第9話 もう、大丈夫ですから
――翌日、メルはガタゴトと規則正しいリズムの音で目を覚ます。
「……んぁ、そ、そうか、魔導機関車に乗ってたんだっけ」
横になると揺れや音が結構気になるな、と思いながらメルが体を起こすと腰に重さを感じて我に返る。
「そうだ、ノインちゃんは?」
「あっ、おはようございます」
メルが声を上げると、部屋の中央の方からぴょこん、と小さな影が姿を見せる。
「食堂車から朝食を貰ってきましたけどメルさんはお肉と卵、どちらがいいですか?」
「えっ? あっ、じゃあ卵を……」
「わかりました。卵ですね」
いくつかメニューを貰ってきたのか、ノインはてきぱきとテーブルに料理を並べていく。
「…………あれ?」
元気に動き回るノインを見て、メルはおかしなことに気付く。
昨晩、メルは悪夢にうなされるノインを慰め、そのまま彼女の体を抱いて寝たはずだ。
そうなると今、メルの体に感じる重みは一体何だろうか?
答えの予想は何となくつくが、メルはゆっくりと視線を落としていくと、
「うぅ……メル……まだ起きないで」
彼女の腰に抱きついていた大きな影が情けない声を上げる。
「やっぱり朝は寒くて動けない……メルの体で温めて」
「ルー姉……」
メルは「はぁ」と盛大に溜息を吐くと、手を伸ばしてルーの体を正面から抱く。
「ほら、ノインちゃんも見てるからしゃんとして」
「はふぅ……メルの体、ぽっかぽか」
メルがいくらルーの背中を叩いて奮起を促しても、体が石のように固く冷え切っている姉は、一行に動いてくれそうにない。
「メ、メルさん!?」
すると、ルーの声を聞いてやって来たであろうノインが、抱き合う二人を見て目を白黒させる。
「そ、その……私、出ていった方がよろしいですが?」
「大丈夫、これ……いつものことなの」
今にも部屋から出ていきそうなノインを制したメルは、蕩けているルーを指差しながらこの状況を説明する。
「ほら、ルー姉ってドラゴンでしょ? だから寝起きに自分で体温を上げることができないのよ」
「それって、トカゲと同じ……」
「そう、変温動物ってやつね。いつもなら温かくなる抱き枕で寝るんだけど、昨日はボクたちと同じベッドで寝たから……」
「体が冷えてしまったんですね」
合点がいったように頷くノインに、メルは苦笑しながら頷く。
こうなることがわかっているのに一緒に寝たいと申し出てくるのだから、メルとしては呆れるしかなかった。
「ノインちゃん、悪いけどルー姉が動けるようになるまでもう少しかかるから、ルー姉の分のご飯もお願いしてもいいかな?」
「……あっ、私はお肉で~」
緩慢な動きで手を上げて主張するルーに、ノインは思わず「クスッ」と笑みを零す。
「わかりました。メルさんほどではありませんが、愛情込めて作りますから」
笑顔で力こぶを作って見せたノインは、肉を所望だというルーのメニューを考えながら朝食作りへと戻っていく。
その途中、
「……あの、メルさん」
ノインは足を止めると、後ろを振り返ってメルに向かって頭を下げる。
「昨晩はありがとうございました」
「ん?」
「嫌な夢を見て辛くて……とても悲しかったけど、途中からメルさんの声が聞こえて……その、朝起きたら……」
「ああ、あれね」
全てを聞かなくてもノインが言いたいことを察したメルは、恥ずかしそうにモジモジしている少女へ笑いかける。
「心配しなくても、これからもお姉さんが守ってあげるからね」
「は、はい、よろしくお願いします。」
満面の笑みを浮かべて深くお辞儀をしたノインは、ご機嫌な鼻歌を歌いながら朝食のメインを作っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます