第7話 僕は大丈夫
黄緑は唖然としていた。
バケツを持って笑ってる者がいるという事は、青春はわざと水をかけられたと思われる。
青春はほぼ無表情。
笑ってる者は三人ほど。
周りの他の生徒は、居心地悪そうにして、遠巻きで見てるだけだった。
笑ってる三人は共に男で坊主頭。その中のリーダー格っぽい背の高めの男子がバケツを持っていた。
……水をかけた現場を見たわけではない。でも、物的証拠は揃っている。故にこの三人がわざと青春に水をかけたとしか、黄緑には思えなかった。
そして黄緑がとった行動は……
「この、クソガキ共ぉぉ!!」
教室のドアを力ずくで外し、あろうことかそれを悪ガキ三人に投げ飛ばした!
三人は怒号と、飛んできたドアとで、二重に驚いていた。
ドアは三人に当たらなかった。
わざと外したわけではない。ただ当たらなかっただけ。
――つまり、黄緑は本気であてるつもりで投げたのだ。
しかし、いとも簡単にドアを投げ飛ばすパワーはすごい。これは青春に憑く悪魔、ヒルダからもらった力なのかも……
「な!?なんだこのゴリラ女!」
「ば、バケモンだ!」
悪ガキ三人は明らかに黄緑にビビって、後退り。
黄緑は拳をポキポキならし、さあ今からぶん殴るぞと言わんばかりの構えをとる。
――すると、
「何の騒ぎだ!?」
筋肉ムキムキの、教師と思われる大人の男が慌てるように教室に入ってきた。
黄緑の怒号とドア破壊の音を聞きつけてきたのだろう。
すると悪ガキのリーダー格が教師に駆け寄る。
「せ、先生!急にこの女の人が、なにもしてないおれ達に向かって……」
「な、なにぃ!?怪我はないか!」
残念な事に、悪ガキの発言は一応間違ってない。
少なくとも、黄緑にはなにもしてないから。
「おまえ、制服からして高等部だな?中等部になんのようだ!」
何もわからず、悪ガキを庇う教師に苛立つ黄緑。
「うるせえ!このガキ共が青くんいじめてたんだよ!」
頭に血が登ってる黄緑は今、凄まじく口が悪くなっている。
普段は教師とかにこんな口聞く子ではないので注意。
「青くん……?」
筋肉教師は濡れてる青春を見た。
「なんだ。闇野のことか。……なんで濡れてるんだお前」
「なんでって、そのガキにやられたからだろ!」
「ええ?ほんとかあ……?」
青春がやられた事に対しては何故か怪訝な反応。その態度は余計黄緑をイラつかせた。
「なにあんた、疑ってるの?このガキ共ろくでもないわよ。隠れてタバコとか吸ってそうだし」
「な!?偏見が過ぎるぞお前!確かにこいつらはやんちゃなとこもあるが、そんなに悪い奴らじゃないんだぞ!そういう偏見がこいつらを傷つけるんだ!」
教師だからか、信用してるからなのかはわからないが悪ガキをかばう教師。
黄緑はそんな教師が気に入らなかった。
「現在進行形で傷ついてる子がすでにここにいるでしょ!」
「そうだ!この三人がな!」
「違うわ!マヌケ!」
「ま、マヌケ!?お前何年何組だ!生徒指導だ!」
「知るか!バーカバーカ!」
舌出してバカにする黄緑。
……このままでは黄緑の立場が悪くなるかも、下手すれば停学なんて事も……
そう思った青春は動く。
黄緑の元に駆け寄って、一言。
「お姉さん。僕は大丈夫だから」
「あ、青くん!?でも!」
ニコリと笑いかける青春を見て黄緑は唇を噛み締める。
青春が大丈夫と言っても、それで素直に納得はできない。
だが、今ここで事を荒立てても青春の立場を悪くするかもと思い、ここはひとまず引き下がる事に黄緑はした。
……無論、ひとまずだ。
♢
その後、黄緑は自分の担任教師と共に生徒指導室行きにされた。
筋肉教師に担任と共に説教された。
黄緑はほとんど説教は聞かなかったし、悪ガキ三人に謝る気なんてさらさらなかった。
その結果、停学にさせられる危険性があったとしてもだ。
長い説教から解放されると、時間は昼すぎ。今さら教室に戻るのも面倒だった黄緑は、今日はサボろうと判断。
(どうせサボるなら今日1日青くんを見守ろうかな?)
黄緑はそう思い、早速青春の教室に向かう。
(そもそも弁当も持ってきてるしね)
と、彼女はルンルン気分。
「あ、あの!」
黄緑は誰かに呼び止められた。
振り向くとそこには……
「ん……?桃泉妹?」
そう、黄緑の友人桃泉の妹こと、和花だった。
「闇野くんの、お姉さん……ご、ごめんなさい!」
和花は何故か黄緑に頭を下げた。理解が追い付かない。何故この子は謝っているのだろうか?
和花は謝罪理由を話す。
「じ、実は……。闇野くんがいじめられてるきっかけ……あたし、なんです!」
「あ!?」
黄緑のドスの聞いた声に、和花はビクッと体が震えた。
「なに?どういう事?事と次第によっては……」
「待って!」
また黄緑を止める声。今度は姉の方。つまり黄緑の友人の桃泉だった。それと隣には青春の姿も。
「話、ちゃんと聞いてやって」
♢
和花に事情を聞いた黄緑。
「要するに、元々いじめられてたのは妹ちゃんで、青くんが庇った事で矛先が青くんに向かったと?」
話をまとめるとそういう事らしい。おどおどしている和花はいじめの標的になっていた。そんな彼女を青春はなにかと庇っていたらしい。無論青春は手なんて出してない。
おまけに顔のいい青春は女子生徒からの評判も良かった。そういった嫉妬も加味して、いじめの対象が移ったらしい。
いじめられてる相手には女の子達も近寄りづらくもなる。自分に矛先が向くのを恐れて。
女の子が青春に近寄らなくなるのも奴らにとっては都合良かったのだろう。醜い嫉妬だ。
「とにかく!青くんは偉いねえ」
黄緑は青春をナデナデする。
素直に撫でられる青春の頬は少し赤い。
「でも、それで青くんが傷つくのはお姉ちゃんヤダよ?」
「傷なんてつかないよ。力は使えなくても、ヒルダから得た防御力はそのままだから、あいつらの攻撃なんて痛くもかゆくもない」
「でも、精神的にはキツイでしょ?水かけられたりしてたし、心の傷が心配だよ」
心の傷は防御力あろうが関係ないことだ。肉体的ダメージはなくても、精神的にはとても良くない。
「僕は大丈夫だよ」
「いや、無理してる!お姉ちゃんにはわかるもん」
……まだ会って1日しかたってないのだが、何がわかるのだろうか?
「あ、そうだ!ワタシお弁当作ってきたんだよ。はい青くん」
「え?あ、ありがとう」
素直に受けとり礼を言った青春。弁当を開けると、おにぎり、ウインナー、卵焼きなど普通に美味しそうなお弁当だった。
「お姉さん、料理上手いんだ」
「うん。いつも弁当自分で作ってるからね!」
小声で桃泉姉は呟く。
「嘘つけ。いつも学食と購買だろ。その弁当も本当は母親でしょうに」
……その通りである。黄緑は見栄をはっただけだ。
そんな中、一人暗く弁当を食べる和花。彼女は誰にも聞こえないようなトーンで呟く。
「闇野くん……大丈夫。もうあんな奴らには好き勝手させないから……。さっき頼んだから……学園に潜む悪魔様に……」
――つづく。
「おや?不穏な発言。ま、あのガキ共がくたばるならそれもいいかなと、黄緑お姉さんは思いました」
「次回 学園の怪談。階段? 」
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