第177話 思いがけないこと

 ヨテヅさんたちに見送られながら、コ―ウェンの街を出発した僕たち。

 そして向かった先は副王都。

 ……うん、今回はジギムをホツエン村に帰すのが目的だったからね。

 また、王国全体の立て直しで忙しくなるはずのところ、僕のために貴重な時間を割いてくれたレンカさん。

 それに、快くレンカさんを送り出してくれた王弟様たちの厚意に応えるためにも、今度は僕がみんなに協力する番だろう。

 というわけで副王都に着いたら、バッシバシみんなの手伝いをしていくつもりである!

 ただまあ、僕にできることっていうのがどの程度あるのかは分からないので、気持ちばかりが空回りしないように気を付けたいところだ。

 あと……やっぱりね……レンカさんにふさわしい男だって、ちょっとでもみんなに認めてもらいたいからさ……

 そんな考えもあって、気合が入っているのだ。


「ふふっ、ノクト君……そんなに気負わなくても、叔父上をはじめとして皆、ノクト君のことを認めているさ」

「そう……でしょうか?」

「ああ、もちろんだとも……むしろ、ノクト君の戦闘能力に皆が頼り切りになるのではないかと、そちらのほうが心配になってくるぐらいだよ」

「そんなそんな……僕もまだまだ修行中の身ですから……それに、この剣の出力も下がってしまっているわけですし……」

「まあ、私の見立てでは、そうだな……ノクト君の剣の腕は王国でもトップクラスになっているといえるだろうから、もっと自信を持っていいと思うぞ? それに、先日の戦いのときより出力が下がっているとはいえ、その剣が名剣であることには変わりないのだから」

「お、王国でもトップクラス!?」


 それなりに僕も腕を上げているつもりではあるが、さすがにトップクラスといわれるとビックリしてしまうね……


「そうとも……そして、私とトップの座をこれから争っていくというわけだな! というわけで、お互い頑張っていこうじゃないか!!」

「トップの座を……なるほど、分かりました! これからさらに努力を重ねて、レンカさんの期待に応えて見せましょう!!」

「ふふっ、頼もしいな!」


 そんなこんなで副王都までの道のりを馬車に揺られながら、決意を新たにしていたのだった。

 そして……副王都に着いてから……思いがけないことが起こった……

 それは何かというと……


「おめでとう、ノクト君! 今日から君は子爵閣下だ!!」


 副王都に到着し、王弟様に帰還の挨拶をしようとしたところ……かけられた第一声がそれだった。


「あの、えっと……子爵閣下……ですか?」

「ふむ……ドラゴン討伐の功績により、叙爵といったところでしょうか?」

「そういうこと! まあね、この街のみんなもドラゴンの姿を目にしていたし、実際にドラゴンの首を落としたのもノクト君だからね、ちょうどいいかなって!!」


 なんていうか……僕の想像を超えた話が展開されていっているんだけど……

 それに「ドラゴンステイヤー」とか……みんなちょっとした悪ノリでいってただけじゃないの?

 しかも、ドラゴンを倒したのは僕だけの力じゃないし……


「あ、あの……ドラゴンの首を落としたとはいえ、あれは僕だけの力ではなく、みんなで力を合わせた結果なのでは……」

「そうだね、力を合わせたのは確かだ……でもね、ノクト君がいなければ、おそらく全滅して終わっていただろうね……まあ、ギリギリあり得るとするなら、僕とファーレンが命懸けの一撃を放って相打ちを狙うってぐらいかな?」

「うむ、それだけドラゴンに止めを刺すのは難しいことであり……それをノクト君はやり遂げたということだ」

「そ、そうですか……」

「ま! 今すぐ領地経営を始めろだなんていわないから、その辺は心配しなくていいよ!!」

「なるほど、領地を持たない宮廷貴族ですか……確かに、そのほうがいいでしょうね」


 正直、叙爵というだけで頭がパンクしそうになっていた……

 それでさらに領地経営までとなったら……もう、パンクしそうってレベルでは済まず、物理的に頭が弾け飛んでいたんじゃないだろうか……

 そのため、領地を持たなくていい宮廷貴族っていうのはありがたい限りだ。

 とはいえ……宮廷貴族っていうのも、それはそれで大変なんじゃないかとも思うんだけど……


「それにさ……結局のところ、成人してファーレンと婚姻を結ぶまでのつなぎみたいなものだし?」

「……ッ!!」

「婚姻……」

「ハハハハハ! 赤くなっちゃって……2人とも、実に初々しいもんだねぇ~」

「それは……その……」

「叔父上……からかうのはおやめください」

「いやいや、それは無理な相談というものだよ! ……とはいえ、ここにルクルゴ君もいれば、この楽しさを分かち合えただろうに……それが残念で仕方ないね……」

「ルクルゴさん……」

「まあ、ここにルクルゴがいれば、おそらく叔父上と同じような表情を浮かべていただろうな……」


 そうだね……ルクルゴさんのことだから、ニヤニヤしながらイジってきただろう……

 ……ねぇ、ルクルゴさん?

 なんて思いながら、心の中でルクルゴさんに呼びかけてみるが……返事はない。

 でも、ルクルゴさんの表情だけは頭に浮かぶので、それだけで我慢しておこう……

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