ズル休み

@wzlwhjix444

第1話

 中小企業に勤める山口は、無遅刻無欠席、勤務成績良好で、仕事に対する姿勢は、高く評価されていた。が,ある日の朝、山口の上司金原課長の携帯に、本人から連絡が入った。

「もしもし、金原課長ですか? 朝早くにすいません」

「おお、山口君か、どうした?」

「ちょっと、体調を崩しまして、おやすみいただけないでしょうか?」

「ああ、別に構わないよ、休暇簿に記入しておくから、お大事にな」

「はい、ありがとうございます」


 この日を境に、毎日のように連絡が入り、山口は、連続して会社を休むようになった。

 同僚の話では、出先で山口がパチンコ店に入って行くのを見たという者や、ネットカフェに入るのを見たいう者もいて、ズル休み疑惑が社内に広まった。


 いつものように早朝、金原課長に山口から連絡が入った。

「おはようございます金原課長。大変申し訳ありませんが……」

 と山口がいいかけたのをかぶせるように、金原課長が,

「山口、おまえ一体どうした? いくら何でも休み過ぎだぞ! もう有給は消化

しているんだぞ、大丈夫なのか?」

「あ、はい。今回は、祖父が突然、亡くなりまして、忌引き休暇を申請したいのですが」

 金原課長は大きなため息をつき、

「まあ、それは大変ご愁傷様。祖父の場合は、二親等に当たるから、忌引きも三日までだぞ」

「はい、ありがとうございます」

 この話を、社内の皆で共有すると、山口のズル休み疑惑が、確信へとかわっていった。

 そして、三日が過ぎ、忌引き休暇が終了すると、再び山口から、金原課長に連絡が入った。

 今度は母親が亡くなったので、継続して忌引き休暇が欲しいとのことだった。

  母親の場合、一親等にあたるから、一週間は休むことが出来る。そう金原課長が伝えると、山口は、いつものように申し訳ありませんとだけ言った。

 金原課長は、お悔やみの言葉を伝え、課内回覧にまわすから、お通夜の日取りなどを教えてくれといったが、身内だけで行うので遠慮させて下さいとだけいい、電話を切られた。

 社内では、完全に堕落してしまった山口をからかうような風潮になり、山口の家族構成に話が集まった。

 山口は、母と祖父の三人暮らしで、今度は誰が亡くなったと云って来るのか、もう駒は尽きたと、その話題で大いに盛り上がった。

 しかし、金原課長だけは、山口のまじめさと正直さを知っているため、ゲスな想像は止めろと、部下たちにくぎを刺していた。

 

 そして、一週間の忌引き休暇が過ぎ、再び山口から、金原課長の携帯に連絡が入った。

「すいません課長、休み続きで仕事に穴をあけてしまい申し訳ありません」

「まあ、それなりの理由があったのだから仕方ない。で、明日からはちゃんと出勤できるのか?」

 そう、優しい金原課長の問いに、山口は少し黙った後、意を決した如く、

「実は、今日限りで会社を退職させていただきたいと思いまして」

 と、山口のあまりにも唐突な言葉に驚いた金原課長は、

「いきなりどういうことだ? お前がズル休みしたことなど誰も咎めやしない、少し考えなおしたらどうだ」

「ズル休み?」

 山口の、少し怪訝そうな言葉に、金原課長は動揺し、

「あ、いや、つい社内の噂を口にしてしまって申し訳ない。俺は、少なくてもそんなこと微塵もおもっていやしないから、心配するな」

「そうですよね、この僕がズル休みなんてするはずがないじゃないですか」

「わかってる。だから突然会社を辞めるなんていうなよ」

「でも、仕方がないんです。今、警察に捕まってしまって、何年刑務所に入るか分からないので」

「いやいや、ちょっと待て、いくら何でもそれは俺だって信じかねるぞ」

「僕は、嘘を言わないと言ったじゃないですか、ちゃんと、祖父も母も殺して忌引き休暇をを取ったんです。でも、結果的に警察に捕まったんですよ。すぐに、テレビと新聞にでるしょうから、嘘じゃないことが分かるはずです。色々とお世話になりました」

 と淡々と語り電話は切られた。


 その後、各メディアが、山口の犯行を一斉に取り上げ、真実が証明されたが、その殺人の理由が、嘘を言いたくなかったからと供述し、世間を震撼させた。


 金原課長は、最後まで、ズル休みではないと山口を庇ったことを、社内で自慢気に言いふらしていた。

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