第8話 有名プレイヤー
俺に声をかけたのは首がないくらい筋肉ムキムキで黒髪の短髪、色黒の大男だった。見た目としてはラグビーの外国人選手が一番近い。
ジョブとしては力士になるだろう。力士はver.2.00からの追加ジョブで、もともと鎧剣士と軽装剣士の二種類しかなかったver.1.00から、大幅に増やした職種の一つだ。『剣の庭』にあって、素手で戦う特殊なジョブだが、そのぶん攻撃力は折り紙付きだ。
「よう、ってば」
「俺に用か?」
「ああ、用だ。まぁ座んなよ」
ここで断っても面倒なことになるかもしれない。
促されるままに空いた椅子に座って、改めてそのテーブルを見てみると、座っているのは大男の他に2人だった。不思議なメンツ、というのが正直な感想だった。
統一感がないというか、クセのあるキャラメイクをしている。
一人は、毛玉としか言えない、ひげの塊。キャラメイク時に設定できる髭と髪の毛の量を最大にしているのだろうが、もう人間に見えない。これではジョブすらわからない。
魔女のコスプレをした小学生……といった風体の人もいる。ぶかぶかの帽子とローブをまとっているが、これはキャラメイク時の身長のゲージを最小まで設定した結果だろう。
こちらのジョブはわかりやすい。間違いなく魔女だ。
魔女もver.2.00からの追加ジョブで、多彩な魔法を使えるが、攻撃力は低いので上級者向けだ。実装意図としては、クリア後の2週目と、別プレイヤーの救助要請をサポートしやすい支援型のジョブとして設けたものだ。
いずれからも受ける印象としては、上級者の風格があった。
「あんただろ? 首狩りサンシャインを倒したのは」
「……ああ」
嘘をついて揉めるのも避けたい。トラブルを解消できるようなコミュニケーション力はないからな……ここは素直に答えておいた。
「オレァ、筋肉ゴールデン」
「え?」
「筋肉ゴールデン、がプレイヤーネームだよ。ゴールデンとでも呼んでくれ」
すごいのつけてるな……クロスとはまた違う意味で。
「まぁ、オレァ、プレイヤーん中じゃ別に有名でもないし、面食らうのもわかるがな。ははは」
ゴールデンが、マッスル全開の笑顔で笑う。
もちろん、ゲームにこんなボディビル大会特有の表情パターンは存在しないし、やはりゲームの3Dモデルに宿ったのではなく、3Dモデルを元にした生身なのを実感する。
「でもよ、こいつは知ってるんじゃねえか?」
ゴールデンが指し示したのは、魔女っ子だった。
知ってる?
有名プレイヤーということだろうか。
小柄な魔女の有名プレイヤーと言えば――
「あ」
「流石に知ってるよナ~」
にんまりと魔女っ子が笑う。
「まさか……アキヤマ58?」
「せいっかいっ☆ にゃっは・ふ~!!」
バン、と指鉄砲を撃つ真似をする魔女っ子。
アキヤマ58と言えば、有名プレイヤーどころではない。
ver.2.00を世界最速で攻略し、ゲーム内イベントやゲームショウでのタイムアタック勝負などでも優勝をかっさらっていった最強プレイヤーだ。
19歳の女子大生だという話で、生放送もアイドル的人気がある。熱狂的ファンも多くて、広告収入だけで暮らしているとか聞いたことがある。
口癖の「にゃっは・ふ~!」がトレンド入りしたこともあったな。
ただ、最近は「口調がコロコロ変わるけど、自分のキャラ付けを覚えてないのでは」とか「時々出る暴言が魅力」とか「実はアラサーでは」といった、面白配信者枠で愛されていた気がする……。
確かに、ちょっとなんか動作の端々に昭和感が……。
「ちなみに、隣の毛むくじゃらはストリンドベリだぜ」
「ストリンドベリ……!」
こちらも有名プレイヤーの一人。
プレイ自体の腕はそうでもないが、どうやら中の人は凄腕のプログラマーらしく、彼のツイッターアカウントでは『ガーデン』のプログラムに関する考察がよくされていた。鋭い指摘も多く、修正箇所の参考にしたものだ。
むしろ、向こうではアキヤマより、ストリンドベリのアカウントの方に張り付いていたな……。
そのストリンドベリは一言もしゃべらずに会釈するだけだった。
確か、ツイッターやブログでは饒舌だけどリアルでは全然喋らない……みたいにつぶやいていた気がする。
「あともう一人パーティにいるんだけど、出かけてるのナ。戻ってきたら紹介するぜい☆」
「ああ」
それが誰にせよ、この集団にいるんだ。ハイレベルなプレイヤーなのだろう。
「で、アンタはなんて名前なんだい?」
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