第172話 お墓の前で
戦い終わって、僕はジギムの遺体をホツエン村に帰すことにした。
そこで、今回ジギムが副王都で起こした騒ぎに関していうと、ジギムの名前は伏せられることとなった。
このことについて世の中の人々は、これまでにも多くの街や村がモンスターの襲撃を受けて壊滅してきたこともあって「またか」とか「とうとう副王都でも起こったか」といった反応を示したに過ぎなかった。
こんな様子のため、これから先ジギムや……おそらくクヨウさんのことも気付く人はいないだろうと思う。
ただ、副王都に住んでいた人々は遠目に腐敗したドラゴンの姿は目にしていたので「ドラゴンに襲撃を受けた!!」という驚きそれなりにあったようだ。
とまあ、副王都の様子としてはそんな感じだね。
そうして僕は、ジギムを連れてホツエン村に向かった。
このとき、レンカさんも一緒に来てくれた。
レンカさんとしても副王都……いや、それどころか王国全体の立て直しに忙しいはずだが、貴重な時間を割いて僕と一緒してくれるわけである、とてもありがたい。
そのことについてレンカさんにお礼をいうと……
「ノクト君を独りにはしておきたくなかったからな……」
なんて言葉が返ってきた……
うぅむ……レンカさんに心配をかけさせてしまっているなぁ……申し訳ない限りだよ。
とはいえ僕自身、ジギムを失ったという心の傷がとても大きいことを自覚しており、きっとレンカさんが傍にいてくれなかったらどうにかなってしまっていただろうと思う。
だからこそ、レンカさんに対するありがたさがこの上なく溢れてくるというわけだ。
そんなふうに僕が思っていると……
「私も、ノクト君と同じように姉上や家族……大事な人たちを失ったからな……私こそ、ノクト君と一緒じゃないとそれらの現実に押し潰されてしまうだろうさ……」
こんなことをいうんだ……
でも、レンカさんは僕なんかよりずっと心が強い人だろうから、きっとそんなことはないだろうと思う。
ただ、心が強いとはいっても、悲しみを感じないわけではないだろう。
だから、僕が傍にいることで少しでもレンカさんの悲しみを和らげることができたらと願うばかりだ。
そうして僕たちはお互いの心を慰め合いながら、ホツエン村へ向かうまでのあいだ馬車に揺られているのだった。
「ここがホツエン村……そして、ノクト君の故郷というわけか……」
「そうです……ただ、僕が住んでいた頃の賑やかさはありませんけどね……あはは……」
そんな自嘲気味な渇いた笑いを漏らしつつ、レンカさんと共にホツエン村の中を数年ぶりに歩く。
そして、父さんや母さん……それから村のみんなが眠るお墓の前に来た。
ひとまずそこで、父さんたちや村のみんなに挨拶をした。
そうして挨拶が済んだら……次は……ジギムを埋葬する……
「ノクト君……私が一緒だ……」
「はい……ありがとうございます……」
ちょうどルゥの隣が空いていたので、そこに穴を掘る。
このとき、おそらくレンカさんなら地属性の魔法を使って簡単に穴を掘ることができたのだろうと思うが……それでも、自らの力で穴を掘ろうと思った。
こうしてスコップを使って、丁寧に穴を掘っていった。
「……それぐらいでじゅうぶんではないか?」
「ええ……そうですね……」
穴を掘ることに没頭していたところ、レンカさんに声をかけられて意識が現実に戻ってきた。
もしレンカさんに声をかけられいなければ、このまま日が暮れるまでずっと掘り続けていたかもしれない……いや、日が暮れてすら気が付かない可能性もあったかな?
それはそれとして、穴を掘り終えた。
そして、ジギムの遺体を納めた。
「ジギム……安らかに……そしてもう、ルゥには逢えたかい?」
そう声をかけると……
『おうよ! 早速お茶会ごっこに付き合わされてるところだぜ!!』
『そうなの! 今、ジギムちゃんと一緒にお茶会ごっこをしてるんだぁ』
ジギムとルゥの声が聞こえた……
そしてどうやら、ジギムは無事ルゥと再会を果たせたようだ……
よかった、よかった……
ああ、そうだ……返事をしておこう……
「そっか……楽しそうで何よりだよ……」
『ま! 何十年先になるか分かんねぇけど、お前もそのうち一緒にやろうぜ!! ……といいつつ、俺としては隠形ごっこのほうがいいんだけどな!!』
『もうっ! ジギムちゃんったら!! ……それはそうと、ノクトちゃんはゆっくりでいいからね? 私たちはこうしての~んびり待ってるから!!』
『そうそう! それまではレンカって姉ちゃんと楽しく暮らしてたらいいんだからな!!』
『ノクトちゃんなら大丈夫だと思うけど……レンカさんをい~っぱい幸せにしてあげるんだよぉ!!』
「うん……頑張るよ……」
『……ハァ? 頑張るだぁ!? お前はドラゴンスレイヤーの勇者様なんだからな! そんな低い志じゃ全ッ然ダメだろ! ここで幸せにするってガツンと誓いやがれ!!』
『そうねぇ……王女様と結ばれるんだから、もっと頼もしい感じを見せてもらいたいなぁ?』
なんか、若干イジり始めてきているようにも感じるけど……
でもまあ、2人のいうとおりでもあるのかな……
「うん、分かったよ……」
そうして、隣にいるレンカさんのほうを向いた……
「……ノクト君?」
「えっと……その……」
改めてレンカさんを見つめてみると……あまりの美しさに言葉が詰まってしまう……
『ほら、ノクト! 男らしく決めんかいッ!!』
『ノクトちゃん! しっかり!!』
2人の激励が脳内に響き渡る……
「レンカさん……僕は! 一生をかけて……レンカさんを幸せにすると誓います!!」
「ノクト君!? ………………う、うん…………私も……ノクト君を幸せにすると……誓います」
今さらながらに、友達のお墓の前でどうかとも思ったけど……これがレンカさんにプロポーズした瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます