第23話 ・・嫌な、女。

 事のあらましをざっと説明し終えた後で、みんな各々に椅子に座った。


「……さて改めて紹介するわね、如月君。私の隣に座っているのが、もう一人の部員の黒木青葉よ。彼女は私の妹でもあるの。そして青葉。彼は新入部員の如月ユウ君。二人とも仲良くしてね」


 だがその言葉とは裏腹に、部屋にはギスギスとした空気が漂っていた。紅葉と青葉が並んで座り机を挟んでユウといずみが並んで座っている構図だが、ユウと青葉は明らかにお互いに顔を合わせないようにしていた。お互いに、そっぽを向いているのだ。


「あらあら…… 何だか楽しい部活になりそうね。そうだわ。ほら……お互いにちゃんと挨拶なさいよ」


 黒木先輩に促されて二人は一応挨拶を交わした。しかし、どうも……と、一言で挨拶を済ました如月ユウは明後日の方角を向いたままだったし、黒木青葉に至っては小さく頭を下げただけだ。


「ふふふっ二人とも、ちゃんと挨拶は交わせたみたいね。でも二人が気が合いそうで、私は安心したわ」


 どこが!? 今、交わした挨拶に気が合いそうな件なんてあったんか!?


 ……この人は、もしかしてとんでもない変わり者かもしれない。これから関わることになった新しい人間関係に不安を感じたユウは、嬉しそうに微笑んでいる黒木先輩をマジマジと見つめてしまった。それは黒木青葉も同じだったようで……


「どこがですか!? 姉さんは一体、どこを見ているんですか!?」


 と、隣に座る姉を驚いた顔で見つめている。そんな二人の様子を更に嬉しそうな顔で眺める黒木先輩。先輩はまあまあ、少し落ち着いてね二人とも…… と、笑顔をみせている。


「ねえ、如月君。さっき妹が貴方にしてしまった事だけれど、許してあげられない?  この子は昔から、いずみちゃんに意地悪をする人を絶対に許さない処があるのよ。さっきの事も、きっといずみちゃんを大切に想う気持ちが先走ちゃったのね。妹の非礼は姉である私からも改めて謝らせてもらうわ。……本当に、御免なさいね」


 そしてユウは、先輩から三人が幼い頃からずっと親しくしている幼馴染なのだと説明を受けた。隣に座る金森を見れば照れ臭そうな笑顔。その笑顔を見れば、この三人が本当に仲の良い幼馴染なんだろうと一目で分かってしまう。


 ……確かに先輩の言う通り、黒木青葉にとって金森いずみは本当に大切な存在なのだろう。そんな人間関係などないユウには、三人の関係が少し羨ましく感じてしまう。


 まだ腕と肩に痛みは残っていたのだが、なぁに……こんな痛み、入院していた時に比べたらなんてこともない。ここは一つ黒木先輩の顔を立てて大人の態度を心がけようと、ユウは改めて黒木青葉に和解の使者を送ることにした。


「……いえ。俺こそ大人気無い態度をとってしまって、すみませんでした。そういう事情なら理解できます。  ……俺も勘違いさせてしまって悪かった。さっきのことはお互いに忘れよう。改めて宜しくな、黒木」


「……先輩です」


「……は?」


「私のことは黒木先輩と呼んで下さい。私の方がこの部活では先輩なんですから、当然ですよね?慣れ慣れしく、呼び捨てにしないで……」


「あ、青葉ちゃんっっ!!!」


 先程、心掛けた大人な態度はどこに行ってしまったのだろうか?隣で金森の悲鳴が聞こえたが、今の台詞を聞いてユウは、もう一歩も引く気は無くなった。


「……ほう?二人も黒木先輩がおられたら、どちらをお呼びしたのか分からなくなるんじゃないですかね?ねえ、黒木先輩?」


「だったら姉さんのことは、先生って呼べばいいじゃないんですか?あなたは、姉さんに催眠を教えてもらうんですよね?」


 そしてそれに涼しい顔を返してくる黒木青葉。こういう場面では青葉の整った顔は逆効果になる。相手の神経を逆撫でする効果は抜群なのだ。まあ本人も、それを十分に理解して使用しているんだろうが……


「ねえ青葉。私は嫌よ。そんな変な呼び方で如月君に呼ばれるの……」


「……分かりました。これからは黒木紅葉先輩のことを先生って呼ばせていただきます。それでいいんですよね? ……ねえ黒木青葉、?」


 人の話を聞いているのかいないのか、相変わらずの顔で無視を決め込む黒木先輩こと黒木青葉の態度にイラつきを覚え、ユウはその嫌な女に全開の嫌味な笑顔をプレゼントする。


 ……不服そうな表情を浮かべている元祖黒木先輩には申し訳ないが、成り行き上こうなってしまったからには致し方ない。ユウは、これから二人のことをそう呼ぶことに決めた。


 先生こと黒木紅葉が溜息をつき、事の成り行きを心配そうに見守っていた金森いずみは結局、最後は耐えられなくなって吹き出している。


 結局のところ……


 『城西高校オカルト研究部』三人の部員達の初顔合わせは、笑わない様に必死に頑張っていたが無駄に終わった金森いずみの押し殺した笑い声で、幕を閉じたのだった。

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