七福涼香の恋路①

 私は、七福涼香しちふくりょうか

 私の世界はいつだって輝いている。


 花が咲いていれば、麗しく。

 風が吹けば、くすぐったい。

 小鳥のさえずりは、愛の唄。

 ふわふわマシュマロは、天使の味。


 ほら、世界はこんなにも綺麗なの。そして、この世界の中で一番素敵なものって知ってる?


 そう、恋愛。男と女が紡ぐ、一つの奇跡。


 そして、私は今まさに恋をしている。


 想い人は、今日も一番前の席で馬鹿真面目に講義を受けている土御門翔也くん。

 そして、これからお昼時。今日こそは、翔也くんをお昼ごはんに誘うの。そして、そのままふわふわ時間に入るのよ。頑張れ、涼香。


「あ、あの……」


「……? はい?」

 

「その、良かったら……お昼ご飯一緒に食べに行ったりしない?」


「あー、ごめん。今日、弁当家から持ってきてんだ」


 普通に断られた。

 もう、無理。私の一生分の勇気使い切った。

 

 というか、翔也くんがお弁当を持ってきた?おかしい。そんなこと、今までなかったのに。

 

「へ、へー。珍しいね。いつもカップ麺の翔也くんがお弁当なんて。あ、まさか、手作り弁当だったりして! なーんてっ!」


「まあ、作ってもらったやつだけど」


 はい、終わった。終わりました。

 翔也君、一人暮らしだよね。なのに作ってもらった弁当って、もうそういうことだよね。


 ……ちょっと、待って。まだよ、涼香。

 諦めちゃ、ダメっ! まだ、可能性はあるっ!

 

「あっ、わかった! お母さんが家にきてるんだっ!」 


「いや、俺母親は昔に死んでるから」


 はい、終了。解散。恋のキューピットさん達、お疲れ様でしたー。

 しかも、微妙に重たい返答で変な空気になっちゃったし。


 ……私、なにしてんだろ。一人で舞い上がって。大体ほとんど話したこともないし、私の名前すら知らないかもしれないのに。

 

「ご、ごめんね、嫌なこと聞いちゃって。でも、そっかー。そういうことかー。なんか、おかしいなとは思ってたんだ。シャツはアイロンかかってるし、使ってる柔軟剤も変わったよね?」


「なんで知ってんの……?」


「家事ができる彼女さんで、し、幸せ者だね! お、お幸せ……に……ね」


 だめだ、だめだ、だめだ。泣くな、涼香。

 まだ始まってもいなかったじゃないか。こんな喪失感を抱く方がおかしいんだ。


 ……いや、おかしくなんかない。

 それくらい、私本気で……


「あのさ、何か勘違いしてるけど。俺、彼女なんていないから」


「……え?」


「あー、……妹が、家来てるだけだよ。そんで、最近色々世話してもらってる」


「い、妹さん……?」


「悪いけど俺ゼミの先生に呼ばれてるから、もう行かなきゃだわ。またね、七福さん」


「あ、うん。行ってらっしゃい」


 えっと、なんだ。よくわかんない。

 わかんないけど、とりあえず言えること。


 翔也くん、私の名前知ってた!

 えへ、えへへへへへへへへっ!

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