第170話 本気でルゥを守るつもりだった!

「そこを! どいてくれぇッ!!」

「ガッ! ハァ……ッ……」

「……よし! これで!!」


 ようやく! 行く手を阻むモンスターの群れを抜けることができた!!

 あとは! ジギムが杖をつかむのを止めるだけ!!


「ルゥ……俺はぁ……」

「ジギム! 駄目だッ!!」


 今! ジギムが伸ばした手をつかんで、止めることができた……!!

 危なかった……

 あと少し遅れていれば、ジギムが伸ばした手が杖に届くところだった……


「放せぇ……この杖がなければぁ……証明ぃ……できないだろぉ……」

「放すわけないだろ! ……それよりジギム! 本当に目を覚ませ!!」

「うぅ……うっ……」


 なおもジタバタともがこうとするジギム……


「ジギム!! 僕の目を見ろ!!」


 剣をいったん置き、空いた手でジギムの顔を上げさせ、こちらを向かせた。


「ジギム……ようやく、目が合ったね……?」

「……うぅ……ノクト……」

「もう……もう、無理しなくていいんだ、ジギム……」

「……ノクト……ノクトォ……」

「そう……大丈夫だ、ジギム……」


 ジギムの目を見て、心を込めて語りかける……

 すると、今まで険のあったジギムの顔が、少しずつ和らいでいく……


「ノクト……」

「うん、ゆっくりでいいよ……」


 そして少々時間はかかったものの……ジギムの表情は穏やかなものになった。


「やっと……僕の知ってるジギムが戻ってきてくれた……みたいだね?」

「……ノクト……俺……」

「うん、分かってるよ……ジギムは今まで、とっても悪い夢を見ていたんだ……」

「……違う……そうじゃないんだ……俺は……俺は、自分のやったこと……本当は全部、分かってるんだ……ルゥは……ルゥは! 俺が死なせたんだッ!! ……でも、そんなつもりじゃなかった! あのとき! あの瞬間まで! 本気でルゥを守るつもりだった! ……でも……でも、あの瞬間……とっさだった……自分でも無意識だった……いや、本当のところは……心の奥底では自分の身のほうがルゥより……大好きだと思っていたルゥより……大事だったのかもしれない……」


 そういいながら、ジギムの瞳からとめどなく涙が溢れてくる……


「ジギム……あのときのジギムと同じ立場になったら、誰だって同じことをしたかもしれない……僕だって、そうだったかもしれない……」

「どうかな……ノクトだったら……きっと上手くやったはず……あのとき、ノクトだったら……」

「ジギム……そう自分を責め過ぎないで……」

「いや……俺は、卑怯な奴なんだ……自分の罪をなかったことにするため……さっきお前にいわれたとおり、自分に都合のいい……『ルゥが命を懸けて俺を守ってくれた』ってストーリーを作って……それを自分自身に信じ込ませた……そうやって、自分自身の弱っちぃ心を守るしかなかった卑怯で情けない奴なんだ……そして、ホツエン村がモンスター共の襲撃を受けた真相を知ってからは、全てをクヨウ兄ちゃん……いや、姉ちゃんだったか……とにかく、あの人のせいにしようとした……あの人のせいにして、ファーガレモス打倒に燃えているあいだだけは自分の醜さに目を向けずに済んでいたからな……」

「ジギム! 分かった! もう分かったから! それ以上、自分を責めちゃいけない!!」

「ハハッ……あの人のこと、何度も『カス女』っていってたけど……実際のところ一番のカスは、この俺だったってわけさ……」

「大丈夫だよ……きっと、クヨウさんも怒ってないし……ジギムはカスじゃない……ただ、進む道を一つ間違ってしまっただけ……でも、その間違いに気付いて戻ってきた……だからもう、自分を責めることなんてない! これから新しい道を歩み直せばいいだけなんだからさ!!」

「新しい道を歩み直せばいい……か……ハハッ! それができたら、どんなにいいだろうなぁ……でも、もう……無理だろうなぁ……」

「無理なんかじゃないさ! そうだ! これから、僕たちでホツエン村を再興させようよ! 今、コ―ウェンの街にヨテヅさんたちもいるしさ! お願いしたら、手伝ってくれるかもしれないし!!」

「ホツエン村を再興か……そんなこと、できたらいいだろうなぁ……」

「できたらじゃなくて! 僕たちでやるんだよ!!」

「そう……だなぁ……」


 そういいながら、ジギムは弱々しい笑みを浮かべるだけ……

 と、そのときだった……


『ノクト殿! オーガが背後に!!』

「えっ……?」


 脳内に響くルクルゴさんの声に反応し、後ろを振り向くと……確かに、オーガが飛び掛かってきていた。

 加えて、金棒を振りかぶりながら……

 マズい……剣を……!

 えっと、さっきここに置いて……

 このとき、どうにも世界がスローで進んでいたように感じた……

 ただ、そんな緩慢な僕の動きに対して、素早く動く者がいた……


「ジギ……ム?」

「おらぁ……ッ!!」

「ガッ……ァ……!」


 どこにそんな力が残っていたのか、ジギムは杖を握りしめ……オーガの喉元を一突きし、そのまま貫いていた。


「ハハッ! ノクト……今度こそ……俺は、間違わなかった……ぞ!!」

「ジギム! その杖……何やってんだよッ!!」


 握りしめた手から、杖はさらにジギムの生命力を吸い取り始めた……

 ジギムの萎んでいく体が、そのことを示していた……

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