第152話 ドラゴンの執念
どうやら僕は……夢を見ていたようだ。
ルゥとお茶会ごっこ……いや、ちゃんとお茶を飲んでいたし、お茶会をする夢といっていいだろう。
そして、夢の中ではいろいろとあやふやな感覚だったから気付かなかったけど……体だけが成長して気持ちがホツエン村にいたままの状態だったから、ルゥのことを小さく感じたんだろうね。
まあ、それはそれとして……ルゥのお願い……
「ふむ……『ジギムちゃんを助けてあげて』……か……」
夢の中の僕は、あの日ジギムがしてしまったことを……いや、たぶんあの日以降の出来事を忘れていたのだろう。
だからあんなふうに、あの頃のいつもどおりの反応ができたのだろう……そうでなかったら、きっと僕は言葉に詰まっていただろうから……
それで、ジギムのことだけど……これまで、時間があるときはなるべく探すようにしていたし、訪れた街や村の中を歩くときとかも気にはしていた。
にもかかわらず……ずっと見つけることができなかった。
そのため、正直なことをいえば「もうジギムは……」って最悪な考えが頭に思い浮かんだことだって何度もある。
そのたびに「いや、そんなことはないはず!!」と自分に言い聞かせてきた。
でも、ルゥがああして僕の夢に現れてお願いしてきたってことは……きっとジギムは無事なんだ!
ただし、無事なんだけど、助けを必要としている状況ではあるのだろう。
そうであるなら、助けに行かなくちゃだ!
もちろん、ルゥからお願いされていなかったとしてもね!!
あと、ベストな形で止めることができなかったのは悔やまれることだけど……それでも、街や村がこの先モンスターの襲撃を受けることはないだろう……
そう考えると、これからジギムを探すことに集中することだってできるはず。
「よし! 決めたぞっ!!」
「おはよう、ノクト君……『決めた』っていうのは、何を決めたのかな?」
「あっ、レンカさん! おはようござい……ます? えっと、そういえばここって……」
「サットワーズだ……まあ、移転後のほうだから、新サットワーズとでもいったほうが分かりやすいかもしれないな」
「やっぱり、そうだったんですね……」
見た夢の内容を思い返すことに意識の多くを向けていたけど、周囲の光景が視界に入っていなかったわけではないからね。
そんなわけで、もしかしたら……っていう気はしていたんだ。
なんていうか、やっぱりオークの集落だからさ、人間族が作るような建物の感じとは違うんだよね……全体的なサイズ感とか特にだし。
とまあ、それはともかくとして……荒廃のドラゴンを倒したあとのことを聞いておきたいよね。
あの瞬間に僕は気を失ったので、そのあとのことが全然分からないしさ……
「それで、レンカさん……僕はあの瞬間気を失って、あとのことを全く覚えていないんですけど……レンカさんはどこまで覚えていますか? 新サットワーズに僕たちがいることも含めて教えてもらえると嬉しいです」
「そうだな……まず、あの瞬間に何が起こったかというと……私の推測になるが、荒廃のドラゴンが自爆した」
「自爆……ですか?」
「ああ、おおかた『誇り高いドラゴン族の自分が、人間族ごときに敗れるなどあってはならない!』とでも考えて、体に残されていた力を爆発させて私たちを道連れにしようとしたのだろう」
「く、首を落としたというのに……ドラゴンともなると、そんなことができてしまうんですね……」
「うむ、ドラゴンの執念……なんとも恐ろしいものだ……」
「ええ、まったくですね……」
「それでな、荒廃のドラゴンが自爆に使った力があまりにも強大過ぎたものだから、私はあのとき自分が持っていた魔力の全て……さらに、普段は使わないような体の奥底に眠っていた魔力も注ぎ込んで防壁魔法を展開したのだ」
「えっ! それって……レンカさんの生命力を削ったってことじゃないですか!?」
あの日、父さんは生命活動の維持に使う魔力をオーガとの戦いで使い切ってしまったから命を落としてしまったんだ……レンカさんは、そんなとっても大事な生命力を削ってしまったというのか……
「う~ん、そこまで大げさなことにはなっていないから心配しなくて大丈夫だよ。ただ、日常的に使う魔力ではないのも確かだしなぁ……まあ、いうなれば魔力を前借りしたといったところだろうか……とはいえ、タダで前借りできたわけでもなくてな、防壁魔法を展開するだけして私も気を失ってしまい、そのまま数日ほど経過してしまったというわけだ」
ということは、レンカさんみたいにもともと魔力が豊富な人にとっては、そこまで生命力を削る方法ではなかったのかもしれない。
そして、父さんみたいにもともと魔力をほとんど持っていない平民にとっては、生命力を削る危険な方法となってしまったのだろう。
「そ、そうだったんですね……なんにせよ、レンカさんの生命力が削られていなかったのならよかったです……」
「まあ、この技は段階を踏んで習得していくもので、完全に習得していない段階では生命力を削ることになっただろう……だから、ノクト君が心配するのも理解できることではある」
なるほど、父さんは完全に習得してはいなかったのか……いや、父さんにその技を教えてくれた人がそこまでの段階に至っていなかった可能性も考えられるだろうね。
いずれにせよ、父さんが完全に習得していれば命を落とすこともなかったのかもしれないのか……
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