第28話  光対闇

 黄緑とボスの戦いから少し時は戻り……


 ――青春side。


 青春と冬黒は互いに睨みあい、対峙していた。


「かかってこないんですか?お姉さん、心配なんでしょ?」


 冬黒は少し挑発するかのように笑みを浮かべた。


 ――当然心配だ。

 しかし、感情に任せて一蹴できるような相手ではないと、青春は肌で感じていた。

 ビリビリ感じる冬黒の魔力、そして、相性最悪の光属性……無闇に攻撃できないのだ。


 だが、こうして突っ立っていても仕方がない。

 黄緑の身が心配でたまらない青春は意を決する。


 青春の上空、周囲に、大量のナイフが浮かび上がる。


千闇剣サウザントナイフ


 前のサイクロプス戦で見せた百連剣ハンドレットナイフ、それをはるかに上回る数のナイフ。

 それが一斉に冬黒に襲いかかる!


「そんなもの、通用しませんよ」


 冬黒の周囲が、目も開けていられないほどに、まばゆく。

 そして、襲いかかってきたナイフがことごとく光の熱によって溶かされていく。

 1本残らず。


「無駄とわかるでしょ?」


 冬黒は全てを溶かした事を確認すると、まばゆい光をとく。


 それを見て青春は口元に笑みを浮かべる。


 青春は千本のナイフ全てを同時に放ったわけではない。

 いくつかのナイフは存在を消し、ある地点にとどめて残している。


 見えないのではなく、ナイフの存在を消している。ゆえに、熱にさらされることもない。

 そして、光が消えた瞬間、とどめて置いたナイフをさせる。

 見えないが刺さるナイフを、そのスキに放つ!


 完全に不意をつける、そう思っていた。


 ――だが、


 ジュッ……と、物が溶ける音だけが周囲に響いた。


「――!?」


 見えないナイフもまた、冬黒に届く前に全て溶けたのだ。


「やはり、なにか仕掛けてたみたいですね」

「光の防御壁……解除してなかったんだ」

「ええ」


 冬黒の周囲を囲ったまばゆい光の壁の事だ。視界がよくなり、光はなくなっていたから、てっきり解除したと思い込んでいたのだ。


 しかし、壁はそのままだった。

 だからナイフは同じように溶けてしまったのだ。


(光の壁と冬黒に隙間はない。壁の内部から侵入して刺すことも不可能なわけだね……)


 バリアーのような光の壁は、冬黒の周囲360°、ミリの隙間もないほどにガードしている。これではナイフは奴に届かない。


(かといって、冬黒の体の中にナイフを飛ばして切り裂くなんてこともできない)


 なぜなら、普通のナイフだろうが、魔力のナイフだろうが、内部に溢れる冬黒の光の魔力に瞬時に溶かされ、切り裂く前に消失してしまうからだ。


(想定以上に厄介な相手だな。でも……)


 青春は思う。これだけの防御力を誇る光の壁、そういつまでも張っていられるわけがないと。


 ならば解けるのを待つのも一つの手。……そう考えたのだが……


「闇野、急に動き止まりましたけど、もしや俺の光陣壁が魔力切れで解けるの待ってます?」


 見抜かれた。……しかし、


「残念ながら、それは無駄というもの。俺の能力、有り余る後光インフィニティ。魔力切れというものとは無縁の力なんだ。つまり、光の壁が時間経過で消える事はない」


 これほどの防御壁を常時張りつづけられるというのだろうか?

 いささか信じがたい。

 青春の攻撃の全てを打ち消すほどの強大な守りを永遠に残せるなんて。


「……本当に?ブラフなんじゃないの?」


 青春は疑問を口にする。


「そう思うなら、こうしていつまでも突っ立ってますか?どちらにせよ、助けに行きたいのでは?」


 ……冬黒の言う通りだ。

 黄緑救出に向かいたい青春にとっては、時間切れで壁の消失を待つ余裕などない。


 ここは冬黒を無視して黄緑の元へ向かおうか?

 いや、それだと近くに隠れさせてる和花の身が危ないかもしれない。

 と、青春は逡巡していた。


「こないならこちらから攻めましょうか?」


 冬黒はノーモーションで、光の熱線とも言えるレーザー光線を放つ!


 青春はすかさずナイフを投擲してガード……


「ぬるいですね」


 ナイフは消滅するも、レーザーの勢いは止まらず、青春に向かう!

 青春は続けてナイフを発射!

 何本も何本も消滅すると、やっとレーザーそのものも消え去った。


 たった一発のレーザーを止めるのにここまで手間取るとなると、連発でもされたら……


「ほらほら、ボサッとしてたら……」


 その嫌な予感は的中!冬黒はレーザーを連射してきた!


「死にますよ?」

「――っ!」


 防ぎきれないのなら、避けるしかない。青春は走り回りながらレーザーを回避していく。


 レーザーの速度は光の速度……というわけではなかったから、なんとか躱す事は可能だった。


 とはいえ速いのは間違いない。

 音速に近いレベルの速度はあると、青春は分析した。


 無限の魔力が真実なら、このレーザーも撃ち放題ということになる。

 もしそれで、先ほどの光の防御壁を張りつつ放っているのなら、まさに攻防一体、付け入るスキがない。


 それだけはない……そう思うことしかできない青春は、攻撃中の冬黒のスキをつくため、切り札を放つ!


 両手を広げ、漆黒の闇をもたらす……


闇空間ダークサイド!」

後光世界シャイニングワールド!」

「――!?」


 青春が生み出した漆黒の闇が、冬黒の背中から現れた、太陽のような光の塊。

 そこから発せられるまばゆい後光により、ガラスが割れるかのようにヒビ割れて、漆黒の闇は一気に晴らされた。


 青春が闇空間ダークサイド発動と、ほぼ変わらぬ速度で放たれた冬黒の後光世界シャイニングワールド

 発動が読まれてたかのような動きだった。


 ……せめて闇空間ダークサイド発動からワンテンポでも後光世界シャイニングワールドが遅ければ、完全にかき消される事はなかったはず。


 発動タイミングがほぼ変わらなかったこと、相性が悪いこと。その二つが重なったことで打ち消されてしまったのだ。


「闇野、君の闇空間ダークサイドは厄介な代物と聞いてます。相性のいい俺でも、発動されれば敗北は必至だったでしょうね。だからこそ、対策はとってました」

「……」

「闇属性に対する完全アンチ空間術、後光世界シャイニングワールド。これを寸分違わずぶつける事で打ち破る事が可能でしてね。少し賭けでしたが上手く行きましたよ」


 青春の額からは冷や汗がたれていた。

 闇空間ダークサイドは彼にとっての切り札。破られた事は今まで一度たりともなかった。

 絶対的信頼感のある大技だった。


 今まで、闇空間ダークサイド闇光死斬デビルサーバーのコンボ攻撃で上級妖魔だろうが仕留めてきた。

 青春の追う最大最強の宿敵、四鬼しきを倒すためにヒルダ共に考案した必殺奥義。


 ……それを防がれたのだ。

 中学一年生……まだ子供の青春にとって、それは精神的にもダメージのある出来事だった。

 彼の自信が砕かれたのだから。


 しかし、彼はくじけなかった。

 ショックでスキだらけになり、無防備にでもなりかねない状況だったが、青春はすでに行動に出ていた。


 ショックなど受けてるひまなどない。今の彼の頭には黄緑を救出する、それしかなかったから。


(奥義が使えないなら他にできる最大限の戦法で冬黒を倒し、先に進むだけ!)


 青春はすでに切り替えていた。


(桃泉さん、ゴメン。少し守りを解くよ)


「ヒルダーーーーー!!」


 青春はらしくない大声で、和花を守らせていたヒルダを呼ぶ。


「「青春~」」


 妖猫ヒルダは愛する青春に呼ばれ、一瞬で彼の背中に現れる。


 和花の守護をおろそかにするリスクをとらねば、冬黒に勝てない。そう判断し、ヒルダを呼び寄せた。


 和花の身の安全を考え、短期決戦で決着をつける気の青春。


 ヒルダを使った、青春の今できる全身全霊100%。

 渾身の力押しが始まる!


「ヒルダ!壁を壊せ!」

「「お任せですわ~」」


 ヒルダの両手が冬黒の光の壁をつかみだす!

 熱線により、焼け焦げていく手。しかし、問答無用!気にせずヒルダは押し潰していく!


「バカな!?そいつも光には弱いはずでしょ!?」

「「うるせえですわ!青春が言うんですもの。苦手だろうが嫌いだろうが、光だろうが潰すまでですわ!」」


 冬黒の光陣壁はピシピシと、ヒビ割れる音が鳴り響いていた……



 ――つづく。



「わお!ヒルダの力押し怖~。しかし、青くんはワタシのために必死みたいだし気分いいな~(ニコニコ)」


「次回、青と黒、決着。春と冬でもあるよね~」

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