第78話 これからの事

 一通り文句を言い合って、程なくすればルースは再び話し出す。


「どこまで話したでしょうか…まぁフェルと出会ってそれから一年余り、こんな感じで2人は旅をしてきました。私の旅は元々、自分の記憶の手がかりを求めて出発したのものであり、私は旅をしながらその記憶につながる何かを探しています」


 そう話してルースはソフィーを見た。

「私はソフィーの名前を聞いた時、もしかして…と思うところはありましたが、それが何を意味するのか私にはわかりません」

「ルース、それって…」

「ええ。フェルと会った時もそうでした。ソフィーにも同じ類の何かを感じたのは事実です。でも、ソフィーには初めてお会いした訳ですし、それが何の…予感なのか私には分かりませんでした」


「じゃあソフィーも、ルースの記憶に関係してるって事か?だったら初めから、パーティに誘うなりすれば良かったんじゃないのか?」

「いいえ。仮令たとえソフィーが私の記憶に関係すると感じていても、それは強引にえにしを結んではならないものと考えています」

「だからって…」


「私は出会っても離れていく人に、強引に縋ってまで関わりをもって欲しいとは思っていません。あくまで互いに必要と考えれば、自ずとそれらは縁を結ぶことになるはずであると、私は考えてます。天運さだめとは、そういうものではないのですか?」

『無理ニ,引キ寄セタ処デ,イツシカ,ソレハ,破綻スル』


 そうシュバルツの声が頭に響いた。

 それに頷いて「シュバルツも、私と同意見だと言っています」とフェルに伝えた。


「まぁ結局は、ルースの問題でルースが決める事だからな」

 とフェルは納得してくれたようだ。


 それを見つめているソフィーは、言われている事が今一つ分かっていない様で、キョトンとしている。

 それに気付いたルースは、ソフィーへと視線を向けた。


「ソフィーが私達に付いてきたいと言って下さった時は、私の予感は本物だと思いました。私はソフィーに会った時、これから係わっていく人だろうと薄々わかっていた…という事ですよ」

 ルースはソフィーへそう説明する。

 だが、言われてもすぐに理解できる話ではないだろうと、ルースは話の続きを進めた。


「それから…これは確証がある訳ではありませんが、私達と行動すれば、一年経たずしてステータスの確認をした方が良いでしょう。ソフィーがこれから聖魔法を学ぶ事で、職業ジョブが出ている可能性もありますが、私の持つスキルの影響も受けるはずですので…」

「スキル…ですか?」


「はい。私は、人に影響を及ぼすスキルを持っているのです。それは私の周りにいる人の、ステータス値の成長を速めてしまうもの」

「ステータス値の、成長?」

「ええ。ステータスの数値上昇を速める、というものです」

 そばで聞いているフェルは身をもって実感している為か、大きく頷いていた。


 この件は、先に伝えるかどうかを迷うところであった。ともすれば、成長速度が上がるのならば、と手を抜いて良いと考える者もいるからだ。

 しかしこれまでのソフィーの考えや行動をみてきた上で、この人物になら先に正直に話しても、問題はないだろうという考えになったのだった。


「えっと…正直良くわかりませんが、ルースさんにはスキルがある…という事だけ覚えておくようにします」

 ルースはソフィーの言葉に、「それで充分です」と頷いて返した。

 確かに自分が経験してみない事には、理解に及ばない言葉は多々あるのだ。ソフィーには追々、説明することにしようとルースは思う。


「あ、俺もスキルがあるぞ。“加護“って言うんだけど、全く何ができるのか分からなくて、今のところ謎だらけのスキルだけどな」


 そこでフェルもスキルを思い出してソフィーに話したのだが、名前しか分からないというだけで終わった為、箸にも棒にもかからない話だった。

 これも、後から知りませんでしたというよりは良いだろう、という話で終わる。


 そして大体の話が終わり、空も徐々に黄色を含み始めた色へと変わりつつある頃、話のまとめに入る為にルースは口を開く。


「ソフィーはこれから、どうしたいですか?」

 これは最終確認だと気付いたソフィーが、姿勢を正して2人見返す。


「私は冒険者になって、フェルさんとルースさんについて行きたいです」

 はっきりとそう口にしたソフィーに、ルースとフェルは頷く。


「わかりました、私達は貴方を歓迎いたします。それでは、今お世話になっている人に、ちゃんと話して許可をもらって下さい。それから、魔法教室も辞める事になりますので、そちらを話す時は、私達も同行させてくださいね」

「はい」

「それと、ソフィーが冒険者登録をする際は、私達が同行します」

「よろしくお願いします」


 ルースはソフィーにそう話してから、フェルへと視線を転じた。

「フェル、マジックバッグも買い足した方が良いでしょう。これではもう、足りないと思います」

「おう。次は俺が持つからな」

 と、少し嬉しそうにフェルが同意する。


 それから3人はスティーブリーを出発するまでに、やらなくてはならない事の予定を確認をした。

 まずはソフィーがお店の人と話す事、次に魔法教室を辞めて冒険者登録、そして旅の為の準備。買い物や北に行く馬車を調べたりしなくてはならない。

 細々とした物でも準備不足になれば、町を出た後で後悔する事になるため、念入りに打合せをして3人は町へと戻る為に森の中を歩き出した。




「シュバルツ、そろそろ私の肩から降りて下さい。さもないと町に連れて入る事になってしまいます」


 シュバルツが離れて行かず、ずっとルースの肩に乗ったままなのである。

『問題ナイ,町中ニモ鳥ハ,イル』

 そうは言っても、魔力を感知できる者はこの鳥に魔力がある事に気付くだろう。


「こいつ、腹が減ってるんじゃないのか?」

 そこでフェルが自分に置き換えたのか、そう言った。

 だが返事がないところをみると、あながち間違いではないのかも知れない。


 ルース達は町の防壁が見える木々の中で立ち止まると、ルースは残っている大きなパンを一つ、シュバルツの目の前に出した。

「これで良いですか?」

『有難ク,頂イテオク』

 シュバルツは大きなパンを器用に嘴で掴むと、バサリと羽を広げて舞い上がった。


『デハ,ナ』

 そう念話を残し、こうしてシュバルツは森の奥へと羽ばたいて行った。


「やっぱり腹が減ってたのか…」

 それを見送ったフェルは、そう言って一人納得していたのだった。

 それでやっと町の東門へと戻った3人は、茜色に変わった空の中、東門を過ぎた所で別れる。


「今日は、ありがとうございました。では2日後に、北の公園でお待ちしています」

「おう」

「はい。遅れない様にうかがいますね」


 2日後にある魔法教室で、先生に退会する旨を話すソフィアにルース達も同行する予定だ。

 そう約束をして歩き出し、ソフィーが手を振って離れていくのを見送って、ルースとフェルは冒険者ギルドへと向かって行く。

 ソフィーはこれからこの町を出る為に、色々と手配をしなくてはならないのだ。忙しくなりそうだなと、その小さな背中を見つめていた。



 それからルースとフェルは、賑わう町を歩き冒険者ギルドへ到着すれば、いつもの混雑時間になった見慣れた光景が広がっていた。


「今日も凄い人数だな」

「フェル、そうも言っていられませんよ。これからもっと大きな町へ行けば、これよりも人が多いと思いますし」

 ルースの言葉に、フェルは苦虫を嚙みつぶしたような顔になる。

「う…まだそれは考えたくない」

 フェルからは、現実逃避の言葉が漏れた。

 それに苦笑して、ルースは足を進めると受付の列に並んだ。


 今日はまだ、これでも少ない位だと感じる。

 今日の午前中に奉仕クエストを受けた者達の半分位は、休日にでもしたのだろうなと周囲を見回していれば、自分たちの番になり受付の前へと進み出る。


「クエストの報告に来ました」

 2人が冒険者カードをカウンターに出し職員を見れば、今日は久しぶりに見た顔だと気付いた。

 職員も2人の顔に気付いた様で、笑顔を浮かべ声を掛けてきた。


「お疲れ様です。ルースさん、フェルさん」

 そう話すのは、スティーブリーに着た日に対応してくれたメレトニーだ。

「お久しぶりです」

 そんな会話をしつつ、メレトニーはルース達のカードを魔導具に参照させながら処理を進める。

「今日は薬草採取ですね」

「はい」

 メレトニーに促され、ルースは巾着から薬草を取り出す。

「ヒルポ草と…これは今の時期しか取れない物ですね。では、全て買取りさせていただきます」

 メレトニーは、ルースが置いたヒルポ草とジギタリスの買取りを申し出てくれた。

「お願いします。それからまだありまして…」


 ルースは、薬草をカウンターから移動させるのを待って、スライムを取り出してメレトニーの前に置いた。

 それを見たメレトニーは、一瞬目を見開いたかと思えば、受付のどこからか黒い布を出し、瞬時にスライムを覆い隠すようにそれを被せたのだった。

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