七福涼香の恋路③
私は、七福涼香。
私の世界はいつだって輝いている。
私の世界は……わた……わたたたたたたたた
「……大丈夫? 七福さん」
「あひぁ!? あ、あの。うん、ちょっと待ってね。緊張しすぎて、頭ごちゃごちゃで」
そう、私の世界はちょっとヤバイくらい輝いている。輝きすぎて、もう何も見えない。何が何だかわからない。
お昼前の講義が終わり、ダメ元で翔也くんをお昼ご飯に誘ってみた。多分、今日もお弁当持ってきたからと断られるのだろうと思っていたのに、「あー、いいよ」とあっさり承諾された。
「そっかー! じゃあ、また今度ねー!」と教室を出たところで、OKされたことに気づいた私は必死に翔也くんの元にカムバック。
夢じゃないのかと自分のほっぺたを鬼のようにつねった。
あまりの意味不明な行動に翔也くんは戸惑っていたが、彼はスマートに素敵なレストランに(大学の食堂)にエスコートしてくれた。カッコいい。好き。
「で、でも。今日は、翔也くんお弁当じゃなかったんだね。妹さん作ってくれなかったんだ?」
「あー、なんか今日は寝坊したらしい。昨日、遅くまで通販番組見て爆笑してたし」
「へ、へー。変わった妹さんだね。名前なんていうの?」
「……わら子?」
「土御門わら子……へー、名前も変わってるねー」
翔也くんの返答が疑問系だったのが少し気になるけど、とりあえず深く考えないでおこう。
それより、学食のうどんをすする翔也くん、レアだ。カッコいい。盗撮していいかな。
「ねえ、翔也くんのうどん食べてるとこ盗撮してもいい?」
「……聞いたら、そもそも盗撮じゃないんだが」
「あっ、そっか! あと、ここまでの会話全部録音してるんだけど、大丈夫?」
「いやいや、なんで? 大丈夫?とか確認する前になんで録音してるの?」
それは、あなたのことが好きだから……なんて、とても言えない。難しい、乙女心。
でも、ファイトよ涼香。いっそのこと、このまま気持ちを伝えてもーー
(翔也様。この小娘、だいぶおかしいです)
「んあ!? な、なに? なんか、いきなり声が聞こえたけど!?」
「……いやー、気のせいじゃないか? 俺には何も聞こえなかったが」
……幻聴? びっくりしたー。あまりにも緊張しすぎて色々とおかしくなってるのかも。気づいたら、なんか気難しい顔して翔也くん小声で怒ってるし。
……私といるのつまんないかな?
「あ、あのさ。ごめんね、私なんかとご飯食べてもつまんないよね?」
「いや、ある意味面白いけど。返答に困ることは多いが」
翔也くん、優しい。私に気を遣ってくれてる。もっと楽しい雰囲気作らなきゃ。
そう、話題。何か話題をふろう。
……といっても、何の話題がいいんだろ。
まあ、当たり障りない話題を連打しよう。数打てば当たるはず。
「あ、翔也くんって映画とか好き? 今さ、大谷監督のーー」
「ああ、大谷監督の新作ね。今作は人気とかガン無視して演技派の俳優集めてアンサンブルとリアリティを追求したスーパーナチュラルの雰囲気を売りにしてる。ここにきて、本気を見せてきたって感じがするな。そっち方面に完璧に振り切りながらも繊細な演出が目立つし、何より創造性のーー」
どうしよう。一発で命中しちゃったみたい。早口で好きなものを語る翔也くん、かわいい。
でも、意味わかんなすぎてお経みたいに聞こえてきた。何言ってんだろう、この人。
まあ、翔也くん楽しそうだからいっか!
「ーーというふうに、唯一無二という言葉をそのまま表したような作品なんだよ。それで、七福さんはもう見たの?」
「えっ、えっとー。私は、これから見ようかなと」
「なるほど。七福さん、今日の夕方空いてる?」
「あ、うん。午後の講義終わったら暇だけど」
「よし、見に行こう」
……ん? 見に行く?
あ、翔也くん見に行くのかな?
「近くの映画館でいいよね。駅前に17時集合でどう?」
「……集合? 誰と誰が?」
「いや、俺と七福さんが」
「……なんで?」
「だから、一緒に見に行こうって話し。あ、ごめん。嫌だった?」
ふむふむ、なるほど。
私と翔也くんが、一緒に映画。要するに、デート。
……デート!?
「い、いい、嫌なわけないです! 映画見たいです!」
◇◇◇◇
結局、午後の講義サボって新しい洋服を買いに来てしまった。私は、このデートに賭けている。もう、命を賭けている。
でも、すごい可愛い服買えてよかったー。
あとは一回帰って、シャワー浴びて。髪型も可愛くしよう。翔也くん、どんな髪型が好きかな。新しいヘアアイロンも買っちゃおうかな。
えへへへへ、楽しみーー
"プルルルルル"
……着信?
誰だろ。なんか、通知欄に名前出てないし。バグかな。
「はい、七福です」
「……私、メリーさん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます