第42話 本当の姿、見せちゃいます。
アポルのジュースが入った壺を守れなかったノインは、大粒の涙をこぼしながら謝罪の言葉を述べ続けていた。
「フェーちゃんゴメンね……ダメなママでゴメンね」
「ノイン……君は何も悪くない」
「そんなことないです! 私が……私がちゃんとしていれば……ううっ、うわあああああああああぁぁん!!」
「ピピィ……」
「困った……」
大声で泣くノインを慰める方法がわからず、ルーとフェーは揃ってほとほと困り果てていた。
「ルー姉……」
「ああ、メル……」
メルの姿を見たルーは、今にも泣きそうな顔で妹に助けを求める。
「どうしよう。何を言ってもノインが泣き止んでくれない」
「ジュースは?」
「無理、壺が粉々に砕けたから、危なくて手が出せない」
「そう……」
僅かでもアポルのジュースを掬ってフェーに飲ませることができたらと思ったが、どうやらそれも無理なようだった。
流石に代わりのアポルのジュースを用意することは無理だし、やつれた様子のフェーを見る限り、胃に負担のかかる食べ物を与えるのもよくないとメルは考える。
「どうしよう……」
何かないか、そう思って手持ちの荷物を漁ろうとしたところで、
「……あっ」
たまたま手に引っ掛かったあるもの見て、小さく声を上げる。
「これなら……」
妙案を思いついたメルは、手にしたものを取り出してルーにそっと耳打ちする。
「ねえ、ルー姉……」
メルの案を聞いたルーは、自信満々に頷いてみせる。
「大丈夫、問題ない。流石メル、天才」
「そ、そんなに褒めなくていいよ」
準備するために立ち上がるルーに、照れたメルは顔を冷ますように手で扇ぐ。
「さて……」
「うあああああああああああああああああああぁぁん……ゴメンね……フェーちゃん、ごめんね」
メルは顔を覆って泣くノインの肩を叩くと、彼女に手にしたものを渡す。
「ノインちゃん、これ持って」
「ああああぁぁん……ああ……わっ、な、何ですか」
反射的に渡された者を受け取ったノインは、泣くのも忘れて手の中にあるものを見て不思議そうに首を傾げる。
「こ、これって……メルさんのお守りの」
「そう、パパから貰ったゴーグルだよ」
メルがジェスチャーで装着するように指示すると、ノインは戸惑いながらもゴーグルを装着する。
「あ、あの、メルさんこれに何の意味が……」
「すぐわかるよ」
メルは安心させるようにノインに向かってニッコリと笑ってみせると、ルーに向かって声をかける。
「ルー姉、準備できた?」
「準備って何の…………えっ?」
一体何だろうとメルが見る先を見たノインは、驚きに目を見開く。
「え、ええっ、ルーさん!?」
思わず両眼を手で覆うノインは、顔を真っ赤にしてメルに話しかける。
「メ、メルさん、ルーさんが……ルーさんがは、裸に……」
恥ずかしそうにノインが指差す先にいるルーは、一糸纏わぬ姿で立っていた。
「ど、どど、どうしてルーさんが裸になってるんですか」
「それはね、ルー姉が本当の姿になるのに服を着てると、全部破れちゃうからだよ」
「本当の……姿?」
ノインが呆然と呟く間に、メルはルーが脱いだ黒のスーツを回収してくる。
「ルー姉、いいよ」
メルが声をかけると、ルーは小さく頷いて大きく息を吸う。
一体何が起きるのかと息を飲んでノインが見守っていると、ルーの周囲の空気がまるで陽炎が発生したようにゆらゆらと揺れ出す。
「えっ、何が……」
目の前で起きていることを確認しようと、ゴーグル越しの目を瞬かせて確認しようとする。
だが次の瞬間、ルーの体から突風が発生したかと思うと、部屋全体が嵐の中に飛び込んだかのように強風が吹き荒れる。
「キャアアアアアアアアアアアァァァ!!」
「ピピーッ!」
思わず互いを庇うように身を寄せ合うノインとフェーであったが、嵐の時間は長く続くことなく、程なくして室内に静寂が訪れる。
「ケホッ、ケホッ……一体何が……」
「ピピィ……」
どうにか嵐を乗り切ったノインは、フェーの無事を確認してからルーの方へと目を向け、
「…………えっ?」
目の前の光景に驚き固まる。
「あ、あうあう……」
歯をガチガチと鳴らしながら、ノインはメルに助けを求めるように縋りつく。
「メ、メメ、メルさん……ルーさんが……ルーさんが」
「うん、大丈夫。あれがルー姉の本当の姿だから」
恐怖で顔を真っ青にするノインとは対照的に、メルは眩しいものを見るように双眸を細めてルーを見る。
メルの視線の先には、数十人が余裕で入れる物見の間を覆い尽くさんばかりの巨大な影がいた。
巨木の丸太よりも太い手足に四人乗りの馬車よりも大きな胴体には、一対の巨大な翼が生えている。しなやかで長い首にトカゲに似た顔立ちをしているが、それよりもシャープで凛々しい顔立ちをした全身が緑色の鱗に覆われた地上最強の生物、グリーンドラゴンとなったルーがいた。
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