第94話 たとえ夢でも
「それじゃあ、またな!」
「帰ってきたばかりで疲れているでしょうから、ゆっくり休んでね?」
「はい! それでは、おやすみなさい!!」
夕食を終えて、ヨテヅさんとササラさんが家に帰って行った。
そして、僕らも部屋に戻った。
そんな感じで部屋に男2人となったところで、ルクルゴさんが口を開いた。
『ヨテヅ殿に、ササラ殿……お2人とも、とても爽やかな方々でしたな』
「そうなんですよ! ホツエン村から一緒に来た人たちみんな、それぞれ僕によくしてくれましたけど、その中でもヨテヅさんとササラさんには特にお世話になったんです!!」
『ええ、あの短い時間でそれをよく感じました……それゆえ、あのお2人にノクト殿のことを託された私は、より一層気を引き締めてノクト殿をお支えせねばと思いました』
「いえいえ、そこまで深刻に受け止めずとも……一応、形の上ではテイムということになっていますけど、僕には全くそんなつもりないですし……」
『ええ、ノクト殿はそれでも構いません……これはあくまでも、私の心構えですから……』
そう語ったルクルゴさんの穏やかな表情に、なんだか癒しと安心を与えられた。
……やっぱり、ルクルゴさんのこういったところにも、サットワーズをまとめていた長らしさが出ているのだろうなって感じだよ。
いや、オークの表情まで分かっちゃうの? って思われるかもしれないけど、その辺はやっぱり感覚ってやつだね。
そうして寝る時間までのあいだ、ルクルゴさんとアレコレ語り合った。
『……さて、そろそろ寝ましょうか?』
「そうですね!」
『では、ノクト殿……』
「はい、おやすみなさい!」
……
…………
………………
『おう、ノクト! なかなか頑張ってるみたいだな!! さすがは俺の子だ!!』
『うすうすそんな気はしてたけど……やっぱり、フィルと同じ道を進んだわね……』
『ハハッ! まあ、当然ってやつだな!!』
『もう……私は、比較的安全な役人を目指して欲しかったのに……』
『まあまあ、ノクトにはバッチリ冒険者の才能があったってことなんだから、それでいいじゃないか』
『……親バカかもしれないけど、見てればそれぐらい分かったわ……でも、役人の才能だって、同じぐらいあったと思うのよね……』
………………
…………
……
「父さん! 母さんっ!?」
『……ノクト殿、どうされましたか?』
「……あ、えっと……ルクルゴさん? ……ああ、そっか……夢かぁ……」
『……ふむ、どうやら夢でご両親にお会いになられたようですな?』
「あ、はい……そうみたいです……あはは……」
『もしかしたら、昨日の私の言葉によってご両親のことが強く意識され、夢を見たのかもしれませんなぁ……』
「はい、その可能性はありそうですね……でも、たとえ夢でも、父さんと母さんに会えて嬉しかったです」
『おお、それはよかった』
こうして目覚めの朝を迎え、またいつものように早朝の剣術稽古に行く準備をする。
『……さて、着替えも終わり、準備が整ったようなので、そろそろ向かいましょうか』
「はい! 今日も一つ、よろしくお願いします!!」
『ええ、こちらこそ、よろしくお願いします』
なんて話しながら、宿屋の庭に出た。
そして、少しあとにレンカさんも到着。
「……おはよう、2人とも早いな?」
「レンカさん! おはようございます!!」
『おはようございます、レンカ殿』
「……ふむ、今日のノクト君は一段と元気がいいな?」
「あれっ、分かっちゃいました?」
「ああ、もちろんだ………………いつにも増して笑顔がかわいいからな……」
「……えっ?」
「ああ、いや……なんでもない……」
……レンカさんて、ときどきボソッと独り言をいうんだよね。
それはともかくとして、夢で父さんと母さんに会ったって話をレンカさんにもした。
「……ほう、夢か……ここしばらく家族の夢は見ていないなぁ………………兄上も、たまには私の夢に出て来てくれてもいいのに……」
「レンカさん……」
今の独り言は、さっきよりもバッチリ聞こえたけど……軽はずみに僕が踏み入ってはいけないところだね……
「……おっと、朝からしんみりした雰囲気を出してしまってすまなかったな! さて、そろそろ今日の剣術稽古を始めようじゃないか!!」
「はい! そうですねっ!!」
『ええ、私も準備万端整っております!』
そして今日も、早朝の剣術稽古が始まった……
それはまた、僕にとってスーパーハードな時間が繰り返されるということでもあった……
なんていうか、2人とも……僕が打倒オーガの目標を語ってから、勢いが凄いといえばいいのか、稽古の密度が圧倒的に濃くなったんだよね……
でもまあ、オーガを斬り伏せるためには、それだけ頑張んないとダメってことだもんね……
よっし、ファイトだ僕! 負けるな僕!!
『……おやっ? 先ほどより少しばかり剣の鋭さが増したようですな! その調子ですぞ!!』
「ふふっ、ノクト君……遠慮せず、ありったけの力を絞り出すといい! いくらでも私が回復魔法で回復させてやるからな!!」
「……は、はいっ!!」
……こりゃ、午前中はまた寝て過ごすことになりそうだよ。
とはいえ、レンカさんの回復魔法って温かくて気持ちいいから、それはそれで悪くないんだけどね。
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