支配系異能が絶対の世界で僕は君の英雄になりたい

アズリエル

第1話 始まりの物語

「じゃあね、私の英雄さん」


至る所から黒い煙が立ち上る

辺りには、木々が燃える独特の匂いが充満している。

フワッとした浮遊感と、広がっていく視界は赤く霞んでいた。


橋の上には、腕を必死に伸ばして何かを言っている17歳ほどの少女の姿があった。


何を言っているかはわからない、表情もよく見えず、顔にモヤがかかっているかのようだ。


ただこれだけは分かった。


彼女は泣いている。


どうして泣いているのだろう?

どこか痛いのか?


そんな事を考えている間に、気づけば相当落下していたようだ。


視界は暗く閉ざされ、聞こえの悪いグシャッとした嫌な音が川沿いの岩場に響いた。 












「うわぁあぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


ガバリと布団を跳ね除け、少し荒い息を整えるようにして辺りを見渡す。


「夢か…」


変な夢でも見ていたのだろう。

ぐっしょりとしたパジャマに嫌気をさしながら、最近買ってもらった大きめのベッドを飛び降りる。


まだ9歳の僕にはちょっと大きいんだよね、まぁそこがまたいいんだけど…


つづむ!起きてんなら早く降りてらっしゃい!」

「はーい」


変な夢のおかげで目だけは覚めていた僕は、さっさと着替えを済ませてロビーに向かう。


それにしても母さんは無駄に声がでかいんだよなぁ…


「聞こえてるよ!このバカ息子‼︎」

「あでッ⁈ツツゥ、痛いなぁ…声に出てた?」

「地獄耳舐めんじゃないよ」

「ずるくない⁈その異能」

「はいはい、さっさとご飯食べて学校行きな」


呆れ顔で忙しそうに動き回る我が家の母、多分この家で逆らえる者はいない。


と言っても我が家は3人家族なので僕以外では父さんしかいないのだが…


「行ってきます!」


朝食を終えた僕は、ランドセルを背負って玄関を出る。今年で3年目となる通学路を小走りで行きながら、いつもの公園を突っ切ってショートカット。


本来ならこの公園は柵があって大回りに行かねばならないが、生垣の隙間にちょうどいい大きさの穴があいたフェンスがあるのだ。


「うんっしょッと!ここを通ると10分は短縮できてそう」


実際は5分程度だが、それでもショートカットにしてはいい穴場である。


そんなわけで公園を抜け、道なりに進むともう学校である。


「みんなーおはよう‼︎」


今日という1日が幕を開けた。






_________________________________________



「ただいま!行ってきます‼︎」


学校から帰宅した僕は、ランドセルを玄関に投げ捨て、遊び道具が入った道具を持って家を飛び出した。


公園の時計は午後2時半を指し、近所の子供達も何人か集まっている。


無駄に広い公園は僕たちにはうってつけの遊び場だ。


学校の方が遊具などが多いが、そこは支配系の異能を持った子が多いので苦手である。


おっと、異能について聞きたい?


誰に言うでもないことを考えながら、公園の端っこ、木々が生い茂っている場所についた。


ここは春になると満開の桜が見れるのでオススメだ。


異能の話に戻るけど、この世界は異能を持って生まれるのが当たり前なのだ。


基本みんな使い方は手足を動かすように分かるのだけど、そうでない子もいたりする。


どこかのジャンプのヒーローなアカデミーと違って異能を持たないで生まれる者はいない。


皆少なからず、なんらかの異能を持って生まれるのだ。


しかし、そんな異能でも大きく二つに分けられているものがある。


それは支配系か、強化系かの違いだ。


支配系は言わば外に干渉する異能だ。物を浮かせたり、火や水を生み出し操ったり…


強いものになると、時間を止めたり、相手の意志関係なく操れたり、一瞬でなんでも直したり、宇宙を作れるとか訳がわからないものまである。


逆に強化系は体に影響する異能だ。

力が強くなったり、五感が鋭くなったり、腕が伸びたり、体が大きくなったり…


強いものにになると未来が見えたり、怪我しても一瞬で再生したり、老化しなかったり、とてつもなく頭が良かったり、超パワーになったりなどだ。


聞けばどっちも強そうだが、この二種には明確な差が存在する。


強化系は肉体故の限界があるのだ。

どれほど頑張っても、人の体には限界が存在する。さらに遠距離攻撃の手段がない、それもまた強化系が劣る理由だ。


戦いにおいて重要な物はリーチである。

どこかの偉い人がテレビで言っていた。


対して支配系は外に干渉する系統であるため、限界が存在しない事が多い。


火を出す異能ですら、火力は制限なく上昇させられる。


簡単なわけではないが、使い込めばできてしまう。

さらに遠距離攻撃も外に干渉するのでかなりの数存在する。

発想がそのまま武器になるなど、強みを出したらきりがない。


そんなわけで長々と話したが、支配系の異能が優遇されてると言うだけの話だ。

支配系の異能ってだけで、将来安泰はずるいよね…


ちなみに僕は強化系だ。


能力は体を強化すること、それ以外よくわからない。使い方はわかるけど、何ができるかは試した事ないし、やりたくもない。


この異能は普通に使えるのだが、調整を失敗すると物が壊れる。


ただ物を運ぶとか、持ち上げるとかなら割と簡単にできたりするので便利でもある。


母さんは耳が凄く良い異能、父さんは確か目が良いい異能だった。

異能は別に遺伝しないので、その子特有の性格とかが関係するのではなど考察は様々だ。



「よし、こんなもんかな」


世界の常識を語っていた合間に、僕が何をしていたのかといえば…


「完成!秘密基地」


まわりを木が囲むようにできた空間を、家にある木材などを使って改造したのだ。


ちょうど冬に暖炉で使ってたでっかい木の廃材を利用した。真夏の昼にやる事ではなく、汗が酷い。


ただ異能のおかげで疲労感はさほどない。


一度家に帰ってシャワーを浴びてこよう、そこから色々持ち出せばいい。






そんなわけで家から色々持ち出しました。

まずはクローゼットに入れっぱなしで、若干埃をかぶった座布団。何が入るかわからない小さな棚、古そうなちゃぶ台、おばあちゃんにもらった救急セット、鉄製のバケツ、子供用のスコップなどなど…


「我ながら完璧だよ」


最高のできだ。



持ってきた物を配置したり、秘密基地がバレないように工夫したりしていると時間はあっという間に過ぎていく。



「ちょっとトイレ…」


やりきった感に浸っていると、急に尿意がやってきた。この秘密基地の欠点は、トイレが少し遠い所だ。


そんなわけで僕は股間を抑えながら、小走りでトイレへ向かった。


「ふぃ〜スッキリしたぁ…」


出すもの出して完全にスッキリした僕は、秘密基地の前まで戻ってきた。


早速入ろうと思うのだけれど、入り口付近に誰かいるようだ、しかも倒れている。


「もうバレた?」


好奇心しかない僕はそのまま近づいていく。


「女の子?」


ボロボロの女の子だ。その風貌から普通じゃないことは一目瞭然、これが噂に聞くDVって奴?違う気がする…


「ねぇ君、大丈夫?」


優しく肩を譲って意識を確認する、女の子に触ったの初めてかも!


「わぁ、ほっぺた柔らかいー」


完全に主の目的を忘れていたが、女の子の瞼がピクリと反応したのでよし。


「うぅん…」


起きないようだ。


仕方がないのでひとまず秘密基地に運んでしまおう。


異能のおかげでお姫様抱っこも楽勝だ、太ももも柔らかいって違う違う。


座布団を枕に女の子を寝かせて、怪我をしている所は消毒&絆創膏だ。


特に怪我をしている所は腕だろう、ムチか何かで叩かれたのかって感じの、切り傷に似た怪我だ。まぁ、実際のムチ見たことないけどね。


寝かせる時背中も痛そうだったから、背中も同じような怪我をしているのだろう。


流石に女の子の服を脱がせるのは良くない気がしたので、消毒だけさせてもらった。


凄くいい匂いがして、なんだかいけない気分だ。


これが大人のイロケって奴か⁈

絶対違うね…




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