第59話 消えゆく、少女たち



「関係している訳ではありませんが、犯人の逮捕に少なからずお手伝い出来るかもしれません」


 紅葉は鞄からクリアファイルを取り出し、小野に手渡した。それは先程、如月ユウに見せた10年前の事件の資料だ。そして資料の内容を一見した途端、小野の顔色が変わったことを紅葉は見逃さなかった。


「……紅葉ちゃんは、今も起こっている事件と、この10年前の事件が同一犯によるものだと思っているのかい?」


 それでも一瞬で、いつも通りの人懐っこい笑顔に戻った小野を、紅葉は流石だなと思った。若くして警部補になっただけの事はある。この男は、簡単には喰えない男なのだ。


「ええ、可能性があると考えています」


「君達の実力は十分に分かっていて聞くんだが、何を根拠にそう考えるんだ?」


「10年前の犯人と、行方不明事件の犯人の目的が同じであるとすれば……

 事件現場が近郊である事。そして犯人は現場周辺を恐ろしく熟知している事。被害者が全員私たちと同じ位の年齢の女性である事。そして10年前の犯人が、まだ犯行を行うのに十分な年齢である事。

 ……同一犯の可能性を考えるには、十分だと思いますけど?」


 すると小野は今日会ってから初めて、刑事らしい怖い表情を浮かべた。


「……紅葉ちゃん。君はまるで、10年前の事件を見てきたかの様な口ぶりだね。何故、10年前の捜査では特定出来なかった犯人の動機や年齢まで君が知っているんだい?」


 しかし紅葉はそんな小野の表情など意にも介していないかの様に、優しい笑顔を浮かべた。


「ふふっ、小野さん。小野さんは先程、私達の実力は十分に分かっているって仰ってたじゃないですか。

 ……うちの部員が視ているんですよ。10年前の被害者の女性の犯行時の記憶をね。もちろん犯人の顔、おおよその年齢、動機も全て含む記憶です。

 10年前の犯人は、強姦が目的でした。だけれど激しく抵抗され、被害者である女子高校生を刺殺してしまった。

 この十年の間で行方不明になっているのは、私達と同じ10代後半の女性ばかりですよね?行方不明事件の犯人の目的が、その年頃の女性を強姦する事だったとしたら、目的は一緒です。

 それから10年前も行方不明事件も人気ひとけが無く、人目に付かない場所をピンポイントで狙っているだけでなく、防犯カメラの位置まで把握して犯行を行っているから犯人の特定に中々至らない。

 ……10年前ならともかく、今は防犯カメラも至る所にありますし、車にだってドライブレコーダーがついている時代ですよ?犯人に繋がる映像が、何も映っていない方が不自然。それだけ犯人は、用意周到に犯行に及んでいるということですね。

 普通、性犯罪は衝動的に行うから、そこまで下調べをして犯行を行うケースは少ないと思います。そんな犯人、中々いないですよ」


 紅葉の話を聞くうちに、小野の表情は驚きに変っていった。唇の端が微かに震え、目が大きく見開かれていく。


「紅葉ちゃん。君達の不思議な力で、10年前の被害者の記憶が視えたとしても、何故、防犯カメラの事まで知ってるんだい?」


「10年前の事件から始まって、行方不明者はここ10年で11人にもなります。その全てが被害に遭った訳ではないとしても、とても多い。

 徹底して自分を特定されない様にしていなければ、絶対に既に捕まっている筈です。日本の警察は、そこまで甘くない。そうですよね、小野警部補?」


 小野は自分より一回り以上も年下の女性をマジマジと見つめ、溜息をついた。


「ははっ参ったな、紅葉ちゃん。俺の嫁さんになるのは少しだけ先延ばしにして、警察に入る気はないかい?」


 その誘いに紅葉はにっこりと笑って、


「どちらも、お断りします」


 と、言った。

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