母親に会いたいと言ったら、なぜか国を追い出された件
雨宮 徹
俺の誕生秘話
俺の名前はスサノオ。マザコンだ。
親父が顔を洗っていたら鼻から生まれたらしい。本当かどうか、怪しいもんだ。顔を洗って俺が生まれたなら、親父が洗顔するたびに兄弟姉妹ができそうなもんだが。
そもそも、親父が顔を洗って生まれるって意味不明だ。この世界はどうかしている。そんなことはどうでもいい。
「スサノオ、お前は海原を治めるのだ」
まただ。親父殿の気まぐれには困ったものだ。アマテラスは天上、ツクヨミは夜の世界、そして俺は海原。アマテラスはいいよな。天上だぜ、天上。対して俺は海原ときた。アマテラスの奴が天から俺を見下すのが目に見えている。正直、面白くない。
親父には人を見る目がないらしい。俺こそが天上を治めるのに相応しいに決まってる。それよりも、お袋はどこいった?
「なあ、親父。お袋はどこだ?」
「お前の母はな……別の子供を産んだ時に焼け死んでしまったのだ」
「おい、それ本当か?」
「事実だ。遠い遠いところにいってしまったのだ」
遠いところって、どこだよ。ぼんやりし過ぎだろ。遠いところにいっても俺のお袋には違いない。一度会ってみたい。いや、会いたい。なぜかって? 俺がマザコンだからだ。ここはひとまず、駄々をこねて様子を見るか。
「親父、俺はお袋に会うまで、ここを動くつもりはない。海原がどうなろうと知ったこっちゃない。それに、アマテラスの奴が天上を治めるのも気が食わない」
「母親に会いたい? お前は正気か? お前の母はとんでもなく醜い姿だぞ。会ったところで失望するのが目に見えている」
「それでも、会いたいんだ。しょうがないだろ。親父の言う『遠いところ』まで行くから、海原は他の奴に治めさせろ。それか、天上を俺にくれ。どちらか好きな方を選べよ」
これでどうだ。親父は天上をアマテラスに任せる気まんまんだ。親父の選択肢は一つしかない。
「分かった。そこまで言うなら仕方がない。お前をこの国から追放する!」
おいおい、第三の選択肢あるのかよ。そりゃないぜ。まあ、お袋に会えるのなら、この国を追放されても問題ない。親父とはうまくやっていけそうにもない。
「それで、『遠いところ』って具体的にどこだよ」
「根の国と呼ばれている。ここからは果てしなく遠い」
「それじゃ、ひとまずアマテラスの奴に事情話してから、その根の国とやらに行くわ。親父、後のこと頼むわ」
ああ、アマテラスの奴に事情説明とか、だるいな。あいつ、面倒な奴だからな。俺と真逆で頭がカチコチだから。さあて、天上に行きますか。
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