第46話 もう少し待ってくれ
えっと……オッチャンがなんの用だろう?
これといった特別な接点もない……よね?
「……ああ、急に呼び止めてすまんかったな」
「いえ、それは構いませんが……用件はなんでしょう?」
「おお、そうだったな……話は、お前さんと一緒に冒険者活動をしているヨテヅのことだ」
「ヨテヅさんのこと……ですか?」
なんだろう……ヨテヅさん、なんかやらかしたのかな?
でも……顔はイカツイけど、心はナイスガイなヨテヅさんだからさ、変なやらかしはしてないと思うんだよなぁ……
「実はな……ヨテヅをうちの工房で職人として雇いたいと思ってるんだ」
「……えっ? えぇっ!? あの……ヨテヅさんを!?」
「おう、そうだ」
……急なことで、びっくりしちゃったね。
あのヨテヅさんをねぇ……
でもまあ、そうか……ホツエン村でも上手に木工細工とかしてたし、そういう能力はもともとあったってことかもしれない。
それに思い返してみると、一緒に参加した工事関係の作業中に監督とかからヨテヅさんが褒められてたこともあったし。
加えて、一緒じゃなかったときも、宿屋に帰って来てから現場で褒められたようなことをいってたもんね。
「うわぁ、ヨテヅさん……工房からスカウトだなんて凄いなぁ!」
「その反応……やっぱり、ヨテヅの奴……お前さんに話しとらんかったみたいだな……」
「えっ? ……はい、作業現場で褒められたとかそういう話はしてましたけど……スカウトされたみたいな話は聞いたことがないです」
「最初に話をしたとき『もう少し待ってくれ』といわれて……もう、だいぶ経つんだがなぁ……」
「えぇっ! そんなに!?」
「確か、お前さんらがEランクに上がる前には話をしたはずだ……」
うわぁ、ヨテヅさん……待たせ過ぎでしょ……
ササラさんのことだって、ゆっくりし過ぎだったし……
ほ~んと、ヨテヅさんってば何やってるんだよ、もう!
「……まあ、うちの工房に入っても、最初は見習いということで、今のEランクの稼ぎよりは少なくなってしまうだろうさ……それでも、アイツの才能なら、しばらく頑張ってくれれば一人前の職人になるのもそう遠い話でもないし……そうすれば、稼ぎだってしっかり安定するし……何より、今みたいな命懸けの危険はなくなるはずだ!」
「な、なるほど……」
ちょっとばかり、オッチャンの勢いに戸惑いを隠せなかったね……
「……おっと、つい熱くなっちまって、すまんな」
「いえ、大丈夫です」
まあ、もともとヨテヅさん、そこまで戦闘タイプってわけでもなかったからね……
僕の目から見ても、ヨテヅさんは職人のほうが圧倒的に向いてるだろうなって気はする。
「それでな……もしよかったら、ヨテヅを説得してくれんか?」
「説得……」
「そうだ、しっかり職人として働くことができれば、嫁をもらって養うこともできるし……お前さんだって、今みたいに子供のうちから無理に働く必要もなくなる」
……そっか、ヨテヅさんがなかなかオッチャンの工房に入ろうとしない理由が分かった気がする……僕のことを気にしてるんだ。
ヨテヅさんが職人としての修行を始めたら、どうやったってモンスターの討伐なんかしてる暇がなくなっちゃうからね。
そうなると、僕が独りになっちゃうと思ってるんだ……
それに、僕がおとなしくモンスターの討伐をやめるとも思っていないだろうし……まあ、実際やめるつもりないけどね。
ヨテヅさんめ……余計な気を遣い過ぎだよ……
加えていえば、ササラさんに対してもゆっくりだったのは……僕のせいだったかもしれないね。
きっと「ノクトが一人前になるまでは……」とか考えてるんでしょ、どうせ!
まったく、ヨテヅさんは……
「えっと、タイミングとかを見計らう必要とかもあるでしょうから、今すぐにというわけにはいかないと思いますが……僕からも話をしてみたいと思います」
「おっ! 本当か!? ありがとう!!」
「いえ……でも、僕が話した程度でヨテヅさんの意思をどうこうできるかっていうと……なんともいえません」
「ああ、それはもちろん分かっているさ、あくまでも決めるのはヨテヅだからな!」
「そうですね……」
「話はそれだけだ……邪魔して悪かったな!」
「いえいえ、お気になさらず」
「それじゃあ、頼んだぜ!!」
「はい」
そうして、工房のオッチャンは去って行った。
う~ん、一応請け負ったはいいものの……ヨテヅさんがすんなり聞くかというと……ね?
でもま、様子を見て、ここぞってときに話しをしてみよう。
それはそれとして……再び串焼きを味わうとしますかね!
なんて思いつつ、串焼きを頬張る。
「……うん、美味しいよ……美味しいんだけどね……すっかり冷めちゃったね……」
お肉大好きマンの僕にとって、少々冷めた程度ではどうということもないけど……
どうということもないけど……でもやっぱり! アツアツのほうがいいに決まってるよねっ!!
それからやはり、ヨテヅさんのことを思うと……どうしてもそちらに意識が向かってしまって、能天気に「お~いしぃ~」とかいってられる気分じゃないっていうのもあるだろうね。
そんなこんなで今日の街ブラは、少しばかり考えることの多い1日となってしまった。
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