このパーティ、解散させたいんですが!

絹鍵杖

清楚魔王とあんみつ勇者 序章

第0話「人より多く命を殺したもの」

 ――むかしむかし、おおむかし。

 とても人は生きていられない、遥かな時代の出来事。

 仲間の死を嘆き、それを戦争の理由として祭り上げ、自分達の平和の為に敵を殺す。

 ヒトの歴史において最も愚かな「共食いの時代」があった。

 剣は敵を斬り殺すためにあり、銃は剣で迫ってくる敵を撃ち殺すため、爆弾はそれらの手間を省くため。科学は戦争のために発展した。

 人類にとって戦争とは何か。――生きるために行われる行動そのものである。

 ヒトの腕は武器を手にするためのパーツであり、手先は食事のために箸やスプーンの使い方を覚える必要がない。足は移動手段や敵の攻撃を躱すことに使われ、また、手よりはよっぽど殺しの役に立つ。人類は戦いの中で技術というものを磨いた。

 人類の敵は何だ。――人類だろう。

 英雄、軍人、傭兵、殺人鬼。暗殺や隠密行動の代名詞である忍者は勿論、名の通った人物の尽くが人殺しの技と共に有り、武器を持たぬ存在、手にすることを禁忌とする筈の政治家や聖者でさえ、血生臭い武勇伝と自分の現在とを乖離することはあり得ない。

 人類は何のために存在している。――戦争に使われるガソリンだ。

 またこの世界は、争いの火種において尽きることはなかった。

 二国間の戦争において、どちらかの国が戦争に勝てばその勝利した国の中で国の分裂が始まり、例えば穏健派と過激派に別れて新たな戦争が生まれる。

 人類にとっての幸福とは。――こうふく? 降伏などあり得ない。

 DNAにでも刻まれているのだろうか。或いは、彼らの心には「平和」という概念そのものが欠如しているのかもしれない。

 そんな――――地獄。圧倒的な、想像も、夢も、不意に突然口にするまでもない地獄が、その世界には顕現していた。

 人々は日々生き残ることだけを望み、しかし知らないが故に平和を望む者など皆無。そんな絶望しか残されてはいない文明滅びの時代に、


 突如「それ」は、人類変革の使者として落ちてきた。


 隕石衝突であるとか、火山噴火とか、天変地異、世界の寿命――そんなわかり易いものではない。

 たった一雫。赤ん坊の小指の爪の先ほどもない、水滴のようなものが大地に落ちた。

 どうしてその存在が世界に生まれたのか、よりにもよって何故この世界に落ちてきたのかもわからない。

 しかしこの世界は、そのたった一滴の雫、「滅素」という新種元素の発生によって、当時の最大数、虫よりも多く、ハムスターよりも共食いを繰り返す余裕のある人類が絶滅の危機に瀕してしまうほど、追い詰められる事となる。




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