第61話 冬黒VS二鳥
「に、二鳥様ぁ!?」
突如現れた男に殴られ、ビルから落ちた主を心配し、窓から見下ろすコカトリス。
だが、地面には見当たらない。
はっとして見上げる。
そこに二鳥はいた。翼を開いて空に。
「ガキめ……誰が誰を殺すって?」
二鳥は自分を殴った冬黒にイライラしながら問う。
冬黒は自ら窓を飛び降り、二鳥に追撃を仕掛ける。
「自分が貴様を殺すんですよ!」
「やってみろ!」
空を飛べるものに、一直線飛びかかって攻撃があたるはずもない。こちらも飛べるわけでないのなら、空中戦など不利どころか戦いになどならない。
――が、
冬黒は光の魔力でガラスのような足場を精製していた。その足場は宙を浮く。
冬黒が動く場所に常に足場を精製することで、ある意味では空を歩いてるような感覚。
「面白い。ワシと一対一でやるつもりか。ならこい。直々に相手したるわ」
「上等」
二人は戦場を変えるもよう。
理解したコカトリスは自らも翼を出し、援軍に向かおうとするが、突然羽にナイフが刺さる。
「――!? な、なにやつ!」
ナイフといえば、あの男しかいない……
ロングの青髪、美しい容姿の幼い少年……
闇野青春。
「達田さんを殺ったのはお前だな?」
「だ、だったら?」
「殺す」
♢
冬黒と二鳥は地上に降り立つ。
周囲を見ると、わずかに人影が……
ここで戦うと被害が出る。
だが二鳥はそんなのお構い無しに仕掛けてくるだろう……
まずは市民の安全を、と、思ったのもつかの間!
早速二鳥は仕掛けてきたのだ。
「
奴がなにか叫び出す。
能力を発動したのだ。
……しかし、特に何も感じたりはしない。痛みもないし、この時点ではどんな能力なのか判別もつかない。
「そら」
二鳥は羽を飛ばしてくる。
おそらくただの羽ではない。奴の重要な攻撃手段の1種のはず。
そう冬黒は判断。
まずは回避行動……
――しかし。
(う、うごけない!?)
冬黒はなぜかその場からうごけなくなっていた。
そうして避けられなかった羽は冬黒の服に引っ付くと……
――ボン! と、爆発!
羽型の爆弾かと理解する冬黒。
魔力での防御は間に合っているが、左腕からは出血、長袖が肩出しの服に変貌していた。
冬黒は受けたダメージよりも、動けなかった理由を探る。
というか今も動けない。
おそらく奴の能力によるものと思われる。
足を動かそうともがくと……
ズルリと滑るように
「まさか!」
「ご明察」
二鳥の能力【
それは二鳥以外に制空権を渡さない能力。
制空権は他者が宙を浮く事。
それを許さないということは……
足が地面から離れる事を禁じるということ。
つまり歩くことすら禁じられるのだ。
摺り足なら地面から離れないため、それならなんとか移動できる。
……だが摺り足で早く動けるわけがない。
実質動きを封じられたに他ならない。
そして二鳥は上から爆弾を投擲する。避ける手立てはない。つまり、それだけで相手を倒すことができてしまうわけだ。
これが二鳥の必勝法。
破られた事は未だかつてない……
――はずだった。
二鳥は爆弾を投擲開始するが、冬黒は急激な速度で移動し、それらを全て回避してみせる。
「なに!?」
驚く二鳥。目を凝らしてよく冬黒を見る。
……冬黒の足は地面から離れていない……
ではなぜ速い移動を可能にした?
冬黒の足元を確認すると、キラキラと光輝くガラスのような物に彼は乗っていた。
いつの間に? 少なくともさっきまではただの地面だった。
種明かしをすると、冬黒は足場にしていた地面をツルツル滑るガラスのような物質に変換させたのだ。
両足の乗る地面だけを。
光の魔力の変換能力で、そんなわずかな地面、それも上部の薄い部分だけを滑るガラスに変えたのだ。
そんなガラスでそりのように、地面を滑らせて移動。ゆえに、高速で動く事を可能にしたのだ。
しかし、それはスキーボードみたいなものだ。急な停止や方向転換などできないのではないかという疑問がわく。
二鳥もまたそう思っていた。
進行方向を予測し、羽爆弾を投擲し、始末しようと企む。
――射出。
うまく回避。
――射出。
旋回して回避。
――射出。
大ジャンプして回避。
ジャンプ?
地上から足を離せない以上、冬黒がジャンプすることは本来あり得ない。
冬黒の足の下には変換したガラス。つまり、地に足は離れていない。
薄いガラスが地面と独立したことで、スキーボードのようになっている。
つまりはスキージャンプの要領だ。
スキージャンプ……そのわりには高く、二鳥の目の前にまで!
「能力を使ったのに、ワシの目の前まで高く上がって来たのは貴様が初めてじゃ」
「ああそう。じゃあさよなら」
冬黒の全身が発光しだす。
その光から無数の輝く小さな刃な二鳥を襲う。
「ちっ!」
二鳥は羽爆弾で応戦。
光対爆弾……
互いが互いを破壊していく。
力はほぼ互角……
冬黒はガラスの下に雲を作りだすことで宙を浮いていた。
この雲もまた、教団の右堂からもらった力の賜物だ。
さながら筋○雲のよう。
本来自分以外が宙に浮くこの状況……二鳥のプライドを刺激していた。
人間風情が自分と同じ土俵に立ってるようで腹が立つ。
「しかし、大したことないですね妖魔王」
冬黒は光を放ちながら挑発してきた。プライドの高い二鳥は反応。
「なんじゃと?」
「この前の妖魔王の一兎は複数でかかったことでなんとか倒せた相手ですが、あなたは自分一人で倒せそう。妖魔王で最弱だったり?」
「貴様……」
そのプライドの高さゆえ、安い挑発にのってしまう二鳥。
「このワシが最弱だと!? 四鬼様配下の妖魔王で最強はワシじゃ! 一兎も、
「へー。なら妖魔王はみんな雑魚なんですね」
「おのれ! その口を閉じろ!」
冬黒になにか重いものでも背負ったかのような重圧がかかる。
「重力ですか」
「そうだ! 地に這いつくばれ虫けら!」
自分以外の誰もが天を浮かぶ事は許さない。そのための力としか思えない。
強力な重力で相手は地に這いつくばる運命。
――が、そうはいかない。
冬黒は全身から光輝く魔力の塊を放出する。
それは二鳥が放った重力を吸い取っていく……
「なんだと!?」
よって、冬黒にかかった重力は消え去る。
そして、それだけではない。
重力を吸い取った光の塊は巨大化し……弾ける!
無数の光の刃となって!
「ごがあああ!」
刃は二鳥を切り刻む。その数は……数えきれないほど無数に!
「奥義・
さらに追撃の光を放つ冬黒。
何千何万何億……
目に捉えられない小さな光の刃が、音速を越えるスピードで二鳥を切り刻ち、最後には無数の刃が一つとなり、二鳥を……
一刀両断に切り裂いて見せた。
「が、かば、そんな、バカな……妖魔王たる……ワシが!? こんな、ガキ一人に……」
「その油断こそが……命取りなんですよ」
――瞬間、二鳥はバラバラに砕け散った。
この戦い、冬黒の完勝に終わった。
いや、けして容易に終わったわけではない。彼もまた決死の覚悟だった……
奥義を使わざるおえないほど……
(達田さん、守れなくてすいません。どうか……安らかに……息子さんだけは、必ず救ってみせます。悪鬼たる妖魔から!)
――つづく。
「冬黒くん強いね~。次は青くんのターンだね! 立ち直った青くんの凛々しいお顔拝見しなくちゃね。ゲヘヘ」
「次回 青春対コカトリス。余裕だよね青くん!」
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