第20話 勧誘


「貴方、この部に入部する気はない?」


 ……何だ?


 先輩は今、何って言ったんだ? 入部? 俺がこのオカルト研究部に?


 一瞬、黒木先輩に何を言われたのか理解出来ずに、ユウの思考は固まった。それは金森も一緒だった様だ……。


「ちょ、ちょっと!紅葉ちゃん何いってるの!?入部って如月くんにオカルト研究部へ入れってこと?」


「あ、あの…… 入部ってオカルト研究部にですか?」


「そうよ。私を含めて二人しか部員はいないけれど、歓迎するわ」


「ちょ、ちょっと待って下さい。俺は記憶の相談に来ただけで、オカルトに興味がある訳じゃなくて……」


「でも記憶について諦めた訳じゃないんでしょう?だったら入部しなさい。さあさあ、ちゃんと説明するから座って……」


 黒木先輩に促されて椅子の近くまで戻ってきたユウだったが、椅子に座るのをかなり躊躇する。先程自分は確かにこの人を信頼出来ると言ったのだが、もうグラついている自分がいる。……我ながら、大した信頼だ。


「ほら、座って!私のことを信頼してくれているんでしょ?ほら、いずみちゃんもこっちに来て」


 早速、先輩に痛いところを突かれて、ユウは渋々と椅子に腰掛けた。気が付けば、また金森と二人並んで黒木先輩と向かい合っている。


「……あの、先輩。俺がオカルト研究部へ入部することと、記憶のことがどう繋がるのか、よく分からないんですけど?」


 なぜか嬉しそうに、そんな二人の様子を眺めている黒木先輩に不信感を膨らませながらユウが尋ねると、先輩はこう話を続けた。


「そうね。先程の話に戻るけど、貴方の記憶を戻すには長い時間と催眠を行う相手との強い信頼関係。それともう一つは、貴方自身と催眠を行う人の両方に強い覚悟が必要なのは分かって貰えたわね」


 ここまで話して、黒木先輩はユウをじっと見つめてきた。


「……そして私には、その全てが無い。一番いいのは、その全てが出来る専門の医師をみつけるのがいいと思うけれど、残念ながらこの分野はまだまだ研究の途中で、関わっている医師の数も限らる。そんな状況の中でも貴方が信頼出来ると思える医師がもちろん居るかもしれないけれど、どちらにしても時間を掛けて探さないといけないわね。もちろん探してみるのは、とても良い事だけど……」


 そこまで話して、黒木先輩はニコリと微笑んだ。


「でも先程の条件をすべて満たしている人に、私は心当たりがあるわ」


「……え? 紅葉ちゃん、そんな人いるの?」


「ええ」


 黒木先輩の次の言葉を待って、ユウはゴクリと唾を飲み込こんだ。そんな条件を満たしている人がいるとは到底、思えないが……


「それは貴方自身よ。如月くん」


「……俺? 俺ですか!?」


 そしてその疑問に、黒木先輩はゆっくりと頷いた。


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