第48話 与えられてる
「うんうん、今日も頑張ったみたいだねぇ」
「はい、気合一発、やったりました!」
「ふふっ、頼もしい限りね!」
「はい、僕は頼もしさ全開の男ですからね! でも、まだまだこんなもんじゃないですよ、これからもっとも~っと冒険者として成長していきますからね!!」
「あらあら、それは楽しみねぇ」
「ええ! 大いに楽しみにしていてください!!」
「うん、応援してるからね……でも、何度もいうようだけど、焦って成果を出そうとして無理はしちゃダメなんだからね?」
「はい! その点については、しっかりと心に刻んでおりますとも!!」
「うむ、よろしい!」
「はいっ!」
「……それから、今日の報酬も口座に入れておく?」
「そうですね、それでお願いします」
「分かったわ」
冒険者ギルドで受付のお姉さんとこういったやりとりをするのは、もう恒例みたいなところはあるけど……今日は特に意味があるといってもいい。
それは、後ろにいるヨテヅさんに、僕が冒険者としてちゃんとやっていけて心配する必要ないって思ってもらうためでもある。
まあ、それがどの程度伝わるかってことは未知数なところもあるけど、それなりには伝わるはず! そう思いたい!!
「今日の報酬についての情報も入力できたし、ギルドカードを返すわね」
「はい」
「それじゃあ、これからも体に気を付けてつつ、頑張ってね!」
「はい、ありがとうございます!」
こうして本日のモンスター討伐についての報告を終えた。
こんなふうに受付のお姉さんの笑顔に癒されながら1日の仕事を締めくくる……これこそが冒険者の男として正しい在り方なのだろうね。
そして周りを見渡せば、同じように報告を終えて癒された男たちの清々しい顔があっちにも、こっちにも……うむうむ、いい感じだね。
……なんて、のんきな気分に浸ってばかりもいられない。
宿屋に戻ったら……いや、夕食を終えたあとぐらいのほうがいいかな……とにかく今日! ヨテヅさんに話をするんだ!!
そう強い決意を持ったまま、宿屋へ戻る。
その後、しばしくつろぎの時間を挟み、夕食。
うぅむ……ヨテヅさんに話をしなくちゃいけないというプレッシャーのためか、今日の夕食はあまり味を感じないまま食べることになってしまったね……
まあ、それはちょっぴり残念ではあったが、仕方ないよね……なんて思いつつ、いよいよそのときがやってきた。
「……ヨテヅさん、ちょっといいかな?」
「うん? なんだ、改まって……?」
「ええと……その……ヨテヅさん……僕に黙ってることがあるよね?」
「まあ、俺も大人だからな……それなりに秘密は抱えているさ」
「……そういうことじゃなくてさ! いや、そういうことかもしれないけど! とにかく僕ね、この前の休息日に、工房のオッチャンから話を聞いたんだ!!」
「……ああ、やはりそのことか……あのオヤジ、余計なことを……」
「いや、オッチャンは悪くないよ!」
「……なるほどな、ここ最近お前の様子がおかしかったのは、俺のせいだったってわけか……それはすまんかったな」
「……えっ? 僕の様子がおかしかった!?」
「ああ、なんとなく……だけどな」
なんと、そうだったとは……不覚。
「まあ、お前のいうとおり、工房のオヤジから誘われている」
「……それも結構前からでしょ?」
「う~んと……そうだったっけかな?」
「まあ、時期のことはこの際いいとして……それよりもヨテヅさん、その誘いを受けたほうがいいよ!」
「……」
「ヨテヅさん……本当はモンスターの討伐とか好きじゃないでしょ?」
「……」
「それに、今日の僕の動きとかも見てもらって分かったと思うけど、僕ってもう、一人前に戦えるでしょ?」
「……なあ、ノクトにとって……俺は邪魔か?」
「えっ! なんでさ!? そんなことないよ!!」
「じゃあ、このままでいいじゃないか……工房のことは気にすんなって」
「無理だよ! 気になるよ!!」
「……そこまでお前が気にするなら、工房のほうは断って来ようか?」
「なんでそうなるんだよ!? ヨテヅさんにとっては、そっちのほうが絶対にいいはずでしょ!!」
「確かに、職人の道も楽しそうではあるが……お前と一緒に冒険者をやるのも楽しいと思っているぞ?」
「そういってくれるのは嬉しいし、僕もヨテヅさんと一緒がいいって気持ちはある……でも、そうやってヨテヅさんにずっと甘えたままなのもいけないと思うんだ! だから!!」
「………………そうか……そうだなぁ……俺もお前に甘えていたのかもしれないな……」
「え? 何が? ヨテヅさんは全然甘えてないでしょ」
「いや……俺は『今はまだノクトのために……』って思いながら……心のどっかでいろんなことから逃げてたんだと思う……自分に自信がなくて、職人の道やササラさんのこと……いろいろお前を理由に先延ばししてたんだと思う……」
「……」
「……先延ばしの理由にしてしまって……ごめんな」
「いや、そんなこと、全然いいよ! むしろ僕は、ヨテヅさんに与えてもらってばっかりで、何もできてないんだし!!」
「いいや……あの日から今まで、お前がいたから自分自身を保つことができたと思ってる……だから、俺だってお前から与えられてる」
「ヨテヅさん……」
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