ドキドキホームパーティークリスマス☆ミ
さなこばと
始まり 秘めた思惑
我が家の台所はいつ見てもきれいだ。父さんと母さんの協力態勢により、ゴミはしっかりと捨てられ、においは洗剤の残り香がただよい、シンクのくすみもほとんどない。
俺はコンロの前に立ち、鍋にたっぷりと入ったお湯を沸かしていた。小さな泡がこぽこぽと浮かび上がってきた。その様子をじっと見ていると、騒がしい声が後ろから飛んできた。
「おにいー! そろそろこっち手伝ってよぉ!」
「もう少しで沸騰するから待ってろ」
「そんなのちょっとくらいほっといても大丈夫じゃん! こっちはおにいがいないと進まないとこなんだよぉ!」
ちらりと振り返る。ふすまを開いた隣の部屋で、妹の空音がぷんすかぷんすかと紙の輪のたくさん繋がった紐を振り回していた。
まるで何かの能力者のようで、俺はちょっと笑った。
「もぉ! 何笑ってるんだよー! おにいがすっごく楽しみにしてるハンバーグ、あたしが半分食べちゃうからね!」
元気な空音は見ていて微笑ましい。小学四年生。家ではやんちゃで落ち着きがないのに、学校にいるときはお姉さん然としているらしい。家庭訪問で来た先生から聞かされた母は、思わずごくりとしたという。
空音をご機嫌斜めにしてはいけない。
なんたって今日は特別な日。
十二月二十四日。
今夜はクリスマスイブを楽しいひと時にするため、我が家は一家総出でパーティー開催に向けて動いていた。
「今行くよ!」
返事をして俺はコンロの火を弱めると、空音のもとへ歩いていく。
俺と目が合うと、空音は膨れていた頬をそのまま笑顔に変えた。ひとさし指を下に向けて、はしゃいだ声で言った。
「おにい、早く這いつくばって! 上にあたしが乗って、タンスに飾りを貼っつける!」
ちょっと引きつった。
「はーやーくぅ!」
「わ、わかった」
俺は畳にひざまずいて背中を差し出す。
「おにいの背中、踏みやすくてらぶー」と一生懸命ふみふみする妹の足の感触が少しこそばゆい。台となった俺は畳を見つめている。
得てして兄という生き物は、妹を愛でては可愛がるものだ。
誰が何と言おうとも、俺の妹の空音は、この世界で何よりも絶対的に可愛い。
喫緊の課題は、そんな愛しい空音に恋人がいるかもしれないという不吉な予感。
未だ見えぬ実態に切り込むべく調査が必要であり、それがすなわち、このクリスマスパーティーにおける俺の目論見なのだった……。
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