第13話 鳶色の瞳


『オカルト研究部』


 正直に言うと、ユウはこの部の名前を見ただけで入室をためらった。もし金森が一緒にいなければ引き返していただろう。しかし他ならぬ金森の紹介であり、本人も一緒にいる以上は入らない選択肢はない。


 ゴクリと唾を飲み込んでから、意を決してドアをノックする。


「はい。どうぞ」


 暫く間を置いてから、ドアの向こうから返事が返ってきた。……意外にも、若い女性の声だ。


「……失礼します」


 ガチャリと扉を開けて金森の車椅子を押しながら一緒に部屋に入ると、部屋の中央には城西の制服を着た女生徒が一人立っていた。他に人の姿は無いようだ。


 ……この人が、魔女と呼ばれる黒木先輩なのだろうか?


「いらっしゃい。いずみちゃん」


「お邪魔します!黒木先輩!」


 その女生徒がニッコリと微笑み、そしてその笑顔に金森も元気な声を返す。


「もう、先輩なんてやめてよ。いつもみたいに紅葉ちゃんでいいわよ」


「へへ。学校だと何となくね」


「ふふっ、でも本当に久しぶり。いずみちゃん全然、遊びに来てくれないんだもの」


「え?昨日も私、紅葉ちゃんちに遊びに行ったんだけど?」


「そう言われてみれば、そうだったわね」


 ふふっと笑い合う二人。しばしの間、その二人の親しげなやり取りに此処に来た目的を忘れて聞き入っていると、あら、ごめんなさい……と、黒木先輩がユウに視線を向けてきた。


「……はじめまして、如月ユウです。今日はお忙しいところ、お時間を頂きありがとうございます」


 視線に気付いたユウは、挨拶をしてからペコリとお辞儀をした。


「はじめまして、黒木紅葉です。こちらこそ、いずみちゃんが、いつもお世話になっています」


 すると黒木先輩も、ペコリとお辞儀を返してくれた。


「ふふ…… なんか二人共、社会人の大人の人みたいだね」


 それを見ていた金森がそこにすかさずツッコミを入れ、その場は一気に明るい空気になった。


「ふふっ もう、いずみちゃんたら茶化さないでよ。……さあさ、如月君はこっちに座って。いずみちゃんはこっちね。今、紅茶を淹れるからちょっと待ってて……」


 そう言い残して、黒木先輩は奥へと入っていった。金森と二人並んで座りながら、ユウは改めて室内を見回してみる。想像していた部屋とは違い、室内は清潔感に溢れた北欧のお洒落なカフェの様な雰囲気だ。

 と、いうのもユウは、真っ暗い雰囲気の占いの館の様な室内を想像していたからだ。そしてそこには、大きい水晶玉を置きながら黒いフードを被った女性が不気味な笑いを浮かべているのだ。


 だが実際の室内は明るい雰囲気で清潔感があり、黒木先輩自身も清潔感のあるお姉さん、という風貌の人だ。


 黒木先輩は、長身の女性だった。ユウと同じくらいの身長で、大体170センチくらいだろうか?見慣れたはずの城西の制服がお洒落なブランド服に見えてしまうほどに、スラリとしたモデルみたいなスタイルの女性だ。


 しかし特に印象的だったのは、あの美しく輝いていた茶色がかった瞳だった。鳶色とびいろと言うのは、あんな色の事を言うのだろうか?

そして透明感のある色白の肌に、少しウェーブがかかった瞳と同じ色の長い髪がふわりと揺れて…… ミステリアスな、大人の女性の雰囲気を漂わせる。


 ……まあ分かり易く言ってしまえば、黒木先輩は男なら誰でも目を奪われてしまうくらい、とんでもない美人だったのだ。


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