第59話 姉のため、みんなのため
――青春宅。
そこに和花は一人やってきていた。
青春の母、巳春は歓迎して家に迎えてくれた。『青もすみにおけないねえ~』と、ニコニコしていた。
青春の部屋に和花は迎え入れられたのだが……
当人の青春はふさぎこんだままだ。
今日は休日なため、部屋にこもってても問題はなかった。巳春も少し変だとは思っているのだが、あえてそっとしておいてあげてるらしい。
「青春くん。えっと、テレビでもつけようか!」
和花は青春の部屋のテレビを勝手につける。
――すると、報道番組が映る。
これは達田が出ると言われてる生放送の番組。
表向きは前のテレビでの失言の撤回。だが実際は更なる告発。
達田自身の評判を地に落とす。
前のように途中でカメラを止められないように仕向けてもいる。
一応は教団の手にかかってないテレビ局のつもりだが、念には念をだ。
同じ手を二度もおこなうなど、愚の骨頂。そう思われるかもしれない。
だが奴らにとって達田は必要な駒。そう考えると彼の身は安全と思われる。
ならば、多少無茶して同じ行動をとっても、少なくとも達田の身は大丈夫。
捕まってもまた助ければいい。
楽観的かもしれないが、達田の票を落とすには、他に手だては残されていなかった。
青春は目線をテレビに向ける。
「達田さん、逃げずに立ち向かうんだね」
和花の発言にはっとする。
少なくとも、保護には成功した。そうなると妖魔のいるかもしれない所になど、もう行きたくなどないだろう。せっかく助かったのだから。
達田を都知事にさせたくないのはこちら側の都合。
達田自身は身の安全が保証されるなら、逃げ隠れてもおかしくない。
なら尾浜達に説得されたからテレビに出るのだろうか?
――違う。
全ては息子の清史郎のためだ。
尾浜達に保護されつつ、都知事になっても本当の意味では安全にならない。おそらく事あるごとに達田に接近をこころみるだろう。
そうなると人質をとったりするかもしれない。言うことを聞かせるために。
その人質の筆頭は愛息子の清史郎。
息子も保護すればいい? そう簡単な話ではない。
そもそもどこかにずっと閉じ込めておくのでもなければ、見張りのボディーガードくらいでどうにかなる話ではない。
相手は妖魔王なのだ。
ずっと怯えた人生を送るのか?
それが自分だけですむなら身から出た錆、達田は受け入れるだろう。
だが息子にもそんな生き方をさせるのか? 達田はそれを良しとはしなかった。
自分が都知事にならなければ、奴らも興味をなくすかもしれない。そこに
興味をなくせば用済みとなり消されるかもしれないが……そこは保護してくれる尾浜達を信じる。
もしくは殺されるとしても自分だけなら納得もいくと……
青春はそんな達田の覚悟を察する。
自分はどうだ? 姉を奪われたショックでふさぎこみ、仇から逃げた。
情けないと思わないのか? そう自問自答する。
戦わないのか? 許せない仇を倒すために!
そう、心に少し火が灯る。
――だが、足が動かない。
ぷるぷる震えてる青春に気づき、和花は覆い被さるように、優しく青春を抱きしめる。
そして、生放送が今始まる……
『今日のゲストは達田候補です。他所の局ですが、少し問題発言が出ましたが……今回はその釈明をなさるためにご出演くださりました』
『達田一門です。よろしくお願いいたします』
『ではまず……』
放送スタジオの近くでは、冬黒と秋葉達が潜んでいる。
いつでも助けに出れるように……
『わたしは、共信党という教団組織に属していました』
達田はいきなり告発を始めた。
『は? 達田候補?』
『わたしはその教団と共に数々の悪事や汚職をおこなってきました。一例を見せます』
そういうといきなりテレビ画面に、達田の汚職や悪事を羅列した物が画面全体にうつる。
これはテレビ局が用意したものではない。冬黒達がひそかに仕掛けた物だ。
例の教団の四天王、右堂。奴の雷の力を受け取っていた冬黒は、電波ジャックなどお手のものになっていたのだ。
カメラを止めろとの発言が聞こえるも、止まらない。
カメラなど撮影で使われるものは冬黒の支配権だ。
止めろという発言を聞くに、やはり教団、いや、妖魔王の手の者だったようだ。違うと調べはついていたのだが……
無理やり達田を収録現場から追い出そとする者は冬黒達が能力で抑える。
これにより、達田は気兼ねなく告発を続ける。
「わたしは都知事になるべき人間ではありません。投票してくださる方々には、とても申し訳なく思っております。また、これから投票する方は、どうか別の方へと投票願います」
達田の表情からは、恐れなどは感じられなかった。
息子のために覚悟を決めたからだ。
青春はその真剣な眼差しに釘づけになった。
「そして、闇野くん。逃げた事は恥ではないよ」
まさかの青春への呼びかけ。
「君のような優しく、幼い子に助けを求めてすまなかった。話、聞かせてもらったよ」
達田は事の顛末を聞いていた。尾浜はそれで、青春はもうダメかもしれないと伝えていた。
頼みの綱が頼れない。そこに絶望するかと思いきや、達田は青春の事情を聞きその後同情をしていた。
そんな子を巻き込み、傷つけた自分の罪は重いと……
自分が青春をあの場に呼び寄せるような事をしなければ、彼は傷つかなかったのに……と。
「わたしなら大丈夫だ。自分のけつくらい自分で拭くさ。だから闇野くん。逃げていいんだよ」
青春の片目から一筋の滴がこぼれる。
「そして妖魔達! わたしはもうお前達に屈したりはしない! 都知事になどならない! もしそれでもなるとなれば、自殺してやる! お前らの思い通りにはならない!」
達田は強く、言いはなった。
彼は恐怖に打ち勝った。青春はそれがすごいことだと理解した。
姉を再び失ったような感覚。また、姉の記憶をおもちゃにされるのが怖くて仕方ない。
大好きな姉を思いだし、またわすれさせられることが嫌だった。
立ち上がれない……そんな自分とは違い、達田は恐怖に勝った。
――すごい。
尊敬に値する。
震えが……止まる。
和花はそれに気づく。
だがまだ離さず青春を抱きしめたままでいる。
――そんな時、
『お義母様、すいませんお邪魔します~』
部屋の外から黄緑の声がした。
そしてそこから何秒もおかずに、青春の部屋が開く。
……黄緑の眼には、青春と、それに抱きつく和花の姿……
「メス猫! 殺す!」
鬼の形相で叫ぶも、青春がいる場なので、すぐさま気を落ち着かせ……
「あ、あらあら~青くんから離れなさい~メス猫~殺すわよ~」
口調をあらあらお姉さんにしただけで言ってる事は変わらなかった。
ここで面倒なひと悶着が起きる。――そう思われていたのだが……
――ダァン!
銃声が鳴った。
青春の部屋の中ではない。
鳴ったのはテレビ内。
……つまり、発砲音はテレビスタジオ。
そして撃たれたのは……
達田だった。
胸に大きな風穴が空いていた。
そこから致死量と思われる出血をし、倒れる達田。
「達田さん!」
カメラにうつってない冬黒らしき声が鳴り響いていた。
テレビはそこから真っ暗に……
青春は和花の手を握る。和花は察して身体を離す。
「行くの? 青春くん」
「行く。ここで立ち止まっていられない」
もうあの様子では達田は手遅れかもしれない。でも行かねばならない。ダメでも、あの場には清史郎もいるはず。彼が最後まで身を案じた息子を助けに行かないと。
そして、達田の勇気に報いるためにも……青春は立たねばならないのだ。
――つづく。
「メス猫……排除排除排除排除排除」
「次回 冬黒光李と闇野春火。え、お義姉さんの過去話?」
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