第5話 ゆりあ は おちこんだ

「エネルギーが不足すると、他国に攻め入られる隙を作ることになる」


 え? まさかのスルー?

 なぜか私の「それ、なんて泥棒?」発言はスルーされ、騎士達はなにごともなかったかのように説明を続ける。


「ユリアの身柄はカルミア王家が保護する」


「だから一刻も早く協力してほしい」


 うーん。

 なんだろう? 私がおかしいのかな? 

 「お前の身の安全と引き換えに、持ち物全部よこせ」って言われてるような気がするんだけど。


 明 ら か に 恐 喝 さ れ て る よ ね ?


 この世界のエネルギー事情なんて知らんがな。

 てか、寝る前のアレって魔法じゃなかったの?


「すみません。私の世界とずいぶん違うので、こちらからもいくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「なんでも聞いてください」


「夜、体や服をきれいにしてくれていたのは、どういうエネルギーを使っていたのですか?」


「あれこそ異世界エネルギーです」


 なんと! あれがそうだったのか。

 魔力じゃなく異世界エネルギーを扱う魔道士みたいなのがいるらしい。


 でも、扱える人たちって少なそうなんだけど。

 なんでそんなに異世界エネルギーがいるの?

 他に基本的なエネルギーがないってこと?

 

「この世界には、水や火や風はあるんですよね?」


「あります」


 ですよねー。そうじゃなきゃ、出してくれていたみたいな食事も作れないもんね。

 ちなみにここでの食事はほぼ洋食で、基本はパンとスープと肉とサラダ。食べられる味でほんと良かった。


「お風呂ってありますか?」


「ありますよ」


 あるのか!

 じゃあなんで私一人のために、わざわざ異世界エネルギーを使うのよ。

 マジわからん。


「一般的に、どういったことに異世界エネルギーを使っているのですか?」


「国の防衛のためと、日常生活品を動かすためだ」


「町中や村にまで異世界エネルギーを届けているのですか?」


 スマホの電波みたいなものなのかな、だとしたらスゴいと思ったんだけどね。


「まさか。そんな市井やましてや辺境にまで貴重なエネルギーは使えない」


「基本的に異世界エネルギーは貴族か王族しか使いません」


「体感したからわかると思いますが、素晴らしかったでしょう?」


 いやいやいやいや。

 それってつまり、全然なくてもやっていけるってことじゃん。

 戦争チートと富裕層の娯楽用に必要とされてるってことだよね?


 今更ながら、私のこの状態の異常さにも気づいた。

 ベッドで動けない私を囲む、高位の者と騎士達。

 これってアレだ。

 商品の押し売りとか、微妙な宗教の勧誘とか、大勢で畳みかける感じがそっくりなんですけど。


「あの、協力をお断りすることは……」


「それはできません」


「もう契約しましたから」


「はい?」


「さきほど、お名前をいただきましたよね。あれが契約です」


「え?」


「明日から召喚の儀式を始めます」


「今日はよく休むといい」


 王女様と騎士達はぞろぞろと牢屋を出て行き、出た瞬間、なくなっていた金属の格子が復活した。

 これにも異世界エネルギーが使われているのだろう。

 誰のエネルギーか知らないけど、無駄に使わないでほしい。


 ちょっと魂が抜けた状態になって、ベッドに起こしていた上体を倒すと、頭からかけ布団をかぶった。


 召喚違いだ。

 悪魔召喚のほうだったんだ……。

 名前を縛られて契約って、まんま悪魔じゃん。

 悪魔ゆりあ、か。ヤバい。語呂もいい。

 

 さすがに落ち込んで、そのままふて寝した。

 

 誰かー、弁護士よんでください。クーリングオフお願いします。 

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