【幕間】虹色女神とお花畑転生娘

 あり得ない!

 あり得ない!!

 絶っっっ対にあり得ない!!

 あたしは女神さまに頼み込まれて。

 わざわざ。

 仕方なく。

 この世界を救うために転生してんだ。

 

 その証拠にみんなあたしに期待してた。

 悪い大貴族たちをやっつけてくれって言ってたじゃない。

 ろくにパンも買えないようなしみったれた世の中ぶっ壊して、夢と希望で輝く社会を作ってくれって。


 生まれながらの救世主。それがあたし。

 だからみんなの願い通り、この国の利権をがっつり握っていた、頭ガッチガチの古臭い大貴族どもを、みんなまとめて成敗してやったんだ。


 それを犯罪者扱いして処刑するなんて……こんなの絶対許されるわけがない!!


 あたしはかつて日本のごくごくフツー……

 じゃなくてかなりイケてる女子高生だった。

 チア部のキャプテンでみんなの憧れの的。女子はみんなあたしの真似をしたし、男子は少しでも話しかけてほしくて必死でアピールしてきた。

 そんなあたしがあっさり死んじゃったんだから、もう世界の損失だよね。大損害。


 でもあたしの死にはちゃんと理由があった。

 なんか真っ白でふわふわした世界であたしは女神さまに会ったんだ。


「お願い。あたしの世界を助けて」


 大きな瞳をうるませ、柔らかい手であたしの両手をひしと握り、一生懸命頼み込んできたかわいらしい女神様。


 ふわっふわした綿菓子みたいな髪は虹色に輝き、こぼれ落ちそうに大きな瞳はプリズムみたいに見る角度によって違う色にきらめく。

 肌は透き通るように白く滑らかで、身にまとった白いワンピースも不思議な光沢があって彼女が少し身動きするたびにオーロラみたいに色彩を変える。

 なんかもう人間離れしたっていうより、本当に人間じゃあり得ないくらい綺麗きれいでかわいい。


 だから一目で女神さまだってわかったんだ。


 そんな女神さまが! 女神さまがだよ?

 あたしの手を握りながら言ったんだ。泣きそうな顔で、一生懸命すがりつくように。


 せっかく作った世界なのに、このままじゃ消えちゃうって。

 なんか階級社会にヨクアツされてひへーした民衆がどーのとか、社会の変革に必要なエネルギーがこーのとか……

 そんなこんなで社会の成長がストップしちゃってるんだって。

 とにかく、このままじゃガッチガチに固まった古い世界がじわじわダメになってって、最後にはぶっ壊れちゃうって。


 何それ、かわいそうじゃん!


 そこで女神さまは考えたんだ。

 あたしが生きてた世界の人に夢を見せて、女神さまの世界をモデルにしたゲームを作らせたの。


 それが「白百合の乙女は鮮紅の夜明けを招く」通称「ユリ紅ユリコー」。

 あたしが前世でやりこんでた乙女ゲーム。


 舞台はカロリング王国の王都にある王立クリノス学園。

 ヒロインは特待生として入学した孤児院育ちの少女ミラ。

 そこで出会う王太子や、宰相、騎士団長、魔術師団長といった豪華な面々の子息と…… ううん、それだけじゃない、他にもバラエティに富んだ攻略対象とどんどん仲良くなってって、恋と学園生活を楽しみながら世界の謎を解き明かして行くの。

 他のライバル令嬢たちとも、息詰まるような頭脳戦を繰り広げる。

 ヒロインはそんな奴らをやっつけて、最後にはこの国の利権を握る大貴族たちをみんなやっつけちゃうんだ。

 その裏には「生けとし生きるものの生命エネルギー」をこっそり奪って食べてる魔族どもの影があるんだよね。


「あなたは選ばれたの。あたしの世界を救うヒロインとして。だから、あたしの世界を知って、親しんでもらうためにゲームを作ったのよ」


 クラスの一軍のこのあたしが、なんで「乙女ゲーム」なんて陰キャの好きそうなモノやりこもうと思ったのか自分でも不思議だったんだけど、こう言われてスッキリ納得した。

 女神さまがあたしを選んで、この世界に呼ぶために働きかけてたんだね。だからガラにもなくゲームになんか夢中になってたんだ。


「あなたはユリ紅ユリコーの世界にミラとして転生して、世界が前進する力になってほしいの。異世界で生まれ育ったあなたならではの発想と知識でみんなを救ってあげて」


 女神さまは宝石みたいな涙を浮かべ、あたしの両手を握って一生懸命訴えかけてきた。

 あたしはもう、すっかりほだされてしまったんだ。


 任せてよね。

 あたしがしっかりヒロインやって世界を救ってあげるんだから。

 頭の固い老害ジジババたちがいいとこ取りしてるクソな世の中なんかぶっ壊そう。

 コソコソとエネルギーをかすめ取るドロボウ猫の魔族どももやっつける。

 それで最後には、みんながキラキラ輝ける新しい世界を作ってあげようじゃないの。

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