男性の気持ちは戦場で知った

一宮 沙耶

第1話 戦場

「起きろ。敵がきた。出撃するぞ。」


 何がなんだかわからないまま、ライフルのような武器を渡され、外に出た。そこは、銃声が鳴り響く戦場。初めてみる光景に呆然とした。


 ビルが倒壊したのか、一面、瓦礫の山で、砂埃で前が良く見えない。ただ、その中で、銃声だけが響いている。


 焼けるように暑い。砂埃ばかりなのに、ギラギラする太陽ははっきりと見える。喉はすでにカラカラで、嫌な味のねばねばしたつばを飲み込む。


 200mぐらい先だろうか、100体ぐらい、体から細くてうねうねした手のようなものが何本も出ている異様な生き物がみえる。どうも、これが敵で、私たちを殺そうとしていることだけは分かった。


 迫ってくる敵に向けて撃ちまくった。熱くて、汗が額から溢れる。ライフルのような武器からは、光のようなものがでて、近未来の武器かもしれない。


「あわてるな。無駄にエネルギーを使うと、打てなくなるぞ。狙いを定めて撃て。」


 目の前の敵はどんどん迫ってくる中で、そんな余裕はない。でも、この武器が使えなくなったらと思い、狙いを定めて撃ってみると、何発かは敵に当たり、倒れた。敵も味方も次々と死んでいき、死しか感じられない時間が過ぎた。


「B地区で敵を壊滅したらしい。目の前の敵は撤退していくぞ。」

「我々も撤収だ!」


 私は、地下に向かうドアから避難所に戻った。避難所は、小さな窓から光が入ってくるだけで、薄暗く、打ちっぱなしのコンクリートの壁は湿っている。小さな電球が、その場だけを照らし、一緒にいる男性たちの息だけが聞こえ、あとは静寂の空間。


 何が起こったんだろう? それよりも、私は、さっきまで、死と隣り合わせの時間で気づかなかったけど、身体が別人の男性になっている。なんで?


 私は、女子高に通う普通の女の子。普通と言っても、クラスでは、いじめられていて、誰も話しかけてくれないし、机とかにはマジックのいたずら書きが絶えない。生きているのが辛い。でも、私が悪いの。私なんて、この世の中で、生きてる価値なんてないんだと思う。


 毎朝、つらくて起きられないし、起きても、色がない世界。そういえば、今は6月だっけ。学校に行くまでの風景とか、どうだったかな。心がない灰色の人たちが私の横を通り過ぎていく。私は、本当に生きているのかしら。亡霊なのかもしれない。


 でも、昨晩、寝て、起きたら、男性になって戦っていた。なにが起こってるんだろう?目の前には、リーダーらしい40代の男性と、30代ぐらいの男性が3人、高校生ぐらいの男性が15人ほどいて、みんな汗と泥にまみれ、息が乱れている。


「若者たち、はじめての戦闘、怖かっただろう。よく分かっていないが、あいつらは宇宙からきて、地球を占領しようとしている。若者は生き延びてもらいたいが、ここでも、もう20代後半より上の人たちはほとんど殺されてしまった。だから、君たちにも戦ってもらわないと、もう戦力はない。申し訳ない。」

「でも、武器の光があたったら、敵も死んでましたよね。そんなに強くはないんですね。」

「そうだが、世界の主要都市には核のような武器がおとされ、大量に殺された。ここのような人口が少ないところがゲリラ線で戦っているが、ここも駄目なら、もう人類に未来はない。」


 時計をみると、2025年8月となっている。私が暮らしていた時から、たった2年後みたい。


「俺は東京で、奥さんと2人の子供と幸せに暮らしていたが、甲府に営業に来ている時に東京は灰となって、家族を失った。その頃を取り戻したいが、もう無理だ。少なくとも、今、生きている人達を守らないと。みんなで、頑張ろう。」


 リーダーは涙を流し、家族の写真を握りしめていた。家族思いのいいパパだったんだと思う。そして、食糧を配りながら、一人ひとりを励ましていた。こんな優しい人、これまで私は見たことがないし、初めて男性を頼もしいと感じて、傷だらけのリーダーの顔をずっと見ていた。


 周りの話しも聞きながら、なんとなく状況は分かってきた。そして、横にいる男性が話しかけてきた。


「木村、東京で暮らしていた、お前の親も亡くなったんだってな。残念だったな。でも、彼女を守らないと。」

「彼女?」

「とぼけるなよ。カフェで女からパフェを一緒に食べないかと誘ってきた、あの彼女だよ。女から誘われるなんて、みっともないけどな。でも、この前、写真見たけど、美人じゃないか。もう、やったのか。羨ましいな。彼女の親も東京で死んだんだろ。1人ぼっちになった彼女のためにも死ぬなよ。」

「ああ。」


 よくわからなかったけど、話しは合わせておいた。そんな中で、横で喧嘩が始まった。


「お前が、とろとろしてるから危ないんだよ。もっと、しっかりしろよ。」

「お前こそ、邪魔して。俺だって、精一杯やっているんだよ。」

「何、ごまかしてるんだよ。」


 殴り合いが始まったのを見て、リーダーが制した。


「仲間で喧嘩してどうするんだ。そんな力あったら、敵を倒せ。そろそろ寝て、次の戦闘に備えるぞ。」


 私は、疲れて、安全だと思った途端、脱力感が襲い、その場で寝てしまった。

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