第38話「魔王の壊咆は全てを喰らう」
衝突は一瞬のことだった。
敵対者を吞み込まんとばかりに黄金を上から叩き付けるプファーに対し、ノアドラは刀剣状に造った黄金で迎え撃つ。
同じモノ、同じ属性の者たちによる真正面のぶつかり合いが発生するが、展開した黄金量の差を見ても押し負けるのは確実にノアドラで、プファーはそのまま黄金でノアドラを押し潰す――つもりだった。
「……ふう、……? あれ?」
「身体が軽い」――そう思った瞬間から、自分の体がみるみるうちに軽くなっていく。その違和感にプファーが気づいたのは、己が展開した黄金をノアドラの右手が全て吸い取った直後だ。
そして、視界いっぱいに広がっている筈の彼女の黄金が消え失せていた。
無意識のうちに黄金をひっこめたとか、そういう奇跡でもない。完全に、奪われて。
ノアドラの攻撃によって生まれた違和感は、プファーの自信に亀裂を生じさせて、彼女から余裕を消し去っていた。
ノアドラが己の握った刀を振り抜く。
「……なるほど。そういうことか」
しかし、身が軽くなった故かプファーが驚いて仰け反った故か、その鋒は彼女の顎先をギリギリ掠らなかった。
「……はは」
振り抜いて、ノアドラは何故か笑う。
「……わっけわっかんない」
プファーはその笑みに異常な気味の悪さを感じつつ、吸われたのならまた出せば良い、とプファーは再び金色の翼を広げる。
そして刀を振り翳すノアドラ。先程は下から上に向けて斬り抜く下段の構えだったが、今度は上から下に刀を振り下ろす上段の構えだ。
「……」
なんということはない。形が違っても、彼に何ができるものとは思えないからだ。
(……さっきビビったのは雰囲気に気圧されたからだ。ていうか戦闘中に笑うなよ気持ち悪い)
そう、強くノアドラを睨みつけて、プファーは翼をノアドラに叩きつ――
――また、消失する。
「……なっ……!?」
今度こそ、彼女は本気で戸惑った。
「それ」が見えたからだ。
瞬間、プファーの精神は恐怖に包み込まれる。
「何……なんで、あんたがわたしのを……ひっ!?」
見えてしまったから――彼女は、一目散に逃げ出した。
「ははははっ!」
嗤うノアドラが繰り出す斬撃――それは良く飛んで、背を向ける彼女の黄金を切り裂いた。
切り裂かれた黄金は床へと落下し、ノアドラが伸ばした黄金に吸収される。
攻撃してもその攻撃はどこかへ行き、逆にあちらの攻撃が凄まじさと威力を増して自分に直撃する。
「ぐっ……うええええん!」
今まで圧倒的な力で周囲を滅ぼしてきた彼女は、たった今遭遇した圧倒的理不尽に、己が内から湧き上がる悲哀の衝動を抑えきれずにいた。
逃げ出した――勿論速度は人間の出せる限界と比ではない――プファーの泣き顔を見て「それが食い物だ」と嘲笑うかのように、ノアドラも走り出した。
――先程までとは違ってやけにレユネルの脳を刺激する、人類とは別の何か強大な力の持ち主であるかのような笑みを浮かべて。
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