第4話 冷静さが大事

「暗くなってきたし、そろそろ帰るか! あんまり遅くなると母ちゃんたちがうっせぇかんな!!」

「そうだねぇ~でも、今度こそ! ちゃんとお茶会ごっこをするんだからね!!」

「う~む……きちんとしたお茶会参加者となるにはもう少し……いや、もっともっと僕とジギムには学ばなければならないことがあると思うんだ……そんなわけでね、完璧なお茶会ごっこを成し遂げられるようになるまで、僕たちに時間をくれないかな?」

「そうだ! 時間をくれ!!」

「……そんなこといってぇ、お茶会ごっこをやらないための言い訳じゃないでしょうね?」

「ギクッ! ……い、いや、そんなことはないよ! 僕はね、やるからには徹底したいタイプの人間だからさ!!」

「……ふ~ん? ノクトちゃんったら、そうなのぉ?」

「いやいやノクト……『ギクッ!』とかいっちゃってんじゃん。しかも性格だって、割と適当っつーか大雑把だしよ……」


 ルゥは冷ややかな視線を向けてくるし、ジギムは余計なツッコミを入れてくる……

 ルゥはともかく、ジギムめ……『君はいったいどっちの味方なんだい!?』って小一時間ほど問い詰めたいぐらいだよ!!


「……さて、君たち! 楽しいおしゃべりの時間はここまでだ! なぜなら、それぞれの家族が僕らの帰りを待っているのだからね! それではアデュー! また会う日まで!!」

「あっ、ノクトちゃんが逃げた! んもう、仕方ないんだからっ!!」

「ノクト~! またな~!!」


 こうして僕らは家に帰る。

 うん、今日も楽しかったね!

 そしてそして! 父さんはホーンラビットを獲って来てくれたかな!?

 なんて期待に胸をときめかせながら家路を急ぐ!

 ……決してルゥから逃げるためではないのだ!!

 そんなこんなで家に到着。


「おう、帰ってきたかノクト! そんじゃあ、これを見ろ! じゃじゃ~ん!!」

「そ、それは! やったね父さん!!」


 父さんが誇らしげにホーンラビットを掲げている!

 やった! お肉が食べれるぞ!!

 ……いやまあ、元冒険者の父さんにとってホーンラビットなんて大した脅威でもなんでもないけどね。

 というか、油断せず真面目に戦えば、ぶっちゃけ僕でも倒せると思うし。

 ただ、村の周辺を僕ら人間のテリトリーとするため、今日の父さんみたいに森に生息するモンスターを大人たちが定期的に見回りながら狩っている。

 そうして今では基本的に森の浅いところにはモンスターがいないので、ある程度深いところまで入らないとホーンラビットが見つからないって感じなんだ。

 そんなわけで、倒すより探すほうが面倒といえるだろう。

 そして、今日という森の見回り当番の日にホーンラビット見つけることができた父さんはラッキーだったってわけだね。


「……そろそろ喜びも落ち着いてきたか?」

「うん、僕はいつでも落ち着いてるよ!」

「それでいい、冒険者には冷静さが大事なんだ……忘れんなよ?」

「僕、今のところ冒険者になる予定はないけどね?」

「いや、生きるってことはな、冒険なんだ……そういう意味では、人は誰しも冒険者なのさ」

「ひゅ~っ! 父さんカッコいい!!」

「フッ……まあな!」


 ホーンラビットという名のお肉を獲って来てくれた父さんなんだ、これぐらいおだててあげてもいいだろう。


「よし! それじゃあ、解体するから手伝え!!」

「……はぁ~い」


 ……クッ、調子に乗せて解体の手伝い免除を勝ち取ろうとしたが、それは失敗に終わった。


「なんだ、元気がないな? 調子が悪いなら、今日のところは肉を食うのはやめておいたほうがいいか……」

「はいッ! 何を隠そう『解体マン』とは僕のことですッ!!」

「おう、そうなのか! なら、ホーンラビットの解体を頼むな!!」

「なッ!?」


 ハメやがったな!? 父さん!!


「ん? どした?」

「いえッ! 早速解体に取り掛からせていただきますッ!!」

「おう!」


 まあね、前々から父さんに「冒険者ならできて当然!」って感じで解体作業の手順を仕込まれているからできなくはないんだ……あんまりやりたくないけど。

 毛皮は丁寧に剥がないといけないし、ただでさえ硬くて取り外すのに苦労する角も適当に放置できないしさ……

 なぜなら、この2つは税として領主様に納めなけれならないんだ……

 クソッ! なんでも取っていきやがる!! 

 ……っていうのは、特にこの時期になると村のあちこちで目にする怒れるオッチャンたちの言葉だね。

 まあ、僕もそう思うけどね。

 でも、父さんがいうには、ここの領主様はお肉まで全部、税として取らないだけ良心的なんだってさ。

 領地によっては、「干し肉にして納めろ!」って命令してくるんだって!

 目の前にお肉があるのに、食べられない……そんなのって酷過ぎるよ!!

 いや、加工の際にちょびっと残る部分とかを食べることはできるみたいだけど……そんなの食べたうちに入らないもんね!!

 ちなみに、隠したりとか不正はできない。

 定期的に調査のため領主様から役人が派遣されてくるからね。

 どんなに巧妙に隠しても、バレるんだって。

 そういうノウハウってものがあるらしい。

 なんとも恐ろしい話だよ。

 なんてことを頭の片隅で考えつつ、解体作業を進めていく。


「うんうん、ノクトもだいぶ上手くなったもんだな! これなら冒険者としてもやっていけるだろうよ!!」

「……そう?」


 別に冒険者になるつもりのない僕には、そこまで嬉しい誉め言葉ってわけでもないけど、かといって褒められて悪い気はしないね。

 また、父さんは自分が元冒険者だったせいか、しきりにそういった技術を僕に教え込もうとする。

 まあ、ジギムも似たような感じみたいだし、冒険者どうこうより村の男としての必須技能みたいなものかもしれない。

 それを父さんが適当に冒険者の技みたいにいってるだけでね。


「よし、解体も終わったみたいだし、そろそろメシにすっか!?」

「やったぁ! お肉! お肉ぅ~!!」

「……ノクト、お野菜もちゃんと食べるのよ? 体にとって大切だし、と~っても貴重なんだからね!」

「……は~い」


 そこにやってきた母さんの一言が、僕の高められたお肉へのテンションを沈静化させたのだった。

 ま、まあね……「冒険者には冷静さが大事」らしいからね。

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