はとっさに空音を抱えようとして両手を広げた。倒れていく空音はその中に運よく収まって――
口と口が合わさった。
少し前に母さんが熱く語り伝えた言葉、その端々に至るまでが脳内を覆い尽くしていく。
「「……」」
俺と空音はキスをしたまま、じっと目を合わせていた。
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