無職おっさんの俺、有名になりたくてダンジョン配信をした結果、何故か魔法少女になってしまった件。〜その後、世界滅亡の危機を救う魔法少女軍団のリーダーとなる。俺はただ、有名になりたかっただけなんだが〜
七七七七七七七式(ななしき)
第1話 終ワリノ
2020年1月20日。月曜日。
その日は、何の変哲もない普通の日常であったと、多くの人々は口を揃えて語っている。
年も明け、長い正月休みを終え、多くの人々がそれぞれの生活に適応し始める頃。
外が寒いだとか、仕事に行きたくないだとか、試験がどうとか学校がどうとか。
日常に溢れる不平不満の中、それでも体に鞭を打ち、踏ん張りながらいつもの日常に取り組んでいくものだと──多くの人々がそう思ってたし、そう信じていた。
しかし、「日常」というものは、きっかけ一つで簡単に瓦解してしまうもので。
なんの変哲もない普通の日常は、ある日突然崩壊した。
2020年1月20日。月曜日。
日本時刻、18時37分。
東京都渋谷区の、渋谷スクランブル交差点にて、突如巨大な穴が出現した。
黒々とした穴からは、九つの首を持つ竜が出現し、その場にいた多くの人々を喰らい、飲み込んでいった。
先ほどまであった筈の普通の日常は、いとも容易く破壊され、その場にいた無数の、罪のない命を、無惨にも食い散らかしていった。
そんな地獄が5分ほど続き……。腹が満たされたのか、はたまた人を食う事に飽きたのか、九つの首を持つ竜──【
それまでの経過時間、約13分27秒。
13分27秒前まで平穏な日常、いつもの東京の姿があったが、それはたったの13分27秒で、見るも無惨な光景と化した。
この事件は、後に「1.20 東京都渋谷スクランブル交差点巨大迷宮災害」と命名され、日本の歴史に、深く刻み込まれる事となった──。
※
「──って感じで、ニュースとか記事とか流れたりすんのかな〜。そこらへんどうなん? お前らならわかるだろ?」
2020年1月20日。月曜日。
時刻は22時14分。穴の発生からおよそ3時間半ほどが経過した、地獄と化した渋谷スクランブル交差点内にて。
俺──
俺の語りに対して、視聴者達はそれぞれの反応を見せ、画面に無数のコメントが流れてゆく。
増えていく視聴者とコメントに、承認欲求に飢えた俺の心は、次第に満たされていった。
30歳にして童貞。
数ヶ月前に仕事をクビになり、無職となってからはダラダラと過ごしてきた、ハゲでデブのキモいおっさんが、今じゃ日本で一番注目される存在になっている。(多分)
元々「有名になりたい!」とは思っていたけど、顔面偏差値、そして自身の能力の低さから、色々と諦めていた。
それでも無意識に「有名になりて〜」「楽して金稼ぎて〜」なんて考えていると、遠くから大きな音と、巨大地震をも思わせる振動を感じた。
何だ? と思い、慌ててテレビをつけると、上空から映し出されたのは巨大な穴と、その穴から飛び出す「九つの首を持つ竜」の姿があった。
聳え立つビル群は崩壊し、周囲にいた人々がビルの崩壊に巻き込まれたり、竜に食われたりしていて……。
日常が、地獄へ変わり果てていく光景を目の当たりにして、俺は暫くの間、呆然と傍観していた。
そんな中、ふと脳裏に過ぎる一つの天啓。
ちょうど頭のネジをきらしていた俺は、「この地獄を配信すれば、俺でも有名になれるんじゃね?」と、そう思ってしまった。
あとはまぁご覧の通りである。
八王子のアパートを飛び出して、自転車で2時間30分。
人混みを通り抜け、警察や自衛隊が避難活動や救助活動をしている最中、人目を盗んでバリケードを突破し、スマホで配信を始め──今に至るのであった。
【今さらだけど、誰だよこの汚いおっさん】
【知らん】
【つーかおっさんの顔とか見たくないわ。現場を見せてくれ現場を】
【今更なんだけど、そこいて大丈夫なん? 捕まるんじゃないの?】
【こんな汚いおっさん捕まっても誰も困らないだろ】
【今見てる俺が困るだろ!いい加減にしろ!】
【まぁ流石に報道陣もここまで入ってこれないだろうし、現場がどうなってるのか全くわかんないのが実情だしね……。こんなどうしようもないおっさんの配信にすがるほか無いのは事実だわ】
【確かに。こういう命知らずの馬鹿しか近付かんわな】
【そういう意味では助かるっちゃ助かるけど】
【っていうか穴の発生から数時間経ってんのに、救助活動とか行われてないの?】
まるで走馬灯のように、ここに至るまでの経緯を思い出していた俺は、再びスマホに視線を落とす。
現在の同時接続は、およそ5000人。しかしその数は徐々に数を増やしていき、今にも6000人にも及ぶ勢いだ。
いいぞ、良い感じに数字がついてきている。
その事実に「ふふ……」とつい声が漏れてしまう。増えてゆく同接数に心が躍るが、ここで調子に乗って表に出るのはダメだ。
いくら誰も穴に近づかないからと言え、穴の近くに人がいない訳では無いのだから。
俺はスマホの画面を横目に、瓦礫から顔を出して現場の状況を説明した。
「さっき流れていったコメント、『穴の発生から数時間経ってんのに、救助活動とか行われてないの?』についてだけど……行われてはいない。というか、救助活動に出たくても出れないっていう感じがするな」
【は?】
【なんで???】
【救助隊とか真っ先に派遣されそうなのに。国は何してんの?】
【いや、フツーに考えてあんな化け物が出てきた穴に脳死で突っ込めなんて命令できるワケなくね】
【それは思った。無駄死にする可能性だってある訳だし、下手に人員さけないんじゃないの?】
俺の発言を間に受けた者たちによりコメントが加速していくが、中には冷静に状況を見ているヤツもいる。
実情はわからないが、その通りだろう。
今もなお、穴の中からは怪物の鳴き声がするし、何より先ほどから小さな地震が多発している。
下手に突っ込ませて「怪物に食われました〜!てへ☆」なんて事もあり得る訳だし。
こういう時、公務員って大変だな〜なんて呑気に思っていると、とあるコメントが俺の目についた。
【だったらもうおっさんが穴の中に突っ込めよ】
「…………、は???」
いや意味がわからん……なんで俺が穴に入らなきゃならないんだ? そう思っていると、そのコメントに便乗するようなコメントが次々に沸いてきた。
【穴の中どうなってるのかわかんないんだから、行って確かめてこいよ】
【生きてるのかどうかの確認も必要だしな】
【つーか純粋に穴の中がどうなってんのか知りたいわ笑】
【穴に入れ、とかコメントしてる奴らの気がしれんわ】
【死ねって言ってるのと変わらないだろそれ】
【フツーに現場の状況を教えてくれるだけでいいよ】
【下手に入って死ぬのは笑えんやろ】
【こんなおっさん死んでも誰も困らんしええやんw】
「……」
──なるほど。滅茶苦茶なこと言ってくるなぁ、視聴者っていうのは。
ゲーム実況者とか、Vtuverとか、そういう人たちに憧れて配信を見る事が多かった。
その中で、余りにも理不尽なコメントを垂れ流している奴は何度も見てきたけど……。
いざ当事者になってみると、腹が立つものだな、こういうコメントは。
「……いいぜ、やってやるよ」
【え】
【えっ】
【おいやめろ。死ぬぞホントに】
【穴に入れコメントは気にするな!ほっとけ!】
立ち上がる俺に対し、コメント欄は俺を心配する声で溢れる。中には【よっしゃ!】【煽り耐性無さ過ぎて草ww】【死ぬ前にちゃんとどうなってるのか映してから死ねよ笑】等と心無いコメントも溢れてきているが、今の俺はそんな事気にしてはいなかった。
──超えている。同接が、1万人を超えている。
ということは、だ。まだ誰も知らない穴の中を実況すれば、同接数はさらに伸びて、いよいよ本当に有名人になれるかもしれない!
またもや天啓を得てしまった俺は、もはや止まる事なんて出来なかった。
「じゃあ、今から穴に入るから。目に焼き付けろよ、俺の勇姿を!」
【ただ無謀なだけだろ】
【勇姿っていうか、YOU死というか……】
【これが俗に言う無敵の人ってヤツなんだろうな】
【無敵なら死なないのでセーフ】
【フツーにアウトだよ】
俺が発言に、視聴者たちは冷たく返答する。
今から死地に向かうってのに薄情なやつらだ。まぁ、接数は鰻登り、コメント数も相当ついている。
今は確認出来ないが、恐らく
よし、こっから更に数字を増やしてやる。
そんな思いで穴へと駆け出した俺に気づいたのか、遠くから警察の呼び止める声が聞こえてくる。が、聞こえないふりをして穴の前に立つ。
崖の上に立つ感覚は、恐らくこんな感じなのだろう。
踏み出せば一巻の終わり。確実に「死」が穴の奥底に潜んでいるのがわかるが、「死」と「数字」を天秤にかけた結果──数字が勝った。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ〜ww」
そう言って、穴に足を踏み込んだ瞬間──ぶちゅりと。
俺の肉体から何かが千切れる音がして、全身が何かに締め付けれる感覚に襲われる。
気がつけば俺の視界には、ただひたすらに続いてゆく闇が映し出されていた。
先ほどまで見えていたスマホの画面は見えず、穴に落ちるという感覚も、痛みも、恐怖心も何もかもが、闇に溶け出していくようで。
「今の俺、どう、なって──るん──だ──?」
全てが、ブラックアウトしてゆく。
その中で、何か……女性の声が聞こえた気がしたが、それを認識するよりも先に、俺の意識は闇に呑みこまれた。
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