第9話  対価

 ──昼休み。


 青春はちょうどいいと思い、和花の元へ向かう。


「桃泉さん。ちょっと……」


「「青くーん!お姉ちゃんだよお!お昼たーべよ!」」


 大声で黄緑乱入。

 悪目立ちしてしまうため、青春はやめてほしいと思った。


「闇野くんのお姉さんまた来てる」「昨日先生に怒られてたのに」「なんかおっかねえ」


 ひそひそクラスメイトの声が聞こえる。

 本当の姉ではないのだが、クラスメイトには青春の姉とインプットされてしまったようだ。


「またお前か闇野姉」


 担任のマッチョ教師が嫌そうな顔を浮かべる。


「高等部のくせに中等部をうろうろしおってからに……」

「青くん青くん!お姉ちゃんお腹空いたからさ!早く早く!」


 もめ事起こさないように言われたからか、教師の発言を完全無視に切り替えてる黄緑。

 話さなければ、言い合いにもならないからだろう。


 ──ため息つく青春。


「お姉さん。実はちょっと桃泉さんに用があって……」

「ならまたランチ、一緒にすればいいじゃん」


 すると黄緑は、青春をいきなり担ぐ、否、お姫様抱っこしだした!


 相手の方が年上で、体格も上とはいえ、さすがに男が女性にお姫様抱っこはみっともないと思い、青春は抵抗しようとするが……

 

 びくともしない。


 ヒルダの力なのか、元々パワーがあるのかはわからないが、昼間は力が出せない青春では抵抗できないほどの力の差があるようだ。


「お姉さん……は、離して」


 それでも抵抗を続ける青春。

 ――すると、

 ギュムッ……と、柔らかいものを掴んだ音がする。青春の手が黄緑の胸部をわしづかんでいたのだ。

 黄緑は顔を少し赤らめて、満更でもなさそうに言う。


「あんっ……。青くんのエッチ……」

「……ご、ゴメン!」


 すぐ手を離し、抵抗を止める青春。


 (す、すごく大きかった……)


 それに触れた右手をじっと見ている青春。

 彼も男なのだ。仕方ない。


「あの、あたしはどうすれば」


 和花はポツンとしていた。


「つ、着いてきて。お弁当持って」


 と、青春は和花を誘ったのだった。





 三人は授業とかでも使われない空き教室で昼食をとる。

 周りに誰もいない場がほしかったので、この空き教室は都合がよかった。

 誰かしら入ってくる可能性はあるが、今のところ誰もいないし。


「はい、青くん!お姉ちゃんの愛姉弁当!」


 だからお前が作ったわけではないだろと、この場にいないはずの桃泉姉のツッコミが聞こえてくるように感じる。


 緊張感が薄れる……

 だが、シリアスになりすぎるのも良くないかと青春は思い、とりあえず弁当を受けとる。


「……ありがとう、お姉さん」

「エヘヘ」


 顔を赤らめる黄緑。


 付き合ってるのかこの二人?と、思われそうだが、姉と弟で通ってるので、そんな誤解は生まれない。


 青春は弁当を食べながら、本題に入る。


「桃泉さん、少し聞きたいことが、」

「青くん、食べさせてあげようか?」


 ……黄緑が本題に入らせてくれない。


「はい、あーん」

「……お姉さん、少し黙っててくれないかな?」

「ひ、酷い……」


 いきなり後ろ向いて、何かしてから青春を見る黄緑。

 青春の発言に傷ついた黄緑の目には大粒の涙が……


 ……無論嘘泣きだ。


 後ろ向いたのは目薬さして、涙を流してると騙すため。


 ただ、演技事態はわりとうまく、ショックを受けてるように見える。


「青くんのためにお弁当作ったのに、あーんもさせてくれないなんて……」

「あ、いや……」


 少し、あたふたする青春。

 彼女に騙されている……


 黄緑は自らの胸に手を当てて言う。


「ワタシの大きな胸を揉みしだかせてあげたのに……」

「いや、揉みしだいては……」


 否定しようとするも、触ったのは事実。

 ……仕方ないと、青春は折れる。


「わ、わかったよ。お詫びするから……。だからちょっと桃泉さんと話させて」

「じゃあワタシの膝に座って!」


 泣いてたのが嘘のようにケロっとした笑顔で指示。

 まあ実際嘘なのだが。


 ――で、しぶしぶ青春は黄緑の膝に座り、彼女に背中から抱きつかれるかのような体勢になる。

 二人だけならともかく、人前でこれはキツイ。


 青春は顔を赤くしながら、本題に入る。


「も、桃泉さん。今日休んでる三人について、何か知ってる?」


 呆れられてるかと思いきや、和花は普通に答える。


「何かって?」

「……職員室でたまたま話聞いてさ、どうやらあの三人昨日から家に帰ってないらしいんだ」

「不良だし、おかしくもないんじゃないかな?」

「……中学生だよ?朝帰りでも違和感あるよ。補導とかされそうだしね」


 中一で1日家に帰らないで遊び呆ける。絶対ないとは言わないが、あまり現実味はないかもしれない。

 それに三人同時、そして午後の授業から姿が見えないのだ。大事と思って間違いないと、青春は判断した。


 昼まで和花に聞かなかったのは、情報を集めていたからだ。

職員室に立ち寄る事で、三人がただ、遊び歩いてるだけか確認したりして。


 親からの捜索願いも出てるらしいので、なにかあったのは間違いない。

 そして、朝の和花の発言や、笑ってた彼女の素振りを見て、何か知ってるのではないかと判断したわけだ。


 和花は、


「闇野くんだから話してもいいかな。うん、奴らが消えた理由知ってるよ」


 あっさりと白状した。


「奴らが消えたのはね、旧校舎に巣くう悪魔様のおかげなんだよ」

「旧校舎の悪魔様?」


 聞いたことなかった青春は首をかしげる。


「あ、それ聞いたことある」


 黄緑が言った。

 彼女は中等部もこの学園だし、そういう情報は青春より詳しかった。


「確か戦前からあった、この学園の元の校舎だよねそれ。使われなくなった理由がその悪魔だか、幽霊だかのせいらしいよ」

「学園にそんな存在がいたなんて……。話を聞くと相当長生きそうだ。わりと強敵かも……」


 長い間退治もされず、現代まで生き残ってる悪魔。普通に考えてただ者ではないはず。

 黄緑を助けた時に戦ったスライムなどとは比較にならないだろう。


「──で、桃泉さんはその悪魔様になんてお願いしたの?」

「よくお願いしたってわかったね。願いの内容?えっとね、【あの三人にあたし達が受けた苦しみ以上のものを与えてから殺して】……だよ」


 なかなか重い内容だった。

 ……まさか殺せまで願ってるとは青春も思ってなかった。


「闇野くんにはいつも申し訳ない気持ちでいっぱいだったんだよ?でも闇野くんは奴らの嫌がらせに表情一つ変えなかった。強い人なんだなって……憧れてた」

「……」

「でも昨日水をかけられた時、アタシはその場にいなかったから聞いただけだけど、すごいショックを受けてたって友達が言ってた」


 水により、教科書やノートだけでなく、自分の服までビショビショにされた。

 体育のジャージはあったが、私物を濡らされたのはさすがにキツかった。


 黄緑が去った後、教師は奴らが手を滑らせただけなんて、あからさまな嘘を信じ、「避けられなかったのか?」……などと青春に言ってフォローすらしてくれなかった。


 さすがに青春も精神的ショックは受けていた。黄緑が怒ってくれたことで少し救われてはいたが……


「……僕の弱さの責任か」

「え?いや、闇野くんは何も悪くないよ?悪いのはあいつら……」

「それより桃泉さん。悪魔に対価を求められたでしょ?奴らはなんの報酬もなしに手助けなんてしてくれない」


 青春の質問に和花は言葉につまる。だが青春のまっすぐな視線に逆らえず、和花は頷く。


「うん。あたしの命がほしいって……」

「了承したの?なんで?殺されるってことなんだよ?」


 さすがに意味がわからなかった。命を投げ捨ててまで奴らに復讐したかったのかと青春は思った。

 だが、和花が了承した理由はそうではなかった。


「ずっと、闇野くんを助けたかった。でも、あたしには勇気がなかった。そんなあたし自身許せなかったの。……だから」


 復讐というより、青春のためにしたことだった。責任を感じ、自らの命を差し出してまで……

 そこまで彼女は追い詰められていたのだ。


 殺されるのが怖くないわけではないだろう。勢いで頼んでしまったのかもしれない。

 ……彼女をそうさせたのは自分にも責任がある。そう思う青春。


「場所教えて。三人を助けに行くから」



 ――つづく。



「青くんがそうしたいなら……まあワタシも手伝うけどさ」


「次回 200歳越えの妖魔。超ジジイじゃん」


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