エピローグ
残業マン再び現る
渋谷周辺の再開発はとどまるところを知らない。さながら二十一世紀の東京に出現したサグラダ・ファミリアとでも言おうか。
渋谷駅構内も日々複雑に変貌していく
宮益坂中央改札を左に折れると、地上の明治通りに沿った長大な地下通路に出る。
建造中の地下通路には通行する大抵の人々が気にも留めないスペースが存在する。
そこはフットサルコートくらいの広さがある。臨時の資材置き場なのか、それともさらに通路を拡張する準備なのか。
深夜零時。
人通りはないに等しい。
そのぽっかりと空いたスペースの隅の暗がりに異形の生物がいようが誰の目にも止まらない。
ましてや異形の足元に恐怖にひきつった顔の女性が倒れていても気がつく者はいない。
異形はゴリラか熊のような巨体で背中のあたりが異様に発達した筋肉で盛り上がっている。
手足は節くれ立って丸太のように太い。指には巨大な鉤爪。
足は膝が曲がって前に突き出ている。四足歩行の大型肉食獣が二足で立ち上がったような姿勢に見える。
顔も前後に長い。後頭部が膨らんでおり、そこから触手のような器官が十数本背中に垂れ下がっていた。
表面の皮膚はむき出しの内臓のように赤かった。
女性が悲鳴をあげた。隅々にまで響きわたるには地下通路は広すぎる。
「ロロロ」
異形が喉を鳴らして口を開けた。鋭い牙がびっしり並んでいる。
その時――。
「『
その声に異形の動きが止まった。
声の方から飛来した球体が異形の背中に当たった。球体には棘がついていて、回転して異形の肉を削った。赤い体液が飛び散る。
異形が振り向いた。
通路の明かりが逆光になってボディスーツの男が立っていた。
ボディスーツは全身黒で、ところどころ筋肉を強調するように黄色いカラーリングが施されている。顔も頭もスーツとつながったマスクで包まれていた。
「おれは『残業マン』。おまえたち『残業獣』を狩る者だぜ」
-第一話 完-
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