無口な私がイケメン男子の余命を調べたら残り半年だった話。

ここあ とおん

第1話 どうして彼が?


 私には、いらない能力がある。本当にこんな能力いらない。


 人の余命を知れる能力だ。


 生まれつきなのかは知らないが、物心がついたときには確実にあった。むしろこれが普通と思っていた。


 その能力を知ったのは、妹の死からだった。


 私は人を見ると◯◯%と心臓辺りに表示される。この%は寿命に対して、あとどのくらい生きられるか。


 親の%は36%くらい。私のクラスメイトは80%くらい。でも、妹は0.1%だった。


 私はその時はまだこの%が何を示しているか分からなかった。


 やがて、妹が死んだと親から言われる。


 交通事故だったらしい。私はそれを聞いたとたん、あの数字の意味を悟ったのだ。


 その能力の代償なのか、私は生まれつき身体が弱い。自転車すら、長く乗れない。他の人よりも感情が乏しい。笑顔が圧倒的に少ない。喋ることもできない。


 そして、私は自分の余命は見ることができない。鏡を使っても数字が消えてしまう。


 もう一回言う。こんな能力、本当にいらない。





「ごめん、名前なんだっけ?」


 私の隣に座っていた男子が、笑顔を見せながら訊く。


「え? あんた先生の話聞いてなかったの?」


 私の後ろにいた、ポニーテールの女子が笑いながら言う。


「たしか……岡崎イミちゃんだっけ?」


 イミじゃなくて衣冬いふだよ……。


 ホントはそう言いたいけれど、私は人前だと上手く喋れない。なので代わりに首を横に振る。


「あれ? 違うっけ?」


「お前も聞いてないじゃん」


「うるさい!」


 さっきの男子と女子が、言い合う。仲いいのかな?


「岡崎衣冬だっけ?」


 と、端っこの席で本を読みながら私の名前を言ってくれた。私は「うん!」と頷く。


「いふ? っていうんだ、可愛いね」


 ポニーテールの女子が私の肩を触りながら褒めてくれた。名前を褒められるなんて初めてかも。


 私は少し、口角が上がる。他人には分からないほどの変化だけど。


「あ、私は今井舞恵まえっていうんだよろしくね!」


 ポニーテールの人は今井さん。人の名前覚えるの苦手だから、ちゃんと覚えないと。と思い私は心の中で何回も今井さん、と唱える。


「で、衣冬の隣に座ってるバカは……」


「おい、誰がバカだ?」という声を無視して、今井さんは続ける。


「あの人は小村知里ちさと。で、あそこで真面目そうに本を読んでる男子は工藤時雨しぐれっていうんだ」


 小村くんは、制服の学ランをボタン全開にして、かっこいい髪型でこのクラスで1番かっこよさそうな人で、なにかとすぐからかいそうな人。


 工藤くんは、本当に真面目そうでちょっとパーマ気味な髪の毛に、丸眼鏡が特徴的。


「私達3人、よく集まって話してるんだ。良かったら衣冬もこのグループ入ってみる?」


 個性的な人が集まってて、たしかに楽しそうだと思った。なので私はこくん、と頷いた。


「困ったことがあったら、遠慮なく言ってよ」


 工藤くんがまだ本を読みながら私に言う。


「……?」


 どこからか、視線を感じると思ったら、小村くんが私の胸を凝視していた。


 (え? なにこの人。私の小さな胸見て……)


「どこ見てんだよ小村」


 私の気持ちを代弁してくれたのは、今井さんだった。


「え? ああごめん、ボーっとしてた」


 なんだ。ボーっとしてただけか。と私は安心する。


「転校生の胸をガン見する趣味でもあんのかと思ったわ」


「ねーよそんな趣味!」


 小村くんと今井さん、特にこの2人仲いいな。


「岡崎。今、この2人仲いいな〜って思ってたでしょ?」


 工藤くんが、丸眼鏡をクイッと上げながら私に言う。


 え? なんで分かったの?


 私は動揺しながら、こくん、と頷く。


「あの2人、付き合ってるっていう噂があるからね」


 へえ、そうなんだ。


 目の前に工藤くんが来たので、私はあの能力で彼の余命が見えてしまった。


 87%。


 結構、長生きする人だ。真面目そうだし、健康に気を使いそうな人だからな。


 69%


 と、表示されていたのは今井さんだ。この人は人生の3割を過ごしてしまったことになっている。


 最後に小村くん。私は彼をちらっとみようとしたが、彼は誰かに呼ばれて席を立ってしまう。でも、一瞬だけ見えた数字が5だった。


「ねえ、衣冬」


 今井さんが私の肩を叩きながら呼ぶ。私は今井さんと目を合わせて「なあに?」と首をかしげる。


「衣冬の制服可愛いよね? これ前の学校の制服?」


 確かに、前の学校の制服はブレザーに可愛いリボン、赤いチェック柄のスカート。しかし、ここの学校はセーラー服だった。


 こくん、私は頷く。


「へえ〜、いいなあ制服がこんなに可愛くて、やっぱり私も無理して制服が可愛い高校行けばよかったな」


 私も、前の学校の志望理由は制服だった。セーターとかリボンの種類がたくさんあって、好みの色から選べるし、何よりも可愛い。


「ね、工藤もさ、学ランよりブレザーの方がいいよね」


「……え? そうかな? 別に僕は学ランでもいいけど」


 また、眼鏡をクイッと上げながら言う。


「ふーん、男子はおしゃれとかに興味ないんだね」


 (別にそんなことないと思うけど……。)


「衣冬、1限目は化学基礎だからね。先生はちょっと変わった人だけど優しいから!」


 今井さんも優しい人だ。転校してきたばっかりの私に色々教えてくれて。





 お昼休み。


「やっと昼休みだあ〜!」


「なんか今日は長く感じるね」


「弁当食べよ」


「うん!あ、そうだ。衣冬も誘おうよ」


「いいね。おーい岡崎!」


 私は手を洗いに行って、教室に戻ってきたタイミングで小村くんに呼ばれる。


「弁当、一緒に食べようよ!」


 前の学校では、友達はあんまりいなかったため、お弁当は基本一人で食べてた。だから、誘われるだけで嬉しい。


 私は「うん!」と頷いた。


 お弁当を持って、机同士をくっつけて私は席に着く。


「お、岡崎の弁当美味そうだな」


「本当じゃん! 自分で作ったの?」


 (ちょっと照れながら私はゆっくりと頷く)


「へえ〜。今井より上手いんじゃね料理」


「いや! 私の方が上手いから!」


「喧嘩すんな」


 お弁当の時間は、思ったよりも楽しかった。とにかく笑い合って、お弁当もいつもより美味しく感じる。


「あ! この曲聞いたことある!」


「ああ、最近出た曲っしょ?」


「僕は初耳だね」


「工藤は本ばっかりじゃなくて、最近の曲とかも聞いたら?」


「僕は本の方が好きなんでね」


「変わったやつだな」


「なんだと!?」


 喋れない私は会話を見るだけだ。でも、それでも楽しいと感じてしまう。表には出ないけど。


「ねえ、小村。それ衣冬の水筒じゃない?」


「え? あ、わりいホントだ」


 え……? 私の水筒。男子に飲まれた?


「うわ~、間違えるかよ普通……」


「いや、マジでごめん!」


 私は心身ともに弱い生き物と家族や友人に言われてて、こんなことでも少し涙目になってしまう。


「え? ちょ、衣冬泣いてるよ」


「えマジ? ああヤバい!」


「小村が女子を泣かす瞬間を見れて光栄だよ」


 転校初日から泣いて、変な子だと思われないか? そう思って私は涙を拭う。


「ホントにごめん! なんなら水筒弁償するから!」


 私は「大丈夫だよ」の意味を込めて何回も頷く。彼が私を慰めに近づく。それと同じタイミングで私は彼の余命が見える。


 ホントはなるべく、人の余命は見たくないけど。


 彼の余命を見た瞬間、私の涙は止まった。いや、むしろ私の周りだけの時間が止まるような錯覚に陥った。



          0.53



 それが彼に表示されていた余命だった。たぶん、このクラスメイトの中で1番長生きしない人。


 そのくらい、0.53という数字は低いものだった。彼の人生は10割中9.5割がもう過ごしてしまったということ。


 つまり、彼の余命はもう少ない。 


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