第29話 青と黒、決着
「妖猫を使ってくることくらいは想定内ですよ……なんなら赤里さんにそこのお嬢さん人質にしてもらうことも……」
「できると思う?」
青春の発言の後、冬黒は秋葉に向けて視線を向ける。
秋葉はまだナイフに刺さったまま、身動きとれずにいた。
冬黒はさすがにもう脱出してると思いこんでいた。
しかし、秋葉一人で抜け出せるほど、安易なナイフではなかったようだ。
「周囲も確認済み、仲間は他にはここにいない。となるとあんたが桃泉さんを狙わない限りはその心配はない。――それとさ、」
壁の割れが大きく広がる。
「よそ見してるヒマ、あんの?」
「し、しまっ……」
ヒルダのごり押しにより、光陣壁はぶち抜かれた!
これにより、冬黒を守るものはなくなる。
いかに魔力を無限に使えるとはいえ、瞬時に張り替える事は不可能だった。
光陣壁は頑強なバリアー、ゆえに発動にタイムラグが発生してしまうのだ。
青春はそのタイムラグを見逃すような男ではない。そのスキをつき、短期決戦を仕掛けることこそが彼の最大の勝機だった。
「させませんよ!撃ち殺す!」
距離が近いことでレーザーの回避はかなり難航する……はずなのだが、
「「青春の邪魔、するなあ!!」」
ヒルダが肉壁となり、レーザーを全弾受けきっていく!
「なっ!?ば、化け物か!?」
レーザーはヒルダの肉体を貫くどころか、火傷跡をつけるのがやっとなだけ。
並みの妖魔なら一瞬で焼け焦げる一撃を何発も何発も放っているのにそのザマ。
さすがに驚愕する冬黒だが……
「いえ、まだ想定の範囲内……なら、もっと高威力の光撃を――」
「悪いけど、これ二対一なんだよね」
青春の声と同時に、全方位に出現したナイフが冬黒にめがけて発射される。
「想定内なんですよ!」
冬黒は光の球体を複数放つ。
球体はくるくる回りながら、それぞれがレーザーを放っていく。
レーザーがあらゆる方向に乱れ舞い、千本あるナイフを全て打ち落としていく。
その間、襲いかかってくるヒルダには瞬時に生成した光の鞭を使い、縛りあげて拘束。
これで万事OK……
「僕が直接来る事は読んでた?」
青春がナイフを手に持ち直接、冬黒に襲いかかってきていた。
千本ナイフの処理、ヒルダの処理、それらによるスキをつき攻めてきたのだ。
「もちろん読んでました。想定内」
冬黒は突如発光!その光は周囲に轟音と共に発せられる。
それはただの光ではなく、細かい光の刃のような素粒子。受ければ相手はその刃により突き刺されていく。
青春は光に包まれ、細かい光の刃による連撃に切り刻まれていく。
細かい刃による攻撃回数はすさまじく、千、万、億とわずか一瞬で増え続け、あっという間に相手をバラバラにしてしまうだろう。
「どうです?全て計算の内……」
勝った。冬黒の頭はそれしかなかった。
光の刃に切り刻まれていく青春。
――すると、
バラバラに彼の姿が分かれていく。
――ナイフの姿に。
「なに!?」
冬黒にとってあまりに信じられない事。
襲いかかってきていた青春は、まさかのナイフの塊が作りだした変わり身のような偽物の青春だった。
まさかナイフで自らの偽物を作るなんて、考えもしなかった事だった。
「ゲームオーバーだね」
ヒルダの大きな口から青春が飛びだし、冬黒の背後をついていた。
右手には刀身の長い、ビームサーベルのようなナイフが握られていた。
「
絶大な魔力を秘めた一振り。
できる限りの魔力で防御に回る冬黒は不適に笑う。
「想定……」
「外」
防御など意味をなさないように、冬黒は青春に切り捨てられる。
血しぶきとともに、ゆっくりと地に冬黒は倒れた。
♢
血にまみれ、倒れ伏す冬黒を冷たく見下ろす青春。
冬黒はまだ息がある。
死んではいないが、勝負はついたと思われる。
「ま、待って!」
動けない秋葉が必死に青春に呼び掛けた。
「ま、参った!ごめんなさい!降参する!だからコーリちゃんとウチを殺さないでもらえると……」
青春の冷徹な視線から、今にも冬黒を殺すと思ったのだろう。
ゆえに頭を下げ見逃すよう頼み込んだようだ。
「じ、実はウチらは君たちを殺す気なんて最初からなかったの!共信党のバカ共騙すためのホラ!そもそもの目的はね!」
共信党のことは、黄緑は存在を聞いてたが青春にしてみればなんの話かはわからない。
だからこそ、殺す気なかったなどと言われても信用などできやしない。
――だが、
「別に、殺す気はなかったよ。腹立ってはいたけどね」
青春は持っていたナイフを消し、殺さないことをアピールして見せた。
秋葉は安堵する。
「その代わり、お姉さんのところに案内してもらおうか。まだ信用できないからね」
「そ、それはもちろんでござるよ!」
「今さら語尾つけなくていいから。それと……」
「な、なにか?」
青春の冷徹な視線が秋葉に向けられる。
「……もし、お姉さんの身になにかあったとしたら……。全員、ただじゃ済まさないよ……」
中一の子供の発言。
だが、それを感じさせないほどの恐怖を全身に感じる秋葉。
背筋はゾッとし、冷や汗が止まらない。
彼の背後に控える妖猫ヒルダもまた、青春の感情に呼応するように怒気を発っする。その気迫だけで吹き飛ばされそうになるほどの迫力。
――そして、今にも秋葉を食い殺そうと、襲いかかってきそうな雰囲気を醸し出していた。
ヒルダは別に黄緑の心配はさほどしていない。
だが青春の感情は彼女にも色濃く出る。契約の影響なのだろうか?
あまりの二人の気迫に恐怖を感じてる秋葉は、口を開けたままプルプル震えていた。
青春は秋葉の動きを封じていたナイフを解く。よって、動けるようになったはず。
しかしご覧の通り気迫にビビってしまったため動かなかった。
首を可愛くかしげる青春。
「なに、ボーッとしてるの。早くお姉さんのところに案内してよ」
もう先ほどの冷徹な視線ではない。いつもの、無表情で顔のいい男の子の顔だった。
その表情を崩してはならない。そう感じた秋葉は行動に出る。
「す、すぐ案内するでござるよ!……た、ただコーリちゃん背負って行っていいですか?」
チラリと倒れてる冬黒に視線を向ける青春。
冬黒はおそらく身動き1つ取れない。秋葉はそんな冬黒を置いて行けないと言いたいのだろう。
もう二人に自分に罠を仕掛ける気力も力も残ってない。そう判断した青春は頷き、了承した。
青春は振り向き、隠れてる和花に視線を向ける。
「桃泉さん、もう大丈夫。一緒に行こう」
優しく声をかけると彼女は嬉しそうに出てきた。
すぐさま青春に駆け寄り、怪我の有無を聞いたりしてニコニコ話かけていた。
そんな彼女の姿を見た秋葉は思う。
(あの怒りのショタくん見てないからこんなにニコニコできるんだろうな)
秋葉は青春に恐怖の感情を植え付けられていた。
ゆえに端から見ても好意を寄せてると思える和花に複雑な感情を向けていたのだ。
だが仮に見ていたとしても関係ない。和花の青春に向ける好意はそれくらいで揺らぐものではないからだ。
なぜなら彼女もまた黄緑と同じく青春にゾッ婚だから。
♢
そして秋葉の案内により、黄緑のいると思われる場所、この地を制する妖魔のボスの部屋の前にやって来た青春達。
警戒しながら、青春は部屋のドアをあける。すると……
「ゲロ吐くなよ。きもいな」
「うわ!?何言ってんだこの化け物!?」
黄緑と尾浜がなにやら言い合っていた。
黄緑はともかく、尾浜の方はなんかやけに狼狽えている。
(お姉さんに化け物って言ってるの?失礼じゃない?)
青春は事情を把握していないため、黄緑の圧倒的実力に対し化け物と暴言を吐いたと思っていた。
実際は違うのだが。
見たところ黄緑は血こそ出ているが元気そうに見えた。
ホッと胸を撫で下ろした青春は黄緑に呼びかける。
「お姉さん」
声に反応した黄緑はこちらを見ると……
「新手?まったく」
青春に駆け寄ってくるが……
いつもならニコニコしながら寄ってくるところなのに、表情を変えていなかった。
そして、青春の前に立つと……?
黄緑は青春の顔をじっと見て止まった。
「ワタシをハメようなんて、百年早いよ!」
――黄緑は振り返り手刀を振るう。
なにもないところに向かって……いや、違う。
黄緑は何かを切りつけたのだ。
青春はすぐ確認。目をこらすとそこには妖魔の姿を確認できた。
長い耳と顔には大きな口だけの、グネグネした化け物だった。
妖魔は突然の出来事に驚愕。
「があっ!?な、なんでボクちゃんの居場所が!?」
「舐めた真似してさあ……あんたは青くんの手を煩わせる必要ない。ワタシが仕留めてあげるよ」
こうして27話との時系列が合うことになる。
――つづく。
「青くんに会えた~さて、邪魔ものは始末するとしますか」
「次回、黄緑対ボス。チャチャっと終わらせてこの章終了させた後、青くんとデート行きたい」
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